第6話 どんな依頼を受けよかな?

 貧乏からの脱出を試みて俺は新たな依頼を受けようと冒険者ギルドへと訪れていた。


「なーなー、さっさと決めようよー」


 イッカが俺の服の裾を掴んでは、さっさと依頼を決めるようにかしてくる。

 そんなイッカちゃんにはこの言葉を贈ろう。急いては事を仕損じる。


 まっ、かれこれ半日依頼掲示板の前に立つ俺を臆病者と罵ってくれてもかまわない!

 ハッキリ言おう!!新しいことに挑戦するのはこわいのだ!!


 掲示板には――

 カルカダスダンジョン探索:危険度A

 ゴブリン討伐:危険度C

 オークの肉の調達:危険度C

 エレファントグリズリーの討伐:危険度B

 エルダードラゴンの鱗の採取:危険度S

 ――等々ずらりと不穏な依頼が並んでいる。


「イッカちゃん。薬草摘み、行こっか?」


「何言ってんだ?お前、もしかして日和ったのか!?薬草摘み以外の依頼にするって自分で言ったんだろ?男なら二言はないはずだな!」


 はぁ、やれやれ。やれやれですよ、イッカちゃんは。


「あのねぇ、イッカ君。男女平等が叫ばれて幾久いくひさしく。今じゃ、男もつらいし女もつらいの。女に二言もあれば男にゃ二言も三言もあるわけなのですよ?」


 なんて屁理屈を言っていたら、バシッ! 

 イッカに背中を叩かれた。


「うるさい!!男ならさっさと決めろっ!!」


 痛ったぁぁあ!!イッカに叩かれたのはこれで二発目だ!!

 

 たたいたね、親父にだってたたかれて育ちました。


 しかし俺のこの優柔不断っぷりは、きっとラブコメ主人公向きだと思います!どうぞ、異世界ラブコメをおねがいしまーーーすっ!


 ま、そんなこと言っててもどうにもならない。俺は仕方なぁぁぁあく、クエストボードから適当な物を見繕う。


「ん~。じゃあ、これにします!」


 ズビシッ! 「異議あり!」とばかりに指を指したのは最近出没する怪盗ジャスティスなる者の捕縛依頼だ。

 なんかモンスターを相手するより楽な気がする。しかも殺すじゃなく捕縛ってとこも気に入った。

 人殺しは嫌だからなぁ……


 そう!この物語は小さなお子様から、頭の弱い大人様まで皆が楽しめるエンターテイメントを追求するのだ。

 ……うそです。


「あにょ~、この依頼を受けたいんですけどぉ……」


 俺の後ろでイッカが「シャーッ!」と猫のように受付さんを威嚇しているのを無視して依頼書を渡す。

 どうもイッカのやつFランクの件を未だに根に持っているようだ。


 たった一つの怨みを覚える!力はカブトムシ、頭脳は少女。その名は異世界女神イッカ!

 ……なんてね。


 しかし案外ねちっこい性格をしてんだなぁ、イッカという女は。


 受付さんは俺の渡した依頼書に軽く目を通す。


「わかりました。受理します」


 思っていたよりすんなりと依頼は受けることが出来た。続けて、受付さんが依頼内容の説明をしてくれる。


「えー、ご存知かも知れませんが、この怪盗ジャスティスは最近現れた義賊のような泥棒でして……」


「ギゾク??」


 聞きなれない言葉に俺はつい聞き返してしまった。


「ええ、裕福な商人や貴族から金品を盗み、貧しい人に富を分け与えているようなのです。今では富裕層を中心に五件の窃盗の被害が出ています」


「貧しい……人……だと?」


 その筆頭たる男がここにおります!ジャスティスさぁぁぁああん!!


「タケル。お前変なこと考えてるだろ?」


「えっ?え……なんのことかなぁ……ぼく、何にも考えてな、ないですよ?ピュピュ~♪」


 この女、すっとぼけ女神かと思えば意外と鋭いところがある。


 俺たちのアホな会話を聞いて不審げな表情の受付さんが眉根を寄せて「やめますか?」と尋ねてくる。


「やっ、やります!うっす!」


 こうして俺達は怪盗ジャスティスの捕縛依頼を受けることになったのだ。


 ジャスティスの犯行時刻は真夜中。律儀なヤツでわざわざ犯行声明を盗む相手に送るらしい。ルパンなやっちゃで。


 そして今回のターゲットは悪名轟く(俺調べ)大金持ちのリッチモンド氏。一代で巨万の富を築いたらしい。


 憎い!!憎いぞ、リッチモンド!どうやったら、金持ちになれるんだ? 絶対悪事を裏で働いてる!根拠は無いけど俺はそう確信した!!





