第4話

砂漠の風は容赦なく、舞台は静まり返る。悠馬の姿はもうそこにはない。しかし三人の女優、香織、理栄、紗良の胸には、弟子が全てを賭けて生きた記憶が深く刻まれていた。


ゴネリル役・香織


香織は悠馬の死を胸に抱き、初めて本当の意味で役に没入する。彼女はかつて、自分の野心と嫉妬に囚われ、役を自分の表現で塗りつぶしていた。しかし今は違う。悠馬が体現した「役を生きる」という覚悟を胸に、ゴネリルとして生きる。砂漠の熱に肌を焦がされながら、台詞一つひとつに魂を込め、彼の意志を伝える。


「役を背負うのは、自分ではなく、物語そのもの……悠馬、あなたの分まで」


彼女は静かに呟き、砂に膝をつきながらも、舞台を止めることなく前に進む。


リーガン役・理栄


理栄は沈黙の中で悠馬を思い出す。冷静さと鋭さを兼ね備えたリーガンとしての演技に、かつての迷いはない。悠馬が見せた生き様が、彼女の心を強くし、役を深く掘り下げる力となる。


「彼の勇気を見た以上、私たちは逃げられない……逃げずに生きる」


彼女は砂の上に立ち、悠馬の魂と対話するように、台詞を紡ぐ。その声は乾いた風に乗り、砂漠全体に響き渡る。


コーディリア役・紗良


紗良は透明な悲しみを抱えながら、悠馬の死を受け止める。コーディリアとしての純粋さと強さを表現するため、涙を堪え、全身で台詞を吐き出す。彼女の瞳は砂漠の光を映し、悠馬の生き様を受け継ぐ。


「命を懸けるとはこういうこと……私はあなたに追いつきたい」


紗良は足元の砂を握りしめ、役として生きる覚悟を示す。


老俳優の見守り


百歳の師は杖をつきながら、三人の女優を見守る。悠馬の死は彼に深い喪失をもたらしたが、同時に弟子が残したものの大きさを理解していた。砂漠の舞台は過酷だが、それを受け止める若き俳優たちの姿に、彼は静かに頷く。


「悠馬よ、君は確かに死んだ。しかしその命は、この三人に生きている……舞台は続く、命もまた」


彼の視線は遠くの砂漠まで届き、舞台の未来を見据えていた。


再び舞台へ


三人の女優は互いに目を合わせ、頷く。悲しみはあるが、それを乗り越えて役として生きる覚悟が、彼女たちを結束させる。砂漠の太陽が容赦なく降り注ぐ中、彼女たちは悠馬の魂を胸に、次の台詞を紡ぐ。観客はいない、風だけが彼女たちの舞台を見守る。しかしそれでいい。舞台とは、生きる覚悟を示す場であり、悠馬が教えた通り、命の輝きを表現する場所なのだから。


砂漠の舞台は続く。悠馬の死は彼女たちに重くのしかかるが、同時に彼の意志を継ぐ光となる。老俳優は杖を握り、微笑む。板の上で死ぬこと、役を生ききること、その尊さを三人は体現する。砂漠は静かに息をつき、風が新たな命を運ぶ。


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