イタリア人の前でパスタを圧し折るとぶちギレるらしい。

田中彼方

納豆パスタ


 太さ1.6ミリのスパゲッティーニの束を両手でしっかりと掴み上げ、勢い良く右膝に叩きつける。

 バキリ。とボキリ。の中間のような何とも言えない破砕音と共に二人前の乾麺は真っ二つに圧し折られたのだ。



「……どうでしょうか?」


「え? 何が?」



 キョトン。そんな擬音が鳴りそうな位に呆けた顔を浮かべる目の前の女性は相も変わらず、無駄に美人である。


 採れたてのオリーブみたいな鮮やかな緑の瞳に、太陽の光をギュッと凝縮したような煌めくようなブロンド。まるで作り物のようにして顔のパーツの一つ一つが絶妙で、それぞれが彫刻のように艶やかで美しい。

 街を歩けばナンパにスカウトは当たり前。やたらめったら人目を惹くモデル顔負けの長身の美女。


 それがノーブラに伸び切った肌着一枚。おまけに下はやけにカラフルな際どい下着のみ。という残念具合に目を瞑れば文句無しの美女である。渾身のキョトン顔してるけど。


 私は思わず溜息を吐いた。



「いえ、ね。以前ネットでイタリア人の前でパスタを圧し折ると激怒する。みたいな情報を目にしましたので、試しにやってみようかなぁ。と」


「えぇ……別にそんなん気にせえへんけど。そもそもウチ、ほぼ日本人みたいなもんやし」


「いや、見た目も国籍もイタリア人でしょう、貴女。出身どこでしたっけ?」


「ナポリタン発祥の地、ナポリや!!」



 ケラケラと大口開けながら笑う年上美人の姿は何とも、まあ。残念だ。

 癖の強いコッテコテの関西弁がヨーロピアンなブロンドレディーからツラツラと吐き出される様は、そこそこ長い付き合いだと言うのにも未だ慣れないものがある。



「ナポリタンは日本料理でしょうが」


「それな。日本人は炒めたケチャップとパスタを和えるんやでー。っちゅうんのをマンマに教えたら、ぶちギレとったわ」


「リブさんは気にせず食べてますよね。毎度毎度」


「美味しいは正義やん。ウチは好きやでナポリタン。こう……粉チーズをドバーッとかけて、タバスコでビッチャビチャにすんねん。それをズゾゾッと口に流し込むんが最高やん」


「その食べ方って人によっては日本人でもキレますからね?」



 と、言うかこの女性は見た目にステ全振りしておいて、その他がズボラ過ぎる。

 気が付けば妖怪ぬらりひょんの如く我が家に堂々と居座っては飯を集り、好き勝手に己の家から持ち込んだ酒を飲んでは、飲めや歌えやとばかりに騒いでいくのだ。



「今日は手抜きで済ますつもりだったので大したもの作れませんよ?」


「またまた〜。いつもそう言いながらめっちゃ美味いもん作ってくれるやん」


「いえ、ろくに買出し出来なかったの本気で手抜きなのですが」



 あいにく未成年である私からすれば酒の味もその良さも分からないし、分かろうとも思わない。

 が、アルコールで湯だった頭のままに煮過ぎた葉物のようにグデグデになっては私にダル絡みをしてくるのは勘弁して頂きたい。

 私とて年頃の男子である。確かに発育が悪く、背も低ければろくに筋肉がついてない矮小な体躯であり、顔も女子に間違えられるような男気に欠ける間の抜けた童顔ではある。

 

 それでもルックスだけは最上級の豊満な美女に、これでもかと愛でられ抱き締められ頬擦りされれば……その、やっぱり困ってしまうのだ。



「手抜きっちゅうとアーリオオーリオかいな? ウチは好っきゃでーペペロンチーノ。ワインはもちろん、ビールにもウィスキーにも何にでも合うからなぁ」


「いえ、今回は和風パスタです。こいつの賞味期限が近いので」



 無駄にデカい家庭用冷蔵庫から取り出したのは3パックで70円の特売品だ。

 賞味期限は多少過ぎても健康に害は無いと知識では知っているものの、どうせなら美味しいうちに食べてしまいたいのは料理を趣味にしている人間なら当然である。



「おっ、納豆やん。ええやんええやん、白いご飯はもちろん、餅やパスタにもあう最高の食い物やな」


「割と今さらですけどリブさんって好き嫌い無いですよね? 納豆も生魚も、なんなら生卵も普通に食べてますし」


「せやからウチはほぼ日本人みたいなもんやて。3歳ぐらいから大阪に住んどったし」


「東京に来るまでずっと大阪で?」


「うんにゃ。パパの仕事に引き回されて三重やら兵庫やらあちこち引っ越したで。せやからウチの方言って、ちゃんぽんしとんねん。京都行った時なんか露骨に煙たがられたわぁ」



