何か読む?それとも何か飲む?【1分で読める創作小説2025】

野々宮ののの

シンデレラ×ドライマティーニ

「例えばさぁ、シンデレラの世界にLINEがあったとするでしょ?」


 合コンで隣に座った彼はやけに人懐っこい。お酒が進んで場の雰囲気が間延びしてきた頃、彼はそんなことを言った。

「そうすりゃ王子は舞踏会で気に入ったシンデレラとすぐにLINE交換してさ。それでハッピーエンド。あとから靴持って国じゅうの女性を訪ね歩く必要はなかったわけ」

「効率はいいけど、ロマンがないじゃん」

 つい、冷めた返事をしてしまった。


 正直、合コンにはあまり乗り気ではなく、単に数合わせで参加しただけだった。それでも、お酒のメニューが豊富なお店に来られたのは嬉しい。

「だって効率重視の現代人がさあ、あとから国じゅうを訪ね歩くのは大変だもん。だから、ね! 連絡先教えてよ」


 なるほど。

 回りくどい言い方をしていたけれど、単にLINE交換をしたかっただけか。

「国じゅう訪ね歩いて私を探してよ」

 ベルモットの香るドライマティーニをちびりちびりと飲みながら、彼の誘いを躱してみる。

「あちゃ。ロマン重視派かぁ!」

 しつこくされるかと思ったけれど、彼は意外とすんなり身を引いた。

 話がおもしろいし、引き際もわきまえている。悪くない人だなとは思ったけれどね。


+++


「う……わっ!」

 飲みすぎたつもりはなかったのに、不意に足がもつれた。

 合コン解散の直後。お店の前の段差で。


 だめだ。転ぶ。


 アルコールに毒された頭の中でそう呟いた。だけど酔いのせいで、うまく体勢を立て直せない。

「おっと!」

 すぐ近くにいた彼が、とっさに腕を突き出したらしい。そのまま、彼は私の体重を丸ごと受け止める。


「うわ、ごめん……」

 謝りながら状況を確認した。どうやら私は彼を下敷きにするような形で倒れ込んだらしい。

 それでも、彼はうまいこと私の体を支え直し、スマートに立ち上がらせてくれた。


 ふと、足元にかすかな違和感。

「大丈夫?」

 彼は心から心配するような声を出し、私の足元を見る。それから、フッと吹き出してしゃがみ込んだ。

 私だってもう気づいている。転んだはずみで靴が片方、脱げてしまったのだ。


 彼は私の靴をそっと拾い上げると、掲げるようにして言った。

「ってわけでシンデレラ、LINE教えてよ」


 王子様と呼ぶにはどうにもノリが軽い。だけど、そういうのも悪くないなと思った。

「……仕方ないな」

 靴を受け取って履き直す。それから、私はカバンに手を突っ込み、スマートフォンを取り出した。

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