図書室の三人組~それぞれの大切な呼び名~
Çava
まな板
私、図書委員やってるから、放課後は、図書室のカウンターで本の貸し出しや返却をちまちま処理してる。地味だけど、図書室の静かな感じ、なんか好きなんだよね。夕陽がカーテンから差し込む感じとか、木の机の匂いとか、落ち着く~。まぁ、たまに睡魔と戦うハメになるけど!
で、いつも決まった時間に来る三人組の女子がいるの。めっちゃ仲良さそうで、ちょっとうるさいけど、楽しそうな雰囲気。図書室に来ても、本よりおしゃべりに夢中って感じ。その中の一人が、友達から「マナ」って呼ばれてて、もう一人が「クミ」って呼ばれてるのをよく聞いてた。あと一人はよく知らないけどー、なんかいつもニコニコしてる子。それで、「マナ」と「クミ」は、なんか親しみやすい名前だなーって、勝手にほんわか思ってたわけ。
んで、ある日、超レアなことに、そのマナさんが一人でカウンターに来た! いつも三人でキャッキャしてるのに、今日は単独行動! ちょっとドキドキした私。彼女、ちょっとモジモジしながら文庫本を差し出して、「これ、貸し出しお願い」って小声で言うの。めっちゃかわいいじゃん!ってテンション上がっちゃって、ニコニコしながら「いつもありがとうございます。マナさん!」って、言ったの。
そしたら、うわっ、なんじゃその目! マナさん、めっちゃ鋭い目で私をガン見! まるで「は!? 何!?」みたいなオーラ全開。なんで、私、頭真っ白! え、え、なになに!? やらかした!? 悪いことした!? バーコード読み込む手、ガチで止まったよ。
それで、マナさん、本を受け取るとプイッて振り向いて、仲間と一緒に図書室から出ていっちゃった。カウンターに残された私は、ポカーン状態。ほかの二人は、マナさんのこと、図書室から出ていくときも、クミさんが「ねぇ、マナ!超ウケるんだけど!」って言ってるし、もう一人のニコニコの子は「やめなよー、声でかいって!」ってクスクス言ってる声が聞こえてきて、なんかすげーマナさんをからかってるしー。
そしたら、すぐ近くで返却本整理してた図書委員の先輩が、こっち来て小声でヒソヒソ話しかけてきた。
「あのね、今の、やばかったよ?『マナ』って、彼女の名前じゃないんだから。」
私はビックリして、貸し出しカードをチラッと見てみた。そしたらちゃんと、『佐野愛菜』って書いてある。
「え、でも、カードにも『マナ』って書いてあるじゃないですか?」って。
そしたら先輩、クスクス笑いながら、さらに小声で教えてくれた。
「ううん、違うの。あの子たちが呼び合ってる『マナ』と『クミ』って、どっちもあだ名なのよ。
『クミ』って呼ばれてる子、ほんとは『「来る」の「来」に「未来」の「未」』で『くるみ』ちゃん、っていうんだけど、ほら、ね、胸のあたりが…なんていうか、制服でも、けっこう存在感あるっていうか、華やかなラインでしょ? で、その…胸のサイズが、93センチくらいはあるんじゃない?って、ある時、佐野さんがイジって、その『9』と『3』から『クミ』ってあだ名つけたの。もちろん、ほんとに測ったわけじゃなくて、佐野さんがノリでそう呼んだわけ。彼女の名前の『来未』って、『くみ』とも読めるし、ちょーどいいじゃん?って思ったみたい。
そしたら、『マナ』って呼ばれてる子、あの子は、ほら、逆にちょっと…胸が、えっと、なんか、すっごく華奢で、ほら、わりとスッキリしてる感じ?それで、『クミ』って呼ばれたお返しに、『クミ』ちゃんから、『じゃあアンタは、まな板みたいだから、マナ、ね!』って言い出して、そっから『マナ』ってあだ名がついたんだって。
でも、そういうの、自分たちだけのノリだから、よそで『マナ』って呼ばれたら、そりゃムカつくよね。それで、本当の読みは『アイナ』なんだよ。気をつけなよ。」
マジかよー! やっちまった! 私、完全に「マナ」がほんとの名前だと思ってたしー。うっかりあだ名で呼んじゃった、それも「まな板」だなんて、私、めっちゃデリカシーないヤツじゃん! 超ハズい! それに、申し訳なさで胸がいっぱい。いや、胸、って言ったらまたまずいか…って、こんなこと考える自分にも自己嫌悪。ほんと、もう…!
で、それ以来、佐野さんのことは絶対「アイナさん」って呼ぶようにしてる。佐野さんが来るたびに、先輩が近くにいると、くすくす私に笑ってくるし、もう間違えない!それで、あえて「佐野さん」じゃなくて「アイナさん」って呼ぶのは、なんか、あの時の失礼な呼び方、ほんとに申し訳なかったなって。そんな気持ち、私の胸の内にしまっとくだけじゃなくて、名前でちゃんと呼ぶことで、「あの時は、ごめんなさいです…」って気持ちを少しでも伝えられたらいいな、なんて。まぁ、勝手に私が思ってるだけなんだけどさ!
そしたら、なんか不思議なことに、佐野さんたちの三人組、最近、図書室ではちょっとおとなしくなった気がするんだよね。いつもみたいにキャッキャしてるけど、声のボリュームが少し控えめっていうか。それに、佐野さんがカウンターに来ると、なんかチラッとこっち見て、ちょっと照れくさそうに笑うときあるし。
もしかして、私が毎回、「アイナさん」って名前で呼んでることで、「図書委員に私ら、認識されてる!」って気づかれたのかな? なんて、ちょっと深読みしちゃったり。どっちにしろ、このハズーい思い出を胸の奥にしまって、もっと気をつけて、これからも図書委員頑張ろっと!
まー、図書室って、ほんとは静かに過ごす場所だから、佐野さんたちがほんの少しおとなしくなってくれたことで、よかったかな?てか、マナさん、ほんとごめんね!胸の底から…じゃなかった、心の底から謝っとく!
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