6 キレた突風剣士

 受付の人に呼ばれたので、証明書を受け取りに行く。初回の発行は無料らしい。確かに、転職したり無くしたりすると何度か必要になるか。

 小さな名刺のような紙を受け取り、中身を見ながら椅子に戻る。内容はこう書いてあった。


 スキル名、ジョブ・キラー。ユニークスキル。

 条件を満たすと、絶大な力を得る。デメリットとして、一生職に就くことができなくなる。就くと辞めること以外できなくなる。


 ……おいおいおい、ざっくりしすぎだろ!? ちょっと簡単な説明すぎないか!? デメリットの方が長いぞ! というかリックさん流石にこれは偽装じゃないのか。大丈夫なのか。金髪のサラサラヘアーをかきあげながら、「なんとかなるだろ」と言っている彼が目に浮かぶ。


 まあ、この紙が証拠としての機能があるのなら、説明する際に楽できるだろう。相手も反応に困るだろうけど。

 丁度いいので、セラさんに紹介がてら証明書を見せてみよう。嘘だとは思っていないと信じたいが、念のため。


「うわあ、ユニークスキルだったんですね。なら納得かも。これは大変ですね……」

「うわあってなんですかうわあって。ユニークってそんなに変なんです?」


「枠に当てはまらないほど強力なスキルって、ウルトラレアスキルと呼ばれるんです。でも、ユニークスキルは、強くても癖が強かったり、変なスキルが多いらしくて」

「そんな!?」

「デメリットがあるスキルなんて初めて見ました」


 おいリックさん、初耳の情報が出てきたぞ。わざと説明してなかったな、これは。

 とはいえ、僕がわけありだと納得はしてもらえた。ついでに、記憶がない分情報がほしい、ということもわかってもらえたようだ。


 彼女は既に証明書を貰っていたらしく、一緒に冒険者協会まで出発することに。ここからかなり近いようなので、すぐ着くだろう。

 鑑定所を出て、空を見上げる。少し時間が過ぎたので、空が赤みがかっているかなと考えたが、まだ青い。鐘の音がなるまで時間はありそうだ。


「冒険者になるのって、お金がかかるんですか?」


 無言で移動を続けることになる前に、セラさんにこう尋ねてみる。簡単になれる、と言っていたので気になっていた。


「ちょっとかかりますね。銀貨1枚ぐらいは」


 円じゃない!? と、内心めちゃくちゃびっくりしているが、異世界なんだから当たり前の話だ。一体どれぐらいの価値なんだ? その銀貨1枚というのは。


「それだけ稼ぐのにどれだけ働かないとだめなのかなぁ。あ、冒険者だと依頼をこなすんでしょうか」

「簡単な依頼であっても、銀貨1枚くらいは貰えると思いますよ。しかし仕事をせずにとなると……」

「難しいですよね」


 衣食住のうち、衣は一着だけだがなんとかなっている。だが、人の手を借りなければ食と住は全くと言えるほど無縁。生き延びるためにはまずこの2つをどうにかせねば。

 具体案はない。けどまあ、養ってくれる人を探すという手もある。見ず知らずの僕を養う人なんていなさそうだけど。ずっとリックさんに頼るのも無理だろうし、何か考えよう。


 セラさんから冒険者への憧れを聞いていたら、目的の冒険者協会が見えてきた。高さはないが、鑑定所よりも大きい気がする。何かの建物が併設されているような。飲食店か、ファンタジー風に言うなら酒場だろうか。

 思った通り、酒場の方から受付を行えるとセラさんは話している。じゃあ僕もついていこうと、一緒に酒場の扉をくぐった。


「――だから、依頼ぐらい受け付けなさいよっ!」


 キン、と耳にくるような声が、酒場に響く。揉め事だろうか。ちらりと見ると、受付らしい方向に声の主が見えた。

 突然の声に、食事をしていた客も静まり返っている。何があったのかと、僕は周囲を見渡してみた。


 いわゆるレストランのようにテーブルが置かれていて、壁には大きめの掲示板が見える。酒の匂いはあまりせず、肉を焼いた匂いを筆頭に、食べ物の香りがその場に漂っていた。まあ、昼間っから飲んでる人は少ないか。


 もう少し賑わっているものと思っていたが、想像より静かだな。多分、今叫んだあの女性に原因があるのだろう。客はみな、彼女と視線を合わせようとはしていなかった。

 タバコの臭いがしないことに結構感動してたんだけど、それどころではないらしい。セラさんの受付も、あの女性が退かないことにはできないだろう。


 席にでも座って様子を見るべきか、と思っていたら、セラさんはかまわず受付の方に向かいだす。いやいや、明らかに関わるのが怖いぞ。

 僕にできることはないだろうけど、セラさん1人を向かわせるのは心配だったので、僕もついていく。すると、僕の服の裾を軽く引っ張られる。座っていた客の手だった。


「お、おいやめとけ。孤高の突風剣士には関わらんほうがいい」

「うるっさいわねぇっ!」


 受付に向かう途中、座っていた客が僕たちを見て、そっと話してきた。だがそれは女性に聞こえていたらしく、客に向けて手のひらを向けている。


 これは僕のスキルによるものか――直感が告げている。攻撃が来る、と。

 咄嗟に客の顔を庇うよう腕を伸ばした瞬間、僕の手首に鋭い痛みが走る。顔をしかめながら確認すると、何かで切ったような傷が一本伸びていた。


「大丈夫でした?」

「俺は大丈夫だけど、あんちゃん、その手首……」

「平気ですよ。そのうち治ります」


 紙で指を切った時のような、嫌な感触が残っていた。孤高の突風剣士、と呼ばれた人物と目が合う。いや、睨まれている。参ったな。記憶があった時は、こういうトラブルを解決する方法を覚えていたのか? どうすればいいんだ。


 間違いなく次はこっちに怒りの矛先が向く。そう思っていたが、次に口を開いたのは、なんとセラさんだった。


「ちょっと! 相手は一般人ですよ!? どうしてそんなことするんですか!」

「はあ!? あいつが余計なこと言うからじゃないの!」


 まずいまずい。怒っている人に同じテンションで話を持ち掛けても、収拾がつかなくなるだけだ。それに多分、あの怒った人は、かなり攻撃的なスキルを持っている。相手は剣を持っているし、喧嘩になったらセラさんが危ない。


 彼女はそれをわかってはいるだろうが、それでも口を出してくれた。僕にはとてもできない。勝ち目がなくたって、意見を通そうとするなんて。


「だいたい、あたしが誰か理解して口を開いてるわけ? このシルフィーナを知らないなんて、とんだ田舎者ね」

「あなたが誰だろうと、今やったことはよくないことです」


 だんだんとヒートアップしてきた。誰が悪いとかはひとまず置いておいて、この状況をなんとかしないと。できるかじゃない。やるんだ。

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