「7」
「素直にルールに従ってやる必要なんてないよね」
どこからか湧いてきた反骨精神に突き動かされるようにして、ミサキはくるりと振り返ると入り口の扉を開けてためらいなく体を滑り込ませた。
そもそもなにかに同意してゲームに参加したなどというような記憶はミサキにはない。だからこそ、ろくに会話に応じてもくれない警備員が一方的に告げてきたルールなど、従いたくはなかった。
そうして言及されなかった行動――つまりは入ってきた入り口から戻るという行動をとったわけであったが、視界に入ってきた光景にミサキは何度か瞬きをする。
「なにも……ない?」
そこには絵画も、壺も、そして無反応な警備員も、なにもなかった。ただ白い壁に覆われたなにもない部屋があるだけだった。
ふと不安が湧き上がってきたミサキがばっと振り返ると、驚愕に目を見開く。
「な、なんで!」
裏返った声で叫ぶが、そこにも白い壁があるばかりで、たった今戻るために潜ってきたはずの扉がなくなっていた。
白い壁に覆われた出入口すらもない部屋……、それはまるで牢獄のようだと急に感じたミサキは、上を向いているかもわからない誰かに向かって声を張り上げる。
「ご、ごめんって! 出来心じゃないか、こんなの! もう一度やり直すからさっきの部屋に戻して!」
段々と声には悲痛な響きが宿ってくるが、やはりどこからも反応が返ってくることはない。
ミサキは繰り返し、何度も、何度も叫び、泣き、喚き続けたが、それでも部屋はただ白いばかりでなんの変化もおこらない。
「ごめんなさい! ごめんなさ、げほっ……うげぇ……」
ついにはすり切れた喉から血を吐いても、落ちた血や痰すらすぐにしみこむように消えて床は残酷なほどの真っ白さを維持する。
そんななにもなく、なにも起こらない白の牢獄で、ミサキはこれから永遠の時を過ごしていくこととなる。振り返ってしまった者が受けるべき罰として……。
【Bad End】
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