第7話 回復魔法

「《ヒール》」


 その一言で、身体の痛みが徐々に和らいでいく。人前で、女子が腹を出すわけにもいかないから目視確認はできないが、おそらく踏みつけられてできたであろうあざもほとんど消えているはずだ。

 これが、平民である私が、本来貴族が通うエリシア中央学園に入学できた唯一の理由。


 (記憶を取り戻してから魔法を使ったのは初めてだ。なんかちょっと緊張した)


 使えると分かっていても、精神が前世の記憶に引っ張られているせいで、本当に発動できるか不安だった。

 ところで、このプリブスの世界において、魔法は使用者の魔力、ゲームで言うところのMPマインドポイントを消費して発動される。

 元がコマンドバトルのゲームであるためか、魔法陣を描いたり、長ったらしい詠唱をすることはない。ただ魔力を込めて魔法名を唱えるだけで術が発動する。


 (詠唱とか肝心な時に噛みそうで怖いし、なくて良かったぁ)


「バカな!? 無詠唱!?」

「なるほど」


 驚愕の表情を浮かべるシャルルと、何やら納得したような顔をするリゼット。

 主にシャルルの反応を見て、私は逆に驚かされた。


 (は? 待って、何その反応?! まさか……!)


「おそらく史上初になる回復魔法の無詠唱術師……どおりで特別推薦枠が使われるわけね」


 それまで私を冷たい目で見ていたリゼットの瞳に、少しばかりの光が差した。

 少しは私に興味を持ってもらえたようで何よりではあるのだが、この展開は私にとってもあまりに予想外だった。

 

 (普通は詠唱あるんかい!)


 前世の記憶を取り戻す前から、当然のように魔法を無詠唱で使えていたから、それが普通なんだと思っていた。

 それに、もしかしたらゲームのシナリオ上でそんな説明もあったのかもしれないが、前世の私が世界観の説明まで一々読んでいるわけがない。

 おかげで、自分の異常性に気づけなかった。

 

 (まさかこんな逆ドッキリみたいな状況になるとは思ってなった……。これが転生特典って奴ですかね? いや、主人公補正かな?)


 しかし、そうとなればアドバンテージをここぞとばかりに使わせてもらう。


「ベルナール公爵令嬢。いかがでしょうか? これで少しは、私にご興味をお持ちいただけましたか?」

 

 そして、私はリゼットの前で片膝をつく。


「どうか、私を貴方の下で仕えさせていただきたい。それのためなら、奴隷にでもなります」


 すると、リゼットは小さく息を吐き、真一文字に閉口する。

 それから少しの沈黙の後、彼女はめんどくさそうに言った。


「良いわ。少しだけ、お前を試してあげる」


 こうして、私はリゼットの仮奴隷となった。

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