☆第21話☆ 【ティナ】




 私は少し前この貿易街『アトゥラス』に定期的に訪れていた。


 珍しい薬品が売られている店がいくつかあったからだ。


 研究に必要というより、新しい研究ができるかもしれないという希望が見えていたから。


 でもその店も、もう今は無くなっている。おそらく流通問題が原因だろう。


 それから私はこの街に訪れる意味が無くなって、ここ百年訪れなかった。


 そしてその間、心配させてしまった者がこの街にいたらしい。



「ーーーーししししし、シルねぇさん......!」



「久しぶりだね。ティナ」


 ティナ。


 エルフの娘、昔から私に懐いていた街娘だ。


「シルねぇさん、もう来ないかと思ったよ......…!」


 大涙を流しながら私に抱きついてきている。


 苦しい。昔と比べて力が強くなってる......。


 あ、痛い痛い痛い。


 号泣している彼女の肩に触れて、抱きつきからそっと離れた。


「大きくなったね。もう私より背が高くなってる」


「ずっと会ってなかったもん。私も成長するよ......」


 彼女は持っていた布で涙を拭きながら答えた。


 私が昔この街に定期的に訪れていた時は、ティナはまだずっと背の低い女の子だった。


 彼女は私が訪れた時には、飛んでくるように近づいてきて、遊びを求めてきていた。


 もちろん私はそれが嬉しいと思ってた。


 でも店が途端に無くなると、無論街に行く気力もなくなり、必然的にティナとも会う機会がなくなってしまったのだ。


 でも少し見ないだけでここまで凛々しく成長するなんて、生き物とは不思議だね。


「俺、宿に戻った方がいい?」


「あ、居たんだ」


「おい」


 どうやらアトラは早速この街に来てからこの子とデートをしていたみたいだ。


 とりあえず合流しようとマッピングから彼の位置情報を読んで来たのはいいものの、宿で休まずこんなお洒落なカフェでティータイムをしてるなんて。


「ティナ、この男はやめた方がいい。良いことなんてないよ。ただ剣を振るうしか脳がないんだ」


 彼女にそう言うと、アトラが鋭く言ってきた。


「ーー俺の存在意義!」


「......宿で昼寝するって言ってなかった?」


「昼寝してからここに来てるんだよ」


 アトラと話していると、隣でポカンとしているティナが言った。


「あの......お二人はお知り合い、なんですか......?」


 するとそれにアトラが答えた。


「まぁ一応、そうだな」


「彼は自意識が強いから無視して構わないよ」


「おいっ!」


 変にイジったらジリジリとした目でアトラが睨んできた。


「冗談だって......」


 するとティナがクスッと笑って言った。


「お二人は仲がよろしいのですね」


「ティナにはそう見えるんだね」


「はい、少なくとも」


「仲が良いって言われても、ただの旅仲間だしな。そう考えたことはなかった。まぁ出逢って二週間くらいだし」


 アトラの言う通り、私たちはつい最近出逢って、つい最近まで共に歩いてここまで来た旅仲間に過ぎない。


「そうなのですね。ちなみにシルねぇとはどこで出逢われたんですか?」


 とティナ。


「こいつの家だけど」


 アトラがそう答えながら親指で私に指を指す。


「ーーこいつって言うな」


 私はそれにボソッと言った。


 思わず口に出してしまった。


「それはどういったご経緯で?」


 ティナがワクワクと伺ってくる。


 そんな聞いてきても面白い話なんてない。


 ただ家で本を読んでいたら、近くに彼らがやってきて家に入れないよう扉に結界を施していたら、アトラが力だけで開けてきた。


 ただそれだけだ。


「旅の途中だな」


「旅、ですか。何処かを目指されているんですか?」


「現状そういうのは無いな」


「ではどうして旅を......?」


 彼はその質問に対し少し沈黙したが、しばらくすると微笑みながら答えた。


「まぁ強いて言えば、神様に褒めて貰いたいからだ。『よくその身一つを鍛え上げ、世界を渡り歩いたな』って」


 ......。


 ............。


 ..................くだらない。


「私も何か注文していい? もちろん代金は自分で払う」


 座ってメニューを眺めながら言うと、ティナも私の隣に座って注文をしようとする。


「あ、では私も追加で何かを」


「じゃあついでに俺も」


 彼が座っているテーブルにはすごい量の空き皿が見える。


 たくさん食べるのはいいけど、他の心配事が出てくる。


「お金大丈夫? 銅貨しか持ってないんじゃ」


 その途端、アトラの顔が真剣になる。


 何その顔。


「甘いなシルヴィア。俺は生粋のカフェ好きだ。金銭を用意していないとでも思うか?」


「うん」


「即答すんな! そこはもうちょっと雰囲気に乗ってくれ!」


「じゃあお金はあるってことだね」


 雰囲気を壊され少し落ち込んでいるアトラ。


「ないけど......ある」


「どっち?」


「あ、ある」


「そう。あるなら心配しなくていいか」


 ティナが私達のやりとりを見てクスクスと笑い、注文が決まったらしくお店の人を呼んだ。



 ちょっと待って、私まだ何もメニュー決めてない。

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