☆第8.5話☆ 【村長の嘆き】



 一つの村を一人で支えるのは、思った以上に疲れる上、難しい。


 住民を守りたい意思でこの仕事に就いたというのに、今ではやりたくもない仕事を増やされては、面倒な事も依頼される。


 休む暇がない。


 やれ農業のためだの、やれ牧場のためだの。


 一つを解決すれば、一つの問題舞い降りてくる。


 昨日に関しては、二人の冒険者がこの村を訪れ、その内の一人の剣士に手合わせを申し込んだが、何も無かったかのような顔で圧倒される。


「一難去って、また一難......か」


 今日の仕事で疲れ果て、ソファで休んでいると、いつもこの屋敷に遊びに来る村娘が不思議な顔で聞いてきた。


「ーーなにそれ〜?」


「レーナ、俺はレーナくらいの子供時代の時が、一番輝いてた気がするんだよ」


「ん〜? ということは、私はお星様みたいに今輝いてるってこと?」


 この子は頭が回る。


 俺の言っている事の本質を確実に掴んでいる。


 なんとなくだが、彼女はこの村の長を俺から継ぐ気がする。


 九歳にしてどこからそんな思考力を得たんだとばかりに、いつも彼女の一言一句で驚いてしまう。


「そういうことだ。俺はもう、とっくに星の輝きなんか失ってるよ」


「でもバークはお日様みたいに眩しいよ?」


「お日様、ね......そう言ってくれるのは、レーナだけかもな」


 いつもこの子に癒される。


 仕事中でも彼女と話していると心が休まり、仕事に余裕が生まれる。


 オマケによく分からんスライムも居るが。


『ミューは〜?』


 レーナと手遊びのような事をしながら聞いてきた。


 あのよく分からん森で、一人で暮らしているシル姉が従えているスライムらしい。


 レーナが散歩中に拾ってきて、その日は魔物が入り込んだと、村全体が騒ぎになった。


 その後、シル姉が急に俺の寝室に入り込んで来ては、一方的に事情を説明され、住民達にもこの事を伝えるようにと促された。


『お前はシル姉との通信役だろ。褒められる言葉なんか無いぞ』


『酷い〜』


 とミュー。


『酷いのはお前だろ! 俺が仕事で忙しくなって、シル姉の所に遊びに行けなくなった時に、通信役のお前が丁度いい時に現れたから、少しでもシル姉の状況を把握出来るかもって考えたのに、なんで俺の言葉をシル姉には伝えてくれないんだよ!』



『――――ミューを怒らないで! ミューもきっと覚えてないだけだよ!』



 魔力波長で会話していると、レーナがそれに割り込んできた。


 なんかよく分からないが、シル姉が魔力には波長があるって言ってきて、無理矢理俺の魔力を改変してきた。


 それと同時にミューもこの村に住むようになった。


 シル姉は一体何がしたいんだ? 


 昔はよく遊んでくれてたのに、今では要らない仕事を増やしてくる存在になっている。


 あと狩りくらいは自分でやれよぉ! 


 俺より圧倒的に強いクセして、なんで俺が狩りをしなきゃいけないんだ。


「いや怒ってないし。ちょっと文句言っただけだし」


『完全に怒ってたよー!』


「だから怒ってないって」


『い〜や、怒ってたー!』


「怒ってない」


『怒ってたぁ!』


「――――おいレーナ! こっちは普通に喋ってんだから、波長で会話する意味ないだろ!? それ妙に疲れるから止めてくれよ」


 揶揄い上手に育ちやがってコノヤロー。


 可愛いヤツめ。


『知ってる』


「ーーふざけんなよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る