魔物の使い方を間違えている魔物使い

隣のカキ

第1話 魔物使い

2125年の日本某所



「ま、魔物使いぃ!?」


「はい。佐倉桔梗キキョウさんは魔物使いです」


「え? 何で!? 何で!?」



 俺、佐倉桔梗キキョウは日本ダンジョン協会の青森支部受付で叫んだ。


 叫ぶのも無理はない。そりゃだって……。



「俺、前衛職になりたいんだけど」


「そう言われましても、職業欄には魔物使いと表示されていますよね? 前衛での戦闘には不向きですよ?」


「ですよねー……」



 今から80年前、世界各地に突如としてダンジョンが出現した。


 ダンジョン内には危険な魔物たちがうようよ居て、重火器も効果は薄く、対策と言えば重火器を使わずに戦闘する事のみ。


 当初は危険であるとして入口は封鎖されていたのだが、ダンジョン内には魔物が蔓延る一方、科学では説明のつかない劇的効果を見せるアイテムやらエネルギー資源として使える魔石を魔物が落とす事もあり、人類はダンジョンを『危険なもの』から『資源の宝庫』として認識を改めている。


 こうした過程を経て、ダンジョン内から資源を持ち帰ろうとする者の職業を探索者と呼ぶようになったのだ。



「あの、ダンジョンでソロ活動したいんですけどっ! 何とかなりませんか!?」



 ダンジョンが出現した当初は稼げていたらしいが、今の探索者という職業はただでさえ初心者ではまともに稼げないのに、パーティーなんて組んでいたらもっと稼げないと言われている。


 なんとかソロで活動したいのだ。


 就職活動に失敗し、大学を無事卒業出来てしまった俺は安易に探索者という道を選んでしまった。


 それというのも、どうせ就活に失敗したならいっそのことレベル上げをしようと思ったから。



「探索者には適性のある職業が勝手に付与されますので職業に関してはどうにもなりません。スキルの取得方法等であれば多少はお手伝い出来ますよ? 後、魔物使いでソロ活動はやめておきましょう」


「俺の事心配してくれるんですか?」


「え? まぁ、一応」


「俺は22歳独身なのでお姉さんからの心配は大歓迎ですよ?」


「……」



 流石は俺が一目見てヒロイン枠に決めてしまった程の受付のお姉さんだ。少しだけ笑顔が冷たくなったような気がするけど、お姉さんは俺を心配してくれているに違いない。


 ……そう思っておかないとスベッた俺がいたたまれないじゃないか。



「俺がソロ活動をしたがるのには勿論ちゃんとした理由があるんです」


「は、はぁ……」


「それはレベル上げです」



 就活に失敗した俺の目的はとにかくレベル上げ。レベルが上がるとステータスが上がる。そうすると人が普通に鍛えた上限などを遥かに超えて能力が上昇する。


 つまり色んな分野で俺TUEEEEEが出来る。お金も稼げる。女の子にもモテる。


 良い事しかないだろ。


 レベルが上がれば就職活動にも絶対有利なはず。


 レベル上昇の恩恵は単に肉体能力の向上ばかりではなく、頭が冴え渡るようだととある有名探索者の自伝にも書いてあったのだ。


 だから先ずはレベル上げ。


 暫くの間はその日食える分だけ稼げれば良い。だがパーティーなんて組んでいたらそれすらままならない。



「レベルを上げたいなら無理な事ばかり言わずに誰かとパーティーを組んだ方が良いです。前衛職ならともかく、後衛職でソロは厳しいと言わざるを得ません」


「経験値と取り分が減るじゃないですか」


「経験値と取り分以前に…………死にますよ?」


「あ、はい」



 受付のお姉さんは顔の造形が美しい。その分、圧も強い。


 うん。死にたくはないな。



「2階層までなら後衛職でも何とかなりますので、一度試してみて厳しいと感じればパーティーを組んでみて下さい。それでは次の方」



 受付のお姉さんに軽くあしらわれてしまった。と言うか次の人なんていないじゃねーかよ。


 次の人を待たせていたなら申し訳ないと思い振り返ってみるが、後ろには誰もいなかったのだ。


 どうやらこのお姉さんは俺との会話を打ち切りたいらしい。


 この人、俺のヒロイン枠じゃなかったかぁ……。ソロじゃないと経験値も金も稼げないんだけどなぁ……。


 仕方ないのでダンジョンに入ってみよう。



◇◇◇



 ダンジョン内は薄暗く、それでいてなんとなーく粘つくような嫌な気配が立ち込めている。


 ガチモンの心霊スポット行った時みたいな超嫌な気配。でも来てしまったものはしょうがない。


 昔修学旅行で買ったお土産の木刀しかないけど、何とかなると信じよう。1階層は雑魚しかいないって話だし。



「ステータスオープン」






 ステータス


名前:サクラ キキョウ

職業:魔物使い

Lv:1


HP:12

MP:15

SP:0


スキル

魔物調教1


次のLvまでの経験値20




「やっぱ前衛は無理かぁ……」



 凄い才能があって職業に関係ない前衛職系スキルとかあったらと思ったけど、世の中そう甘くはないらしい。


 後衛職でも前衛職系のスキルを持ってる人が稀にいる。でもそれは天才とか超絶努力した人が得られるって話。


 俺のようなごく普通の一般人には与えられていなかったようだ。


 まぁそんなもんだよね。



「仕方ない。適当に魔物調教して地道に活動するしかないな」



 俺はこの青森ダンジョンにある1階層の探索を開始した。


 1階層の定番魔物であるスライムは雑魚だ。雑魚を仲間にして意味などあるのか? と思うかもしれないが、俺は魔物使いだからスライムを調教して仲間にしなければならない。


 魔物使いは魔物を戦わせる職業なので、魔物がいないと始まらないのだ。


 使えない魔物筆頭ではあるが可愛いので癒しにはなると信じよう。



「ガッカリだ。マジでガッカリ…………オラオラオラッッ!!」



 偶々通路にいたスライムがぷるんと震えていたので即座に木刀を叩きこむ。


 スライムはプシューと煙を上げて消え去り、スライムのいた場所には小さな魔石が転がっていた。


 スライムと言えども殺す事に忌避感がある人もいるって聞くが、俺には理解出来ないな。ゲームで言うところの経験値になるんだから、何も気にせず流れ作業のように迷わずヤれば良いだけなのに。


