第25話 受付さんと上級探索者
「やあ受付さん。こんにちは」
「あ、春乃さん……」
また来たわね女狐?
私の桔梗君を横取りしようったってそうはいかない。上級探索者だかなんだ知らないけど、サナの桔梗君にちょっかいなんて絶対に許さないから。
「嫌そうな顔しないでよ。僕は桔梗君を取ったりするつもりはないし、今日は単純に探索者として来てるんだから」
「そうですか。では私の桔梗君に話しかけないで下さい」
「受付さん、結構な無茶言うよね。ダンジョン内で会ったら挨拶くらいはするでしょ」
「しなくて結構です」
「えぇ? それだと僕が感じ悪い人になっちゃうよ」
出来れば感じ悪い人と桔梗君に認識されて欲しい。
「ね、ね、せめて挨拶はありにしない?」
「仕方がありませんので挨拶だけにしておいて下さい」
「はいはい。あ、でも桔梗君が悪い事してたらお仕置きするけどね?」
悪い事?
悪い事なんて…………まさか、昨日の夜に上田さんや佐藤さんを桔梗君が脅迫した事を言ってるの!?
くっ。この女狐、どこまでもサナと桔梗君を邪魔しようとして……。
桔梗君が警察に捕まらないように、何が何でもサナが守らないとっ!!
◇◇◇
「ま、地方ダンジョンなんてこんなもんだよね」
1階層はスライムで2階層がゴブリン。しかもゴブリンは明らかに最低レベル。
「上野ダンジョンだったら2階層のゴブリンでも絶対レベル3はあるんだけど、流石は地方ダンジョン。ゴブリンのレベル低すぎ」
僕は昨日の桔梗君の味噌カレー牛乳ラーメン発言から、魔物スレに外道な書き込みをしたクソバカが桔梗君なんじゃないかって疑念を抱いてる。
今日はそれを確かめる為に青森ダンジョンに来てみたけど……。
「にしても全然いないなぁ。すれ違ったかな?」
初心者だったら絶対2階層にいると思ったのに全然いない。
もしかしたら桔梗君は今日来てない?
「でも受付さんの話しぶりだと今日も来てるっぽいんだよねぇ」
もし桔梗君が今日来てないなら、受付さんがあれだけ嫌そうな顔で僕に対応するのはおかしい。
絶対来てると思うんだけどなぁ。絶対いるに決まってるよねぇ。
桔梗君は探索者になって3週間経ってないって言ってたからとりあえず2階層回ったけどいなかったし、実は3階層にいるとか?
一応行ってみようと思って3階層に上がると、3階層にはレベル17のオークがいた。
「いやいやいや!」
おかしいよね? 3階層にオークが出るなら普通はレベル10とかだよ?
何でレベル17? 完全に初見殺しじゃん。
「青森ダンジョンやば。ってか3階層にもいないの?」
うわぁ。桔梗君、3階層にもいないよぉ……。
これだけ探していないんだから運悪くすれ違ったとか今日は来てないんだって普通は思うんだろうけど、もしかしたら既に桔梗君が4階層入りしてる可能性を僕は考えてしまった。
常識ならまずあり得ない。
でも、そのあり得ない事を過去に実践してレベルを上げ、上級探索者にまでのし上がったのが僕の所属するパーティー『勇聖剣魔』なんだから、桔梗君が実は強スキル持ちって可能性を僕は考えちゃう。
桔梗君が僕たちとは違って最初っから自分のスキルとかを隠してるって事は十分あり得るよね。
「4階層も行ってみよっかな」
◇◇◇
「いやおかしいよね!?」
「わふ?」
「あ、ごめんごめん。ゴンに言ったんじゃなくて」
疑問符を浮かべ「どうしたの?」と言いたそうなワイルドウルフのゴンを撫でる。
本当はもっと仲間にした魔物がいるんだけど、魔物使いが普段活動するダンジョン以外のダンジョンに行くときは、魔物使いが選んだ一匹しか連れていけないルールになってるんだよね。
魔物使いだけめっちゃ不利だよ。ダンジョン作った奴は何考えてるの?
「それにしてもここ、絶対おかしいよ……」
4階層にはレベル28のオーガが、5階層にはレベル35のピクシーが現れた。
単純に階層に対して出現する魔物の強さがおかしいと言うのもあるけど、単にそれだけじゃなくて、魔物から得られる経験値が異常に渋い。
レベル35のピクシーを倒したら経験値が100~120くらい貰えるのが普通。
なのに僕が倒したピクシーは、経験値増えるスキルを加味しなければたったの50だ。あまりにも渋すぎる。
「なにこのダンジョン? 探索者絶対殺すマンじゃん」
経験値は出し渋るけど強い魔物を惜しみなく出すとか最低だよ。僕だったらこんなダンジョン即行でおさらばする。
「にしたって桔梗君いないなぁ」
いくら強スキル持ちでも、始めて3週間ちょいで6階層は考えにくいけど……。
「ここまで来たら6階層も覗いてみよっかな?」
色々と空振ってるけど、せっかく地方ダンジョン来たんだし6階層くらいまでは見ておこうっと。
桔梗君がいないならいないでまた日を改めれば良いだけだし。
そうして僕が6階層に上がり、目にした光景は…………。
「桔梗君っっ!!」
桔梗君がスライムに拘束されてるっ!?
