☆第23話☆ 【年齢】




 ナータからこの街の貴族についての情報を聞いた。


 妙な話だな。


 貴族が街を衰退させようと企んでいるらしい。


 普通なら発展させることこそが貴族としての使命のはずだ。


「面倒だし放っておくか」


 結論。俺は関わりたくない。


 政治等に関わるほど良いことなんてない。


 その上貴族に首を突っ込むのは流石にごめんだ。


 最悪の場合、首がはねかねない。


「そうだね。何もしない方がいいかもしれない」


 とシルヴィア。


「本当にそれでいいの?」


 不安げにナータが言う。


「本当にそれでいい。遅かれ早かれ、奴らは行動するはずだからね」


 俺はその言葉に疑問を抱いた。


 理解は出来るが納得がいかない。


「どういう事だ?」



「誘われてるんだよ」



「ーー尚更わからなくなった」


「ーー僕もわからなくなった」


 情報収集をしていたナータも混乱しているようだ。


「大丈夫。何もしなかったら向こうも何もしてこないから」


 するとシルヴィアは部屋から出ようとする。


「待て待て、俺らがその貴族から狙われてるってことか?」 

 当然の疑問だ。


 貴族自身の問題だと思い込んでいたが、自分たちが狙われているとなると話が変わってくる。


 そしてナータがもう一つの疑問を投げる。


「他にも魔女の存在が邪魔だって言ってたね。その魔女っていうのが不可解な点かな」


 その貴族も魔女を注視してるのか。


 いよいよ魔女ってのが気になってくるな。


「俺も今日、ここの受付で魔女って言葉を聞いた。ナータも知らなかったんだな」


「その魔女の特徴とか言ってた?」


 とナータ。


「この街から北側にある森で暮らしてるって言ってたな」


 ティナから聞いた情報で確実かはわからんが、多少の情報にはなるだろう。


「もう部屋に戻っていい?」


 するとシルヴィアが頑なに部屋から出ようとする。


「ーーちょっと待ってシルヴィア」


 それをナータが強く止める。


「何......?」



「魔女ってーーーー君のことじゃないの?」



 その言葉を聞いたシルヴィアの目が泳ぎ始める。


 焦ってるな。


「いや......何のことかわからないかな」


「魔女を北門で目撃したって、忍び込んでる時に聞いたけど」


「そうなんだ。多分......人違いじゃない? ほら私この見た目だし......」


 どんな意味で言ってんだ。


「僕達がこの街に来た時も、北門だったよね」


 確かにそうだな。


 あまり気にしてなかったが、門番の胸当てに北門って書いたのを覚えている。


「へぇ、知らなかった......」


「白状しなよ」


「その魔女っていう人の特徴が私と一致しない以上、白状しようもないかな......」


 するとナータが食い気味に答えた。


「――長めの金髪に少女の姿」


 この街の貴族はそこまで特徴を覚えてるのか。


 有能に思えてきたぞ。


 そして特徴がシルヴィアと一致ときている。


 予想したくなかったが、何となく想像はしていた。


「たまたま特徴が一致してるだけでしょ......」


 森で一人の少女が暮らしていると聞いても、ただの人間とは到底思えないだろう。


 しかし本人はただの魔法師と答えるので、今まで深追いはしないようにはしていた。


 聞かれたくない過去があるかもしれないと考えたからだ。


 それが今日、今この瞬間で正体がわかるかもしれないと、俺は少しワクワクしている。


「連れの冒険者二人の対処も考えてた」


 なるほど。


 その冒険者二人は、俺とナータということか。


 そしてシルヴィアが数秒黙り込み、しばらくして口を開いた。


「......わかった。全部話すよ」


 諦めたのだろう。


 ため息をついてそう言った。




 ☆ ☆ ☆




 バレたくなかったことが一つバレてしまった。


 隠しているつもりじゃなかったけど、あまり知られたくはなかった。


 昔から自分の名前を伏せていたら、いつの間にか『魔女』って呼ばれてただけなんだよね。


 特に意味は無い。


 でも魔女って言葉がおっかないからあまり好きではない。