 私は納豆が好きだ。匂いが独特だから苦手な人も多いとは聞くが、少なくとも私も目の前の似非イタリア人も発酵したお豆さんはイケる口なのである。



「関西の人って糸引き納豆は苦手な人が多い。みたいな事をどこかで聞いた覚えがあるんですけど」


「そうなん? ウチの家ではマンマ以外は普通に食うとったけどなぁ」


「お母さんは苦手だったんですか、納豆?」


「こんな腐ったもん食ったら腹壊す!! 言うてぶちギレとったわ。チーズかて似たようなもんなのになあ」


「まあ、見た目のインパクトがありますから」


「フォルマッジョ・マルチョには勝てへんやろ」


「蛆虫の沸いたチーズと比べないで下さい」



 以前お土産と称してバイオテロの病原体を我が家に持ち込んできた恨みは未だに忘れない。元々虫は嫌いだったのにアレのせいでトラウマになったのだ。


 雑談をしながらキッチンに向かい、すっかり慣れた手付きでエプロンを装着して鍋に火をかける。

 諸事情あって実質の一人暮らしを強いられているようなものだが、本来なら我が家は両親健在の一般家庭。小柄な私には十分な広さのキッチンはノビノビと料理に勤しむ事ができる。



「くふふぅ……ええなぁ。やっぱりええなぁ」


「何ですか急に」



 いざ調理開始。といったところで背後からは何とも怪しい含み笑い。

 振り返ってみればリブさんがニヤニヤとした粘着質な笑みを浮かべている。その嫌らしさといったら、汗で透けている女子生徒が着た体操着の胸元を眺めている時の、体育教師である油小路先生を連想させた。



