異世界わちゃわちゃカーニバル

ポンコツロボ太

第1話 週刊異世界転移をしよう!創刊号

「やばいやばいやばいやばい!!」


 ダンジョンを駆け抜ける俺と三人の仲間達。


「きゃー!!死ぬ死ぬ死ぬ!」


「だから私は止めろって言ったんだぁ!!」


 ガラッ……ガラガラ!!



 ダンジョンが崩壊していく。


「ひーぃ!怖いぃ!死にたくなぁあい!」


 死にたくないと泣き叫びながらも神官である彼女は大きな胸が邪魔なのか皆から少しずつ遅れを取っていた。


「あー、コイツおっぱい見てるぞぉ」


 アホが余計なことを言う!


「きゃっ!!」


 途端に胸を押さえる。ただでさえ足が遅いのに、さらに遅れが出る。


「あほ!要らんこと言うな!!」


 胸を押さえる女神官の手を強引に取り引っぱる。

 ああ、くそったれ!俺だって助ける余裕なんてないのに!!


「走れ走れ!本当に死ぬぞぉ!!」

 

 チックショー!!大人になってこんな全力で走るなんて!異世界のバカヤロー!自称女神のくそったれ!ミソカスウンコ!!


「あっ、タケル!私様の悪口考えてるだろ!!わかってんだぞぉ」


「うるせえ!!」


 ガラガラ!!崩壊の音がすぐ後ろに迫ってる!!ひいい!!


「がんばれっ!もうすぐ出口だぞ」


 ショートの銀髪を揺らして仲間内で一番足の早い彼女が出口を指差した。


「タケルぅ私様も引っ張ってくれぇ。もう疲れたぁ……」


 ヘロヘロと速度を落とす自称女神。


「くっそー!!」


 ガシッ! 自称女神の手も掴む!


 右手に体力が皆無の巨乳神官を、左手には自称女神のわがままクソガキをつかんでダンジョンを走り抜ける、俺!


 あぁ、何でこんなことになったんだろ?

 走馬灯のように事の始まりが頭をよぎる。


―――――……そう、あれは一年前……


 季節は初夏。暑さを逃れるように夕方頃から蝉がジージーと騒いでいたのをよく覚えている。

 俺は特にブラックでもない普通の町工場を定時きっかりに退社していた。


 最近の楽しみはサブスクで何周目かの異世界転生コメディを見ること。それを見ながら惣菜をつつきビールを一杯。


 その日はスーパーで割引された惣菜のコロッケと唐揚げを買ったあと特に急ぐ用もないので、気まぐれに本屋に立ち寄った。


 それが間違いの始まりだ。出来ることならやり直したい。


 最近読みたい本は全て電子書籍に変えていた。


 いやぁ、本屋に入るの久しぶりだなぁなんて思いながら店内をブラブラしていると、『週刊異世界転移をしよう!創刊号、今だけ250円!!』とデカデカと赤字で書かれたデアゴスティーニ風の雑誌を見つけてしまった。


(250円か……)


 特に何か思うわけもなく気まぐれに、それを手に取りレジへ向かう。


「お客様どうされます?こちら定期購読にされますか?」


「んー、それって途中で止めることってできますか?」


「ええ、構いませんよ。購入時に次号からは不要と仰っていただければ……」


「わかりました。定期購読よろしくお願いしまぁす」


「入荷の連絡はどうしょう?」


「じゃあ、取り敢えず一ヶ月くらい貯まったら連絡してもらっていいですか?」


「かしこまりました」


 レジのオバチャンと確かこんなやり取りをしたと思う……


 帰ってから冷凍していた米と総菜をレンジで温める。その間もネットに接続されたテレビから異世界アニメの楽しいやり取りが聞こえていた。


 座卓に夕飯を並べ、行儀は悪いが誰がたしなめる訳も無し、ご飯を食べながら分厚い雑誌を開いてみた。

 雑誌の中には付録の荷台部分が青いトラックのミニカーが入っていた。


「そういうことね……」


 なるほどなるほど、転生のきっかけになるトラックかぁと思いながらビールを一口。

 もう何度も見たアニメの音をバックに記事部分に目をやる。


 そこには異世界転生系のアニメ作品や小説、マンガなどの年表がずらりとならんでいた。


 そこまで内容には興味がなかったので一通り目を通したらテーブル脇にポイっと置いておいた。


「次号は何がついてくるのかねぇ……」


 その時は、何か乳のでかいお姉ちゃんフィギュアでも付いてきたら良いなぁなんて思ったりしたものだ……


 そうして、あっという間きひと月が経つ。

 職場の昼休憩、見慣れない電話番号からの着信があった。


「もしもぉし?」


「〇〇書店ですが阿久比猛あくびたける様のお電話でよろしいでしょうか?」


「あーはい、そうです。もしかして週刊異世界ですか?」


「あ、はい。そうです。一か月経ちましたので近いうちに来店の方をよろしくお願いします」


「わかりました~」 


 ――プッ……


 ということでその日の仕事帰り本屋に寄った。


「えーではお会計失礼します。では四冊で1万1千円お願いしますぅ」


「うぇ!?いっ1万?」


 一冊2500円!?