 犯行予告の深夜。今宵こよい、闇夜を薄く切り裂くような三日月が空に浮かぶ。

 俺とイッカは闇に紛れ路地裏に潜む。


「ふぁ~……」


 イッカが特大のあくびをかます。お眠なのか目まで擦ってる。


「寝るなよ」


「私様が寝るわけ無いだろ。女神は寝なくてもいいんだぞ」


 大言壮語とは、この事である!


「嘘つけ!お前いっつも9時過ぎには寝てるじゃないか!!」


「あれは、目を閉じてるだけ。寝てない」


 なぜ寝ていることを否定すんの?お前はテレビ消した時の居眠り親父なの?


「絶対寝てる」「寝てない!」「寝てる」

「寝てない」


 ワーワー!!ギャーギャー!!

 俺達騒いでますが、只今絶賛張り込み中です。


 今俺達がいるのは街の中でも比較的貧しい人が住むエリアだ。

 日中調べた結果、ジャスティスが現れていない貧困エリアはここしかなかった。つまりは、今夜ここにヤツは現れる!!そう俺のゴーストが囁くのだ。


 他の冒険者達は、と言えば皆リッチモンドの屋敷へ警護に向かっていった。

 皆そんなにリッチモンドに気に入られたいのか!?金か、世の中全ては金なのか!!


 皆、目を醒ませぇ!!金持ちは敵だ!俺のとこに来ない金なんぞゴミと一緒だ!心のプラカードを高々と掲げる。

 しかし、そんな俺の心の声は当たり前だけど誰にも届かない。


「ギャー!ギャー!!寝てないったら寝てなーいぃ!!」


 未だ寝てないと喚き散らすイッカ。この人、新手の騒音おばさんかな?

 こんな五月蝿くして、果たしてジャスティスは現れるのか!?


 その時、ヒュッ……ヒュッ……ヒュッ……と、屋根から屋根へ跳び移る影!三日月をバックに横切るシルエット。かっこいい!


「聞いているのか!?私様は寝……」


「しっ!」


 静かに、と俺の人差し指をイッカの唇に当てる。


「コブッ!!」 


 イッカが血を吐き卒倒する。


 やっべっ!!

 ここに来て俺の悪魔の右手スキルが無意味に火を吹いた。


 俺はイッカが倒れないよう抱き止め、ゆっくりと地面に横たえる。

 そんな俺に声をかける者が現れた。


「大丈夫か?」


 後方からなので顔は見えない。心配はありがたいが、ここで目立つのは不味い。


「だっ……大丈夫ですよぉ。この子ったら寝るとき血を吐くクセがあるんですよ。全く困ったイッカちゃん。ささ、どうぞお気になさら……ずぅう?」


 振り返った先にいたのは全身タイツで仮面を付けた不審者!!絶対怪盗なヤ~ツ!


 ここで、俺の悪魔的な頭脳がピカンと閃いた!!


「うそです。大丈夫じゃないです!!もうピンチ!!持病のしゃく的なモノがアレしてコレなもんで……ちょっと薬を取ってきますから見ててください」


「えっ!?あの……」


 有無を言わせずその場を去る。――と見せかけてそーっとUターン。


「大丈夫かぃ!?キミ!しっかりするんだ」


 健気にも毒で倒れるイッカに声をかけ続ける優しき怪盗、その名はジャスティス。


 イヒヒヒ、作戦通りでやんす!

 ジャスティスのヤツ、俺に背を向けてやがるぜぇ。


 くらえ、千年殺しぃーーー!!


 ブスっ!!


「きゃーー!!」


 きゃーー?えっ!?悲鳴?


 もんどりうつジャスティスを見る。そこにはスラッとしているが、確かに胸がある!


 女性だぁぁぁあ!!

 衝撃の事実!怪盗ジャスティスは女性だ!!

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