第2話 一緒にお勉強

(1)連絡先を知りたい!


自分の部屋で、ずっと莉羅のことが頭から離れない。


「よし。明日、連絡先聞くぞ!」


次の日。教室に着き、準備を終えて席に座った僕は考えた。

いつ聞けばいいんだろう。


——昼休み。

やっぱり、莉羅はみんなから囲まれている。


昼ごはん、ちゃんと食べられてるのかな……


結局、声をかけられないまま放課後になってしまった。


そういえば、家は隣だったっけ。

帰り道で会えるかもしれない。


莉羅は、学校が終わるとすぐに帰る。

今なら——走れば追いつけるかもしれない。


僕は走った。

足は遅いはずなのに、不思議と軽かった。

体力もないのに、まだまだ走れる。

まるで体が勝手に動いているみたいに。


走っていると、前を歩く莉羅を見つけた。

「莉羅!」

声が届くよう、大きく呼ぶ。


振り返った莉羅が、ぱっと笑顔を見せた。


——かわいい。

僕は、素直にそう思った。


頭が真っ白になる。

こういうときって、どう聞けばいいんだろう。

あれ、挨拶ってしたっけ……?


声が裏返りそうになるのを必死に押さえ、言った。

「あ、あの!れ、連絡先……教えてくれませんか?」


自分でも震えているのが分かる。

変じゃないだろうか。


心臓が、ドクドクとうるさい。

今、僕ってどんな顔してるんだろう。


僕の言葉を聞いた瞬間、莉羅の目がぱちっと大きく開いた。


「うん!いいよ!」

弾けるような声で、莉羅はうなずいた。


スマホを取り出し、連絡先を交換する。


「ありがとう!」

と僕は言った。


「全然!私も、連絡先欲しかったの!」

そう言って笑う顔は、無邪気で小さな子どものようだった。


家に帰り、落ち着いた。


(2)聞いてみる


連絡先、もらってしまった。

変じゃなかったはず。


せっかくだから連絡——してみようかな。


何を書けばいい?

あ、そういえばもうすぐ期末テストか。

一緒に勉強。とか……いいかも。


勇気を出して送った。

「莉羅?もうすぐ期末テストでしょ?だから、一緒に勉強しない?」


すぐに既読が付いた。


「うん!いいよ!一緒にいつ勉強する?」


「こっちはいつでも大丈夫。逆にいつがいい?」


「じゃあ、明日と明後日でいい?どっちも9時くらいに、近くに新しくできたカフェに集合

しよ!ちょうど学校休みだし」


「分かった。ありがとう」


「全然!大丈夫だよ!」


「また、明日」


「うん!また明日!」


自然な感じで誘えた——はずだ。


次の日まで、驚くほどあっという間だった。


(3)これって、間接……!


——8時50分。

そろそろ出発するか。


カフェに着くと、もう莉羅がいた。

制服じゃなく、私服の莉羅。

その姿を見た瞬間、息をのむ。


シンプルな白のブラウスに、淡い色のスカート。

それだけなのに、まるで雑誌から飛び出してきたみたいに映えている。

淡いピンク色の髪は後ろでまとめられたポニーテール。

風に揺れるたび、髪の先がふわりと跳ね、光を反射する。


「おはよう、俊君!」

軽く笑顔で手を振る仕草に、胸の鼓動が跳ねる。


——やばい。

制服のときとはまるで違う。

ただ「かわいい」なんて言葉じゃ足りない。

僕の知っている表現じゃ、追いつかない。

息を止め、見とれてしまった。

返事が遅れた。


「お、おはよう……」


心臓が、今日いちばん大きな音を立てていた。


店に入り、席に着いて注文をする。


「俊君、何頼むの?」

と莉羅が聞いてきた。


「そうだなー。じゃあ、このバニラアイスかな。」

「いいねー!じゃあ、私はこのでっかいチョコパフェ頼む!」


莉羅って、食べるのが好きなんだなぁ。

知れば知るほど、胸がドキドキしてくる。


料理が来た。


二人とも

「いただきます」

と言い、食べ始める。


「ねえ! 一口頂戴?」

と莉羅が言ってきた。

「いいよ。じゃあ、莉羅のも一口頂戴?」

「うん! いいよ!」

と莉羅は自分のスプーンでパフェをすくい、僕の方へ差し出す。


その瞬間、二人とも思った。

“あれ、これって間接キス……?”


莉羅は顔を真っ赤にして、

「ごめん、やっぱ私は大丈夫……」

と言った。


「分かった。僕も、大丈夫……」

僕も顔を赤くしながら、そう返す。


その後は、少し気まずくなりながらも、黙々と食べた。

食べ終わり、勉強を始める。


「り、莉羅。この問題、分かる?」

「んー。どの問題?」

莉羅は僕の問題集を覗き込むように顔を近づける。


ふんわり甘い香りが漂い、思わず心がドキドキした。


——その2日は一瞬だった。

でも、その2日間は、僕にとってかけがえのないものになった。


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