海のさざ波、夜空の星々 ~百合の色香を導き照らす~
五目だいや
The Sun is guiltiest bitch for me!(1)
二泊三日の修学旅行。
行先は沖縄。
クラスで一番明るいギャルは、私の両手を掴んで微笑んだ。
「たっくさん楽しもーね! あーし、小夜っちと思い出作りたいから!」
陰キャの私に不釣り合い。
彼女の笑顔は、燦々と輝く太陽に負けないくらい眩しかった。
◇
遡ること二週間前。
高校二年生、帰りのHR。
私、
辟易の原因は教室の中央にある。
「あーし班の一員になりてーヤツはこの指とまれよー!」
陽キャグループで一際目立つ中心人物。
ギャルの
まるで向日葵のようにキャハハと笑う。
日野さんにつられて周囲の人々も盛り上がる。
私はヤレヤレと頭を振った。
何がそんなに面白いのかわからない。
いや、楽しみなのはわかるけど。
というか。
修学旅行なんて高校生活の一大イベントだ。
私にだって楽しみたいという気持ちはあったのだが、この学校特有の旅行先選択制度が私のテンションをことごとく下げやがった。
沖縄か、北海道か。
修学旅行の行先は去年、一年生の夏休み明けに決めた。
私はクラスの仲良しグループと一緒に沖縄を選んだんだけど、進級時のクラス分けで仲良しグループと離れ離れになってしまった。
ショックは受けたが気持ちを切り替え、現地で集まって行動をともにすればいいと思ったのも束の間、海外旅行者の増加に懸念を示した学校側が完全班行動に方針変更。
クラス内で決められた班を離れることは一切禁止となった。
で、いざ沖縄組を見回したら陽キャばかり。
仲の良い大人しい子たちはみな、北海道という始末。
「はぁ……」
再度、窓の外に向かってため息を吐く。
そのとき――
ふわりと良い香りが漂った。
振り向くと、日野さんが目の前にいた。
「ッ⁉」
ホワイトブロンドが似合う小顔。
ぷるぷる唇からのぞく八重歯。
スラリとした体躯に豊満な胸元。
間近で見る日野さんの破壊力に言葉を無くした。
「ひ、日野さん……?」
困惑を言葉に込めて返す私。
対して日野さんはにんまりと笑顔を作った。
「小夜っちはあーしの班ね!」
「え⁉」
突然のことに目を見開く。
でも日野さんはスキップで離れて行ってしまった。
「せんせー。沖縄組の班決め終わったよー」
私は有無を言わさず日野さん班に決まった。
◇
日野さんは初っ端からトップスピードだった。
沖縄についた瞬間、アロハシャツとビーサンの装いに変身した。
私に向かって両手をあげて満面の笑み。
「小夜っち~! めんそ~れ~!」
「それ日野さんが言う言葉じゃないよ。あと染まるの早すぎだよ」
◇
平和学習で訪れた平和祈念資料館では。
日野さんは、当時の女学生に感情移入してわんわん泣いていた。
「小夜っち~! あーしにできることはないんかなぁ⁉」
「私たちが後世に語り継いでいこうね」
貸してあげたハンカチはびしょびしょだ。
◇
さらに就寝前のひととき。
同じ班のギャルたちの恋バナに参加させられた。
「小夜っちぃ。小夜っちって好きな女の子いるの?」
「い、いないけど……。じゃなくて、なんで女の子限定⁉」
日野さんの変な質問に戸惑う私。
別の子が日野さんの脇腹をつついた。
「おい。あんまり深津さんをからかうなよ」
「むふふ~♪」
◇
すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。
日野さんの寝落ちに端を発し、ギャルたちは一斉に就寝モードに入った。
しかし私はその切り替えの良さについていけず、また、友達とのお泊りも初めてだったため変に緊張して寝つけずにいた。
「うぅうぅん……」
寝返りを打った日野さんがこちらを向く。
寝ていても楽しそうに感じる。
これは一種の才能かもしれない。
相容れないと思っていたギャルたちは総じて優しく、性格も感性も違う私と一緒でも修学旅行を満喫していた。
私も、日野さん班で行動することを純粋に楽しんでいる。
だからこそ、複雑だった。
日野さんと話したのは修学旅行の班決めが最初だ。
いつも陽キャのギャルと遊んでいて、私みたいな大人しいタイプと一緒にいる光景はてんで見たことがない。
頭の片隅にずっとあったこと。
日野さんはぼっちの私を気遣って、無理して私と話してくれているのかな。
高校生の修学旅行。
人生一度きりで、かけがえのない時間。
そんな大切はひとときを、私に割かせるのは申し訳ない。
「明日は日野さんに遠慮しなきゃ」
◇
翌朝。
私たちは寝起き早々、小走りさせられていた。
全員寝落ちに近い状態で就寝したため、誰も目覚ましをセットしていなかったのだ。おかげで集合時間はとうに過ぎており、担任の先生に叩き起こされたのである。
まさか先生に怒られることになるなんて。
優等生で通っていた私の名折れだ。
「ウチらが初めてだってよ。グループ揃って寝坊したヤツ」
「それマ⁉ 沖縄に伝説残しちゃったじゃ~ん」
ちょっと凹んでいたけど、さすがギャル。
さっきのお小言も楽しみの一つとして昇華させていた。
ドンマイとお互いを励まし合い、私も一緒に彼女らと笑う。
ただ、日野さんは静かだった。
チラリと隣の日野さんを盗み見る。
大きなあくびを一つして、うつらうつらと首を前後に揺らしている。
日野さん、朝弱いんだ。
可愛いところあるな……。
という感想はすぐにかき消される。
日野さんは席に用意されていた食事を見て喜んだ。
「朝っぱらからラフテー入りソーキそばとか! 沖縄民の胃袋つよ~っ!」
急に元気を取り戻した日野さん。
彼女は同意を求めるように、隣に座る私の肩を叩く。
「ね、小夜っち!」
「うん」
そうだね――と、首肯しようとしたとき。
昨晩決めたことを思い返す。
そうだ、私。
日野さんと喋らないようにするんだった。
気を遣わせちゃダメだ。
「あ、あはは……」
「んん~? 小夜っちどしたん? なんかテンション低い?」
私の態度を訝しんだ日野さんに顔を覗かれる。
日野さんからすーっと目線を逸らした。
「い、いや。なんでもないよ」
「?」
首を傾げてムムムと唸る日野さん。
慣れない愛想笑いを浮かべる私。
私たちはお互い、もにょっとしたまま食事を摂った。
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