 恥ずかしい話、財布の中には5千円と少しの小銭しか入っていなかった。


「クレジットでお願いします……」


「お支払回数は?」


「一回で……」


 なんちゅう強気な値段設定。一気に10倍も値段吊り上げやがった。その日の帰り道は怒りを通り越して虚しさが込み上げてきたのを覚えている。


 帰ってからは、ご飯そっちのけで雑誌を開けてみた。

 これで付録がしょぼかったらどうしてやろうか?なんて考えていたあの時の俺はアホだ。


 しょぼいなんてもんじゃねぇ!!


 中に入っていたのは小さな小さな小指の爪ほどのシールが一枚。そこには天国運送と書かれていた。


「くそボケ!!金返せ!」


 どうやら、ミニカートラックの荷台部分に貼る社名シールだ。雑誌の記事部分は近年の異世界転生のアニメの紹介。


 もう一冊じゃい!雑誌を開く。


「鼻くそが!」


 バシンッ!


 雑誌を床に叩きつける。


 また同じシールが出てきた!反対側に貼れということらしい。ボケくそ!


 次だ!!


「うんこったれぃ!!」


 バシンッ!


 今度はナンバープレートのシール。これで2500円!!俺がケチなのか!?皆納得の2500円なのか?


 最後!!頼むぜ!


「……」 


 チーン……白目をむく俺。


 わかってた。わかってましたよ。

 荷台の左右に二枚のシール。ナンバーだって前後にある。そう、入っていたのはもう一枚のナンバーのシールだ。

 ご丁寧にナンバーは4242しねしね。そこも腹立つ!!これは後ろ用か?後ろ用なのか!?


 そして気づいたことが一つある。記事部分のイラストなんだが、どうも著作権の関係なのかキャラクターのイラストが原作と違う。


 なにが違うって往年のものまね番組の芸能人イラストでおなじみ『針すなお』さん風の画風でキャラクターが全て描かれているのだ。


 それがさらに俺の怒りに火をつける。


「んがぁあああっ!!」


 俺は雑誌を真ん中から破ろうと力を込める。が、これが2500円かと思うと、ケチ根性が出てきて雑誌を破ることは出来なかった。


 俺は負けたのだ……この雑誌に。いや、この物価高の日本に。


 なぜだろう……その日はなぜだかビールが異常にすすんだ。




 またさらに一か月後……例の本屋から着信が。


 キャンセルするの忘れてた…… 

 前回と同じやり取りを経てまたもやクレジット払い。


 今回は期待を込めてキャンセルをしなかった。


 まず一冊目。

 

 タイヤのホイール部分のシール……

 不味いぞ。不味い流れだ……

 だってタイヤは四本だもの……

 まさか……


 はい、そのまさかでした。今月四冊ともタイヤのシール。ボケナスが!!


 しかも更に腹立つのが記事の部分。なぜか異世界転生好きの人間を分析した内容。


 曰く、現実がうまく行かない人間が主人公に自己を投影することで快感を得ているオナニー。


 曰く、ストレスにさらされた現代人がテンプレート通りに進むことでノンストレスで見ることができる甘えた作品。


 曰く、トータル見るヤツはキモい。


 スーパークソゲボ雑誌がよぉっ!!


 次の雑誌は、前号では言い過ぎましたスミマセンの文字。

 正確には『何かぁ 外野がわいわい騒ぐのでぇ 謝っときます。ごめんりんこ⭐』


 ボッケェ!!これは謝罪じゃねぇ!あおっとんじゃ!!


 次は、ただただ転生モノの作品が並べられ○○面白い。○○面白いと、本当に見たのかと思う陳腐な感想が並べられている。


 次、ドラゴンボール特集。案の定権利の関係で『針すなお』風の悟空達。もはや異世界関係ねぇ!!


 そんなこんなで何とか一年間俺は購読を続けた。

 ある時は勝手に休刊され、ある時は乱丁により前号と同じ内容が刊行されていたりと、やりたい放題の極致であった。


 これは、俺と雑誌アイツの我慢比べ。先に折れた方が負けなのだ。

 と半ば意地になって買っていた俺は最初から負けていたのだ。


 しかし、それも過去の話。

 ついに最後の雑誌だ。ページを開く……


 そこは全くの白紙。


「こんにゃろぉおおおおお!!!!!!」 


 ここ最近で、いや生涯で一番大きな声をあげた。


 ドンッ!!!!


 俺の声がうるさかったみたいで、隣の部屋の住人に壁を叩かれた。


 俺は「すみませーん」と、聞こえるか分からないが一応謝る。

 こんな惨めな思いをさせやがって!!こんな今日こそは雑誌破いてやる!


 プルルルル……


 そう思ったとき俺のスマホのが鳴る。


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