高架下で、
しおこうじ
第1話
トットッ
つま先で地面を蹴って靴を履く。
「よっしゃ、準備できたかな」
そう言って姿見で自信の姿を確認する。
トランペットが入ったケースを背負う男が一人。
カーキのワイドパンツに英字が印刷されたTシャツ
特にセットされていない寝起き同然のぼさぼさ頭
それが僕、火木紅。
今日も今日とて早朝からトランペットの練習に外に出るところだ。
運動したくない、女の子が多い、エアコンの効いた室内で練習できる
みたいな理由でいっちょ入ってみたのが吹奏楽部。
いざ入ってみると担当はトランペット。花形だった。
さあ、輝かしい中学生活を送るんだ!
と思って毎日部活に精を出していたが、
同級生はみるみる上達し後輩にもすこーんと抜かれた。
後輩にダメ出しをされ、同級生からはもっと練習すればなんて言われる始末。
自己嫌悪にさいなまれ何度も退部しようと考えたが残りの学校生活を考えると辞めるにやめられなかった。だってさ、クラスの女子ほとんど吹奏楽部なんだぜ?
気まずいったらありゃしないね。
火木A 「自分は何をやってもだめなんだ」
火木B 「違うわい!やればできる子なんです。うちの子」
あきらめの悪い火木Bがうちの子、というか自分自身をできる子だと証明するため土日は必ず練習するようになった。
それじゃあ今話している僕はどのアルファベットなんだろう、、、
トランペットの音はとにかくでかい。
夜中眠りたいのに隣の部屋で長電話をかますヤツくらいうるさい。
ご近所さんの静かな休日をぶち壊さないべく住宅街から離れた山で練習している。
最近は日差しと雨を避けるため山中の高架下にいる。
以上説明終わり!
玄関を出て家の鍵を閉める。
「今日雨降りそうだなー」
降らないことを祈り出発する。
自転車で顔にとびかかる虫を避け
田んぼを超え
赤信号を突っ走り高架下に着く。
着いた頃には汗だくだく。脇の匂いはとても香ばしかった。
風がびゅーびゅー吹いて
夏の暑さを吹っ飛ばしてくれる。
体を冷まし、ささっと楽器を組み立てる。
とは言っても本体にマウスピースっていう部品をはめ込むだけなんだけどね。
「うし、やるぞー」
気合を入れて練習を始める。
橋の下なだけあってよく響く。
反響する音がきれいに聞こえるのでちょっとうれしかったりする。
いつもは低音を中心にのびのびと優しいメロディーを吹いている。
入部当初は楽しかった部活は嫌いになった。
だがトランペットは好きなままだ。
楽器に責任かぶせちゃだめよね。
下手なのはわてなんだし。
そんなこんなで30分ほどたったころ
突如声を掛けられた。やや気だるげそうな透き通った声。
「君は頑張るねー」と
びくっと肩を震わせた。そりゃそうだ
誰もいないと思って電車で鼻歌していたら実は人がいましたよくらいの衝撃だ。
声の主を探そうと目を凝らす。
草でボーボーのフェンス
前日の雨で増水した用水路
ひび割れしたコンクリの道路
360°ぐるっと見回したが誰もいない。
「まさか工事のために埋められた人柱の霊だったりして、、、、、、、、、、、、ヒイッ」
そう怖がっていると目の前の青い箱の扉が動いた。
それは田んぼ道とか用水路だったりの近くにある謎の箱とおんなじやつ。
ギギギと不吉な音をたてて扉が開く。
ビビりながら中を覗く、、とランタンが吊るされていた。
「なんだこりゃ?」
ランタンはカフェのような暖色系の光を放っていた。
壁には簡易的な棚が作らておりインスタントの麺類が並べられていた。
隅っこに水の入ったペットボトルとガスコンロがおかれていた。
なんだここ?誰か住んでるのだろうかと思考を巡らす。
「えい」 ゴンッ
さっきと同じ声が背後から聞こえた
、、、、と思ったら頭に鈍い衝撃を感じた。
小学生の頃。
2、3mの遊具から落ちたときに感じたのと似ている。
あっこれヤバいやつ。足元から力が抜け落ちるのを感じ
そのままフラッと前に倒れた。
そして雑草に顔面をぶちこんみ
「草が痒い。」
そのままポックリ気絶した。
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