プライドと期待が、純粋な想いを壊していく青春悲劇の傑作

この物語の核心にあるのは、主人公・大和の「弱さを見せられないプライド」と、ヒロイン・葵の「周囲の期待に応えようとする真面目さ」です。この二つの性格的欠点が、どうしようもなくすれ違いを生んでいく様が見事に描かれています。
大和は、かつて自分が葵の「英雄」であったが故に、家庭の崩壊という現実を彼女に打ち明けられません。彼のプライドが、助けを求めることを許さないのです。
一方、葵は「優等生」として周囲の期待に応えることに慣れすぎています。その性格的欠点が最も残酷に現れたのが、後夜祭のシーンです。全校生徒の歓声の中、彼女は本心からではなく、場の空気に流される形で、徹を抱きしめ返してしまいます。そしてその光景が、彼の最後のプライドを打ち砕く決定的な一撃となるのです。
二人は深く愛し合っているのに、それぞれの欠点が悪循環を生み出す様に、胸が締め付けられる思いでした。これは単なる恋愛物語ではなく、キャラクターの持つどうしようもない「性(さが)」が引き起こす、リアルで残酷な悲劇です。