 確かに可愛らしいがそれだけだ。木刀を叩きこむのに躊躇する事もない。


 ふむふむ。ステータスを確認したところ、スライムは経験値2か。


 あ、やべ。魔物捕まえなきゃダメじゃん俺。



「確か魔物を仲間にするには魔物を弱らせるか、心が通じ合えば良いんだったか?」



 心が通じ合うって何だよ。あんなゲル状の生き物とどう心を通わせろと? これ考えた奴って馬鹿じゃねーの?


 うだうだ考えても仕方ないので俺は探索を続行する事にした。


 次に見つけたのは赤色のスライムだ。さっきの青いスライムとは違い見た目が気持ち悪い。



「お前とは心が通じ合う気がしない。死ね」



 サクッと木刀で赤いスライムを潰すと、経験値は2だった。


 色違いだからと言って強いとか経験値が多いとかそういう事はないみたい。紛らわしい奴め。


 仲間にするなら出来れば青いスライムが良いな。赤い奴は血の色みたいで気持ち悪いし、何考えてるのか分からん。



「お? もう階段か」



 どうしよう。まだ魔物を捕まえてない上にレベルも上がってない。


 でも1階層がこんなんだとレベル上げが進まないよなぁ……。



「試しに行ってみるか」



 死にたくはないけど2階層までは初心者用のチュートリアルみたいなもんだっていう話だ。木刀持ってるしいけるでしょ。


 俺は階段に足を踏み入れ、2階層へと駆けあがった。



◇◇◇



 2階層に出てくる魔物はゴブリンだ。


 ゴブリンは子供くらいの大きさで力もそれ程強くない。前衛職なら初期レベルでも苦労はしないらしい。後衛職でも一応戦えるみたいではある。



「早速お出ましか」


「ギャギャッ」



 何を言いたいのか分からん。



「お前、マジでブサイクだな。さては彼女とかいないな?」



 いや、ゴブリンの彼女なんだから相手も所詮ゴブリンか。


 俺は憐れみを覚えゴブリンを馬鹿にした発言をかますが、ゴブリンが言葉を理解した様子はない。


 言葉が通じないのだから心も通じる気がしない。


 こんな調子でゴブリンを仲間に出来るのだろうか?


 でも流石にゴブリンくらいは仲間にした方が良いだろ。魔物調教出来るかどうかも大事だが、魔物使いが今後も魔物なしでやっていけるとは思えないし。



「来い」


「ギャギャッ!!」



 俺が覚悟を決めて待ち構えると、ゴブリンは見た目の割に素早くこちらへ迫ってくる。


 思ったよりも速い。ゴブリンの移動速度はまるで成人男性並だ。力は弱いがそれなりに素早いという事か。


 人型である事も相まって、ゴブリンに対しては攻撃する際忌避感を覚える人がスライムを相手にする場合より多いらしく、ダンジョン探索者をやっていけるかどうかの分かれ道になるのがこのゴブリンと聞く。


 俺はレベル上げをして人生バラ色に過ごしたいという崇高で明確な目的があるのでゴブリンを攻撃する事に躊躇なんてないわけだけど。



「くらえっ!」


「ギャンッ!!」



 俺が振った木刀はゴブリンの肩に命中。


 本人は大変痛そうにしてらっしゃるけど、顔がブサイク過ぎて可哀想だとは一切思えない。ついでに言うと、コレと心が通じ合う気がしない。なのでスキルが上手く発動するかどうかも怪しい。


 でもやるしかないな。



「魔物調教」


「ギャッ!?」



 俺は恐る恐る弱ったゴブリンに手をかざし、スキル名を告げた。


 するとどうだ。ゴブリンが白目でビクンと痙攣し始めたじゃないか。


 うん。キモイけどちょっと面白いかもしれない。



「取り敢えず調教出来たか」



 急にスンと大人しくなるゴブリン。


 木刀一発で弱るんだからゴブリンも雑魚だ。いや、でも普通の人だって木刀一発でそれなりに弱るかもしれないな。



「あれ?」



 後衛職の俺の攻撃一発でそれなりに弱るという事は、ゴブリンの強さは後衛職の人を少し弱くした程度って考えておいた方が良いか。


 前衛職なら苦労しないだろうけど、後衛職の俺がゴブリンに囲まれるのはマズそうだ。



「ギャッ」


「何だ?」



 味方になったゴブリンは俺を見て何かを訴えかけている。



「何か言いたい事があるとかか?」



 しかし待てよ?


 相手は所詮ゴブリン。どうせ大した事は言ってないだろ。


 それに、間違ってもこいつの言う事を理解してはいけない。こいつと心が通じ合ってしまったら俺まで同レベルって事でヤバい奴認定されるじゃないか。


 下等生物の発言などいちいち気にしても仕方がないので、とりあえずは無視して指示だけ出そう。


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