第15話 僅かな休日……上

 あれから、一週間と時間が過ぎて……現在、俺はシャルと共にリチシアの商店街を歩いていた。


「シリカちゃん! 今度はあっちに行きましょ!」


 満面の笑みで俺の手を引っ張るシャルに、困惑しながらついていく。


 シャルは鼻歌を歌いながら、俺の前を歩いている……。


 どうしてこうなったんだろうか?


 目の、前に歩くシャルを見て、俺は何故シャルと一緒にこの街を歩いているのか疑問がわいてくる……


 と言うのも、今日も俺は何時もの様にシャルと一緒に朝食を食べて図書館に行こうとした。


 ……のだが、家から出ようとした時にシャルに「今日は一緒に遊びに行きましょう!」と言われてあれよあれよと言う内に