しかも、拘束されてる桔梗君の傍には見た事もない筋肉質の悪魔系魔物がいて、桔梗君を見下ろしてる。
マズいっ! このままじゃ桔梗君が……。
「待っててっ! 今助けに行……え?」
僕が助けに向かおうとした瞬間、悪魔の魔物が凄い速さで僕の目の前に移動してきた。
いくらなんでも速過ぎる。僕が連れて来た最も頼りになる魔物のゴンが、悪魔の動きに付いていけてない。
「ゴンの反応が遅れるだなんて……」
ゴンのレベルは72。
素早さを売りにしているワイルドウルフが反応出来ないって事は、目の前にいる悪魔のレベルは100どころか150だって超えてるかもしれないって事。
こいつ、6階層にいて良い魔物じゃないよ。
「はっ……ははは……覚悟を…………決めるっ!」
生命の危機を感じる僕は自然と笑いがこみ上げてきた。
僕は多分、逃げられない。でも、桔梗君なら上手くスライムの拘束から抜け出しさえすれば僕を囮にして7階層に逃げられるかもしれない。
どうせ死ぬんなら、最後に人助けでもして死のう。
「桔梗君逃げてーーっ!! 僕が囮になるっ!!」
大声で叫び、桔梗君に僕が囮になる事を知らせた。
「ゴン。僕を囮に逃げて。ここは僕が時間を稼ぐから」
「ガウッ!!」
「え?」
ゴンは僕の命令を聞かず、僕の横で力強く立ち続けている。
ゴンが僕の……魔物が魔物使いの命令を無視した?
「ガウッ! ガウガウッ!!」
「ははは……。馬鹿だねゴンは」
この場から逃げないという事がどれ程危険なのか理解してるだろうにね。
「ごめん。馬鹿は僕だった」
初めてのダンジョンを碌な調査もせず次々と階層を駆け上がってしまった僕と、僕の為にこの場に留まり続けるゴン。
どっちが馬鹿かは明白だ。
不思議だなぁ。
今から死ぬって言うのに、僕やゴンよりも圧倒的格上の魔物と相対してるって言うのに、何でだか心が折れてないよ。
にしても悪魔は全然攻撃してこないね。どうしてだろう。
あぁ、僕が今から死ぬって自覚してるから、まるで時間が圧縮されたかのように時の流れをゆっくりに感じてるのかな?
臨戦態勢でこれだけ長考出来てるんだから、走馬灯みたいなもんか。
ごめんねゴン。僕、魔物使い失格だよね?
みんな、ごめん。僕は死ぬから、勇聖剣魔はこれから勇聖剣として活動して……?
「最後に一花咲かせるとしようか」
「春乃、こんな所で何をしている」
え?
僕が覚悟を固めていざ逝かんと思ったその時、桔梗君が悪魔を殴り倒し、悪魔の頭を地面に抑えつけ、真っすぐ僕と視線を合わせて声を掛けてきた。
僕でさえ格上と認め、死を覚悟した悪魔を相手に……。
「こいつは俺が倒しておく。春乃は一旦5階層に下りろ。春乃がいては俺も力を出せない。後で落ち合おう」
「う、うん」
桔梗君の声には全く緊張感がなく、一瞬見えたその身のこなしは、確かにこの悪魔を一人で相手に出来そうだと感じさせるだけのものがあった。
桔梗君の邪魔しちゃダメだ。僕程度では支援どころか足手まといにしかならない。
僕は全力で階段を駆け下り、息を切らしながらも自身の胸の高鳴りに戸惑ってる。
「はぁ……。ここまで来ればもう大丈夫」
何だろうこの気持ち。心臓がドキドキする。
死を感じたから? それとも、全力で走ったから?
颯爽と現れ助けてくれた桔梗君は格好良かった。
ダンジョン受付で僕にパワハラした時の桔梗君も、今にして思えば僕をこのダンジョンに入れさせない為追い払おうとしたんだと思う。
※勘違いです。
自分が嫌われるかもしれないってのに、僕にパワハラしてまで追い払おうとしてくれてたなんてね。
※100%桔梗の都合です。
「桔梗君の事を考えるとドキドキする……」
理解した。やっぱりそうだ。
僕は……桔梗君に恋しちゃったんだと思う。間違いなく僕のこのドキドキは桔梗君由来のものだ。
あんな事があったばかりなのに、反省するどころか桔梗君の事を考えずにいられないなんて……。
僕って案外乙女だったんだね。
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