終話 お仕上げの肩たたき

 //SE かちゃかちゃ。(小瓶を手にとる音)

 //SE とろり(オイルが手に流れ出る音)

 //SE すーっ………(オイルを皮膚に伸ばす、皮膚と皮膚が接触する音、今までより小さい)


「ほら、恥じらわないの。

 桃みたいに可愛い乳房じゃないですか。

 ローズ、フランキンセンス、サンダルウッドの香りのオイルを塗って……。」


 //SE すーっ……(オイルを皮膚に伸ばす、皮膚と皮膚が接触する音、小さめ)


「お手入れして、なめらかな張りを保ちましょう?

 くくく………。

 相変わらず、マシュマロみたいな柔らかさ。

 しっとりした肌質で、指に吸い付くようです。

 素敵。さすが姫様です。

 優しく、丸みをつぶさないように、おおきな8の字を描いて、マッサージしますよ。

 谷間……、右胸のうえ、胸の横、乳房のした、谷間……、左胸のうえ、胸の横、乳房のしたを通って、また、谷間。

 くるぅり………。

 くるぅり………。

 繊細なタッチで……。

 まあ。頬が真っ赤に色づいて。可愛いですわ。」


 //SE すーっ………(オイルを皮膚に伸ばす、皮膚と皮膚が接触する音、今までより小さい)


「すこうし、他の場所とは違う気持ちよさがありますか?

 来月、姫様がフリカケン王子を受け入れたら、知ることになる気持ちよさでしてよ。

 もっとも、殿方は、このように女性を繊細に扱ってくれるとは限りませんが………。

 殿方は、女性のこの部分が大好きです。きっとフリカケン王子は、キムチィラ姫様の輝くような肌に魅せられて、恍惚こうこつの表情で、こうやって、胸のいただきに手を伸ばしますわ………。」


 //SE がたん!(寝台が振動する音)

 

「あぁ、姫様、きゃっ、て、そんな可愛らしい悲鳴をあげて。

 落ち着いてくださいまし。

 ほんのちょっと、ピンクのつぼみをつまんだだけですわ。

 小さいのに、ぷっくり膨らんで、あんまり愛くるしいもので、つい。

 驚かせてしまい、申し訳ありません。

 え?

 どうしてこんなことするの、って?

 楽しいからですわ!

 おっと。」


 //SE ぶん! ぼす(枕が飛来し、ズケンヌが華麗にキャッチした音)


「ほほ、朱鳥あけどりの羽根の枕を投げないでくださいまし。

 はい、枕はもとの位置に戻しておきますよ。」


 //SE ぼふ(枕をベッドに置いた音)


「え?

 これだから、ズケンヌの念入りは嫌だって?

 そうおっしゃいますな。

 あたしがこうやって、姫様にご奉仕できるのも、あと一月ほどなんですから。

 さあ、仕上げに入ります。蒸しタオルをとってきます。」


 //SE ぱたぱた………(足音)


「蒸しタオルで全身を拭いていきますよ。

 右足から。」


 //SE ばふっ(蒸しタオルの音)


「ごしごし………。」


 //SE ばふっ(蒸しタオルの音)


「ごしごし………。ふふ。全身お手入れが行き届き、髪はふんわりツヤツヤ、顔も血行が良く、全身、ぷるぷるの柔らかい肌触りになっていますわ。惜しみなくつかったアロマオイルのおかげで、甘く刺激的な、嗅ぐ者を虜にする複雑な香りが、キムチィラ姫様のまわりにふわふわ漂っています。

 さあ、夕闇色の絹の夜着をお召しください。」


 //SE さらり(絹の衣擦れの音)


「肩を叩いて、マッサージで緩んだ身体を活性化しますわ。肩をとんとん………。」


 //SE とんとん(肩叩きの音)


「背中………。」


 //SE とんとん(背中を叩く音)


「腕も軽く叩いて………。」


 //SE とんとん(腕を叩く軽い音)


「後ろ首も、指で押しておきます。力が逃げないよう、あたしの左手で、姫様の額をおさえて、頭のうしろ、首の付け根を、あたしの親指でぐっと押します。

 ぐぅっ……。

 ちょっと強めに。

 ぐぅっ……。

 はい、スッキリしましたね。

 最後に香草茶をお持ちします。カモミールの安眠に良いお茶にしましょう。りんごみたいな香りがしますよ。」


 //SE ぱたぱた(足音)

 //SE かちゃり、かちゃり(ガラスのカップ&ソーサー、ティーポットを置いた音)

 //SE こぽぽ………(香草茶をそそいだ音)


「お召しあがりになったら、ゆっくりお休みください。

 え? 近くに来て、この倚子に座れと? はい。なんでしょう。」


 //SE 衣擦れの音。


「まあ、あたしの肩を揉んでくださると?

 恐れ多いです。ズケンヌはただのメイドですから、おやめください。

 つべこべ言うな、と。

 はい。わかりました。

 あ………、そうやって揉まれると、気持ちいい、です………。

 はい、とっても、気持ちいいです。

 ん………。

 ふぅ……。

 姫様、どうしてこんなに上手なんですか。」


 ズケンヌ、気持ち良さに浸り、顔はとろけるようにリラックス。キムチィラ姫様にご奉仕されてることではなはだしく感動をしている。

 あまりの気持ちよさに、とびっきりの色っぽい声がでる。

 

「はぁア……ン。」


 愉楽が冷めやらぬ吐息がふた呼吸。


「はぁ、はぁ……。

 え?

 あたしが疲れているから気持ち良く感じるんだって?

 ふふ、あたし、疲れてなんていません。この仕事に喜びを感じています。」


 //SE もにゅっ(ボィ〜ン、とも。爆弾級のビックバストが姫の繊手せんしゅで揉まれた音)


「きゃっ!」


 //SE がたん!(ズケンヌがあわてて倚子から立った音)


「ああ、してやられました。

 たしかに、いきなり胸を揉まれると、びっくりしますね。

 そんなにケラケラ大笑いして。姫様ともあろうものが、はしたない!」


 ぷりぷり怒って。


「もうーっ!」 


 怒りを落ち着けるため、唇を尖らせ、眉をしかめながら、やれやれ、という気持ちをこめて、不満なため息をつく。(メイドなので、不満ですよ、というジェスチャーをするくらいしか、抗議ができない)


「ふーっ。」


 五秒の

(ふたつのまばたきをする時間)

《起こっていること》:ひとつめのまばたき──ケラケラ笑い続けるキムチィラ姫を見て、その笑い顔に魅せられる。

 ふたつめのまばたき───ズケンヌは、姫様への愛おしさがあふれて、微笑んでしまう。

 無音。くすっ、とも言わない。とても静かな笑顔。愛おしく思いつつも、ズケンヌは全てをあきらめているからである。あふれる想いと切なさは、次のセリフに集約される。

 五秒の間に何が起こったのかは、次のセリフに乗せられた切なさで視聴者に想像させる。


 ちいさな声でぼそっと。(姫様は笑い続けていて、小声なら聞き取れない状況)

 

「優しい姫様。あたしの気持ちなんて、知るよしもないですね。

 それでいいです………。」


 ズケンヌ、気持ちを入れ替えて明るい声。


「姫様、お疲れはとれましたか。

 今日もご奉仕させていただきました。

 早く寝て、明日、また、元気なお顔を見せてくださいませ。

 あたしは、姫様が結婚なさる時まで、ずっと、おそばにいますから………。」










        ───完───









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