「真っ白な膝小僧が可愛いショタっ子がエプロンつけて三角巾をキュッと縛ってる絶景……これだけで酒が進むわぁ!!」


「あのですね、私はもう来年には高校生なのでショタって年頃では無いのですが? てか然りげ無くもう飲んでるし」


「実年齢より見た目が大事なんよ!! 世のおっさん共がロリババアにブヒブヒ言うてるようなもんやて!!」


「現役の女子大生がおっさんと自身を同一に語らないで下さいよ」



 どっから取り出したのか、いつの間にやらワインを煽っては一口サイズのチーズを肴に人の事をネバついた視線で視姦する美女。ならぬ痴女に嘆息。

 主に臀部ら辺に納豆よりも粘つく視線をねっとりと感じつつも、まな板の上に納豆を一パック開けた。



 納豆パスタはパスタ料理の中でも非常に手軽で誰にでも作れる手抜き料理の代表格。

 白米によく練った納豆をそのまま乗せれば美味しく頂けるように、パスタにもただ乗せるだけでそれなりに美味しく出来てしまう。


 とは言え、せっかくの料理だ。どうせなら少しでも美味しく仕上げたいのが趣味人のサガである。

 私はまな板に広げた納豆を包丁で細かく微塵切りにした。トントンと子気味良い音と共に納豆独特の粘り気が万能包丁に絡みつく。

 少々面倒な工程ではあるが、これは結構大事な作業なのだ。



「隙ありぃ!!」


「うひゃあ!?」



 突然の臀部への衝撃に、思わず甲高い悲鳴が私の喉の奥から飛び出した。

 包丁仕事が一息ついたところを見計らっていたのだろう。

 いつの間にやら背後に忍び寄っていたリブさんがムギュッと音立てるようにして私の臀部を握って来たのだ。



「くっふふぅ。相変わらずバンビちゃんはええ尻しとるのお。短パン越しとは言え張りがあって幾ら揉んでも飽きが来うへん。これは一級品やー!!」


「ちょっと!! 料理してる時は悪戯しないでって毎回言ってるでしょうが!! ってか酒臭っ!! どれだけ飲んだんですか貴女!!」


「大袈裟やなぁ、大して飲んでへんって。ほんの2、3本ってとこやん」


「本!? 杯じゃなくて本!? まだ料理始めて3分も経ってないのに!?」


「ワインなんてイタリア人にとっては水みたいなもんやん」


「全国のイタリア人に詫びなさい今すぐ。あぁ……もう、いい加減離れて下さいよ」



 何やら後ろでぶーたれてる20歳児を振り払い、包丁を丁寧に洗って納豆の粘り気を完全に落とした後、用意しておいた長葱。それから紫蘇を細かく刻む。

 今回の包丁仕事はこれで御仕舞。やはり納豆パスタは手軽に作れる料理の代表格だ。



「なあなあ。おネギさんと紫蘇を刻むんは分かるんやけど、何でわざわざ納豆までこんな微塵切りにするん? ここまで刻んでもうたら納豆の原型を留めて無いやん」


「粒の大きさにもよるんですけど、納豆っていざ食べようとする時にパスタに中々絡んでくれないんですよ。箸で食べようにもフォークで巻こうにも口に入れる前に豆だけ落ちちゃうんです」



 納豆ご飯として食べる分にはお米がクッションとなって納豆を包んでくれるので問題なく食べれるのだが、パスタとなるとそうはいかない。豆がポロポロと零れ落ちてしまうのだ。

 これではせっかくの納豆とパスタの組み合わせが口の中でバランス良く馴染んでくれない。



「なので納豆を上に乗せる具材としてではなく、ソースとして味わう為にあえて細かく刻むんですよ。こうする事でパスタに良く馴染んでくれるので食べ終わった時に納豆だけが皿の上に取り残されるような事を防げるんです」


「ほ〜ん。でもソースの具材になるまでチミッこくしてしもうたら、あんま納豆食った気にならへんとちゃう?」


「そこは考えてますよ。今回は2人前なので3パックの納豆を使っています。細かく刻んだのは1パックだけ。残りの2パックはそれぞれ出来上がりの時に上からかけるつもりです」


「成る程なぁ〜」



 リブさんが感嘆の声をあげている。大した技術でも無いのに、そうも感心した素振りをされると何だか気恥ずかしい。

 これでゴクゴクとワインのボトルをラッパ飲みしながら、人の尻を撫で回してさえいなければもうちょい素直に喜べたのだが……。



「と言うかいつまで人の尻を触ってるんですか?」


「ん〜? ええやん別に」


「これ男女の立場が逆だったら普通に犯罪ですからね」



 冷静に考えれば私は未成年で彼女は成人しているので、現時点でも訴えれば勝てるような気もするのだが……。

 まあ、別に男の尻を触って何が楽しいのか分からないが彼女からのセクハラじみたちょっかいは割といつもの事なので、慣れたものではあるのだけれど。



「あれ? それパスタ茹でるフライパンやろ? 何で塩や無くて醤油入れとるん?」


「私は和風パスタを作る時は塩じゃなくて醤油を入れるんですよ。フライパン一つで作る時はそっちの方が味が染み易いので」



 厚底のフライパンは鍋としても十分に使える。

 入れ過ぎたりしないように慎重に醤油を入れて塩味を足し、味醂で甘みを調節。それから顆粒の和風出汁を適量。納豆についていた付属のタレもここでフライパンの中に投入。

 料理に慣れていなかった頃がなんだか懐かしく思えてきた。当初は計量カップや大匙小匙を計るスプーンが欠かせず、ミリ単位できっちり分量を計ってから準備していたのだったっけ。




「ほーん。つまりリゾッタータかいな」


「ええ。日本だとワンパンパスタの愛称の方が浸透してますけどね」


「ああ。料理研究家のユーチューバーさんの影響か、やけに流行っとるよなぁ最近」


「実際に便利ですしね。洗い物も少なくなるし乳化もしやすいですし。最近はペペロンチーノを始めとしたオイル系のパスタを作る時なんかもワンパンでやってますし」


「これまたマンマが見たらぶちギレそうやなぁ」



 沸騰したフライパンに冒頭で圧し折ったパスタを満遍なく投入。茹で時間は7分設定なので1分から1分半程度早めに茹であげるのが美味しく作るコツである。

 もっとも、今回は茹でると言うよりも煮るに近い調理法なのでフライパン内の水分が蒸発しきらないか確認しながら水分量を調節するのだが。

 気持ち水分が少ない気がするので強火から中火に調節。これでも水気が足りなかったら適度に水を足してやればいい。



「あとはもう麺が茹で上がったら終わりなん?」


「大体は終わりですね。手軽に作れるのが納豆パスタの良いところですから」



 そんな会話をしながら冷蔵庫から週末に作り置きしておいた常備菜を取り出す。

 今回はトマトとアボガドの胡麻油和え。それから蓮根と獅子唐のキンピラ。

 別の鍋では既に味噌汁を仕込んでおり、具材は豆腐とワカメに余っていた長葱を入れたもの。



「パスタに味噌汁って我ながらミスマッチな気が。まあ、和風パスタだからギリギリありかな?」


「ええやんお味噌汁。ウチは好きやでぇ、バンビちゃんが作る汁物は酒にも合うし」


「汁物で酒を飲むってどうなんですか、それ」



 液体に液体って。何だか想像するだけで水っ腹になってしまいそうだ。

 あといい加減に僕をバンビちゃんと呼ぶのを止めて欲しい。もう来年には高校生になるのだから、あまり子供扱いしないで欲しいのだ。



「おっ。タイマー鳴った」


「いい感じに水分飛んでますね。ではここで一気に強火にして……リブさん。日本酒とかって持って来てます?」



 本来なら未成年でも買える料理酒で十分なのだけれど、少し背伸びしたい気分の時は日本酒の方が香りが良くなるのだ。



「モチロンや! 色々あるで〜菊水に久保田、八海山に天狗舞。この獺祭なんて大吟醸の別選もの!! 超高級品や!!」



 酒の話を振るとこれだよ。その量をどうやって持ち込んで、その上それをどっから出したのか。とツッコミたくなるも、無駄なので飲み込んだ。

 あと酒の銘柄なんか言われても分からない。こっちは日本酒と焼酎の区別だって曖昧なのだから。



「そこまで高級じゃなくて、出来れば癖の無いお酒でお願いします」


「癖が無い。っちゅうんなら『上善如水』やな!! 正に名は体を表す。ちゅう言葉がぴったりな酒で澄み切った水のようにゴックゴクいけてまう絶品の銘酒で「パスタ伸びるから早くして!!」



 何やら恍惚とした顔でペラペラと蘊蓄を語るナポレターナから瓶を強奪。

「いけず〜」と言いながら人の背中にのの字を書いてる酔っぱらいを尻目に、水分が殆ど蒸発したフライパンに日本酒を一回し振り掛ける。ジュワッといい音が響くと同時にムワリと酒精が辺りに飛んでいく。

 リブさん曰く純米酒といって日本酒の中でも結構いい部類の種類を使ったからなのか、それともこの上善如水という銘柄が素晴らしいのか。

 安いアルコール独特の華に刺さるような悪臭は一切せず。むしろフワリと優しく華のような香りが印象的だった。



「酒精が抜けきったら火を止めて、ここで最初に細かく刻んでおいた納豆。それからバターを投入します。今回は2人前なのでバターは20グラムです」


「あぁん、もう。これ匂いだけで絶対に美味いやつやん」


「納豆とバターって愛称抜群なんですよね」



 昨今どんな食品も値段が高騰しているとは言え、バターだけは冷蔵庫に常備しておきたい。

 今回のような納豆パスタだけでなくナポリタンやボロネーゼ。パスタ以外でもソテーやオムレツ、肉じゃがやステーキにまで。

 どんな料理にも味にコクと香りを足してくれる万能食材なのだから。

 


「お皿に盛り付けます。熱々のパスタの上によく練った納豆を1パック。その上から刻んだ葱と紫蘇。最後に刻み海苔で化粧をしたら私流の『納豆パスタ』の完成です」


「匂いだけで絶品やん!! 早う食べようや!!」


「洗い物だけしておきたかったんですけど……まあ、後でいいか」



 パッと見は知的でクールなブロンド美女なのに、お目々はキラキラで酔いのせいか顔は真っ赤。腕を上下にブンブン振っては催促する姿はとても歳上の女性とは思えない可愛らしさがあった。

 存在しないはずの尻尾を左右にブンブン振っている姿を幻視して、思わず苦笑。


 まあ、作り手としてはそこまで喜んでくれると純粋に嬉しいものがある。

 歳下の異性の家に上がり込んでは飯を強請る残念っぷりは思うところは有るとは言え、作り甲斐があるのは確かなのだから。



「偉大なる父よ。あなたの慈しみに以下略。アーメンラーメン冷やソーメンっと。ほな、いただきまーす!!」


「ねえ、それ略していいものなの? 宗教ネタってデリケートだからちょっと怖いんですけど」


「マンマの前でやったらでっかいチーズでぶん殴られるけど今は居ないから大丈夫や!! そんなことよりパスタ、パスタ」



 思わず冷や汗が出てきた私の心配などなんのその。

 リブさんはうっひょるんるんと音符が飛びだしそうな程にご機嫌な様子器用に箸を使って納豆パスタを勢いよく口に頬張った。

 ピカーン!! そんな擬音と共にオリーブ色の瞳が輝いた気がする。



「うまいぞー!!」



 あと口から光線が出た。

 なんでやねん。



「どこの味皇ですか貴女は。と言うかそこはせっかくなのでイタリア人らしくボーノと言って欲しかったのですが」


「そんな細かい事どうでもええって!! 納豆とバター。それに麺つゆ風の味付けにたっぷりの海苔の風味が完璧にハマっとる!! 食感も葱が良い感じにアクセント効いてるし、青紫蘇で後味サッパリや!!」