「シルヴィアが魔女ってのはわかった。しかしその上で、俺は気になることがある」


「へぇ、なになに?」


 私が『魔女』と呼ばれていることを知ったアトラとナータは、楽しげに話をしている。



「シルヴィアの年齢だ」



 彼らからしたら、当然の疑問だろう。


「う〜ん。見た目的に僕らとあまり変わらないんじゃない?」


 私的にはそのまま勘違いをして欲しかったと思う。


「確かに、見た目で言えばそうかもしれない。でも引っかかることがある。この宿の受付嬢はエルフ族だ。そのエルフ族とシルヴィアは小さい頃からの仲に見えた。そして何故かシルヴィアがそのエルフ受付嬢から『姉』扱いを受けていた。この時点で何か感じないか?」


 こういう時だけアトラは察しが良いな。


 彼の疑問にナータがフムフムと納得していくかのように答える。


「そうか......! エルフ族は長命種。人間族が十五年から二十年で成人姿になるように、エルフ族は六十年から八十年はかかる。つまり、シルヴィアは最低でも六十年は生きている推測になるね!」


 こっちもこっちで察しが良い。


 もう自分から言った方が、この空気から解放されて楽になれるだろうと思ってしまう。


「なるほど。もう先が少ない年齢か......」

 


「――――アトラ」



 私はベッドであぐらをかいているアトラに近づいて、彼を勢い良く押し倒した。


「ん、なん――だっ!? ちょっ! 痛っ! 何だよいきなり!?」


 彼の両頬を思い切って摘んでは横に引っ張っている。


 失礼極まりない失言だ。


 看過できないね。


「ちょっ......! 落ち着けってシルヴィアっ! 悪かったって! まだまだこれからだよな! 残りの人生楽しもうぜ......っ!」


 私は抵抗している彼の言葉を聞いて、さらに摘んでいる指の力を強めた。


「――痛い痛い! まじで悪かった! もう何も言わねぇから......!」


「今日だけでデリカシーのないことを二回も言ったな。三度目はないぞ」


 摘んでいる頬を離して、一息つくと同時に近場にあった椅子に腰をかけた。


「いてて......ちなみにその三度目を犯した場合は......?」


「一週間は泣き寝込む」


「き、気をつけます......」


 アトラが赤く腫れた頬を撫でながら落ち込んでいるところに、ナータが「あぁあぁ」と言って回復魔法をかけた。


 しばらくして、回復魔法を止め、ナータが私に質問を投げる。


「で、結局シルヴィアは今いくつ?」


 単刀直入に聞いてきた。


 でも仕方ない。いつか話す時が来るだろうと考えていた。


 それが思ったより早いだけだ。


「詮索されるより真っ直ぐ言われた方が清々しいね。まぁこう見えて、『千五百年』くらいは生きてるかな」


 すると私の答えを聞いた二人は、現実味を感じないのか、ははっと笑った。


「なんだ『千五百年』か〜」


 とアトラ。


「いや〜、もっと凄い数字が出てくると......」


 とナータ。


 そして二人の間に沈黙が生まれた。


 二人は虚な目をしてお互いの顔を合わせている。


 沈黙。


 そして沈黙。


 されど沈黙。


 ちなみに千五百年も生きていれば、観点や価値観が色々と変わる。


 現状、彼らが私の年齢を聞いて黙り込んでいることに、羞恥心や怒り、哀といった感情は出てこない。


 ただ思っていることは、少しだけお腹が空いているくらいだ。




 ★




 彼らがずっと黙り込んで、喋る気配がなかったので、私は受付にいるティナに会いに来た。


「シルねぇさん! どうかしたんですか?」


 彼女は私を見つけると目を輝かせて楽しそうに声を発する。


「少しお腹が空いたから、何か食べに行こうかと思って」


「なら! もう受付終了時間で仕事も終わりだから、ついて行っても良いですか!」


「いいよ。もとよりそのつもりだった」


 するとティナは盛大に喜び、「すぐに終わらせます!」と言い残し、奥の部屋へ走っていった。


 相変わらず昔から明るい子だね。

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