「まあ味醂多めに入れましたからね。醤油を入れ過ぎたり甘めが好きだったら砂糖を足したりもするんですけど、今回の甘さは味醂オンリーです」



 食事のマナーなどなんのその。正に齧り付くような勢いでリブさんはパスタを頬張っている。

 見た目が美人なだけに物凄く残念な絵面だよなぁ。ジト目でながら私もパスタを口にした。



「うん美味しい。茹でるんじゃなくて煮たおかげか麺の一本一本にしっかり味が染みてる。納豆も細かく刻んだ甲斐あってしっかりと麺に絡み合ってる」



 茹で時間より早めに水気を切り、仕上げに日本酒で蒸し上げた成果だろう。

 噛み応えのあるアル・デンテ状の麺はもっちりふっくらとしていて食べ応えが十分だ。



「細かい納豆ももちろん美味いけど大粒の奴も何かお得感あって嬉しゅうなるなあ。当たりクジ引いた時みたいなワクワク感って言うか」


「まあ、言わんとしてる事は何となく分かりますよ。取り敢えず喜んで頂けて何よりです」



 苦笑一つ漏らしながら、私は味噌汁を啜る。

 パスタに味噌汁とはコレ如何に? と我ながら心配な組み合わせだったがベースが和風ソースなだけあってか味噌汁とのペアリングも存外に悪くは無い。


 もしも途中で飽きが来たら味変だって簡単だ。納豆に付属している辛子をピリリと効かせるも良し。ブラックペッパーを軽く振り掛けるのも締まりか出て良し。

 調理時間10分にも満たない手抜き料理ではあったが、大成功だったようだ。



「パスタ。っちゅうたらワインが安牌やったけど、この納豆パスタなら日本酒が合うなぁ。納豆の美味みと日本酒の柔らかい飲み口とほんのりとした甘み。こりゃ堪らんわ」



 ズゾゾッとラーメンでもたべてるのかとツッコミたくなる勢いでパスタを啜っては酒を瓶ごとグビリ。

 思い出したかのように副菜に箸をつけたと思えばまたグビリ。お味噌汁を一口飲んではまた酒をグビリグビリ。


 何と言うか、見ていて本当に心配になる飲み方である。



「どうでもいいですけど飲み過ぎじゃないですか? まさか、また我が家に泊まっていくつもりなんですか?」


「ケチケチせんといてぇな。こぉんな美人なお姉さんと一つ屋根の下で一晩過ごせるんやで? ムフフなご褒美イベントみたいなもんやないか?」



 リブさんは悪戯気な笑みを隠そうともせずに、自分の胸を両手で掴み上げてはタプタプと揺らしてみせた。目に毒とはこの事である。



「げ、下品な真似は止めて下さい」


「今更かまととぶるような真似せんでもええのに〜。普段からチラチラ目線が引き寄せられてんのはお姉さんにはバレバレなんやで〜」


「見てません!!」



 この手の話題は苦手である。今度は両腕で挟み込むようにしてバストを強調してくるリブさんから私はサッと目を逸らした。

 元々距離感が近い人ではあるのだが、酒が入ると露骨にセクハラが酷くなるのがこの人の悪癖である。なんだかんだ言って調理中もずーっと人の尻を擦っていたし。



「毎度毎度、美味しいもん作って貰ってる御礼に……そや。お姉さんがチュウしたるわ! こんな美人さんがファーストキスの相手やなんて一生自慢できるで!!」


「御礼なんていりませんからキスも結構です!! ……あ、ちょっとにじり寄らないで!! ヤバいこの人泥酔してる!! ねえ、ちょっとマジで止めて下さい!!」


「へっへっへ〜。兄ちゃ〜ん、助平しようや〜」


「ちょっ、口に納豆ついてますから!! まだ若干唇が糸引いてますから!! 本当マジで止めっ……いやああああああああ!!!!!!」
















 私のファーストキスは酒臭さと発酵臭が混じりあった、非常にネットリ(物理)としたものでした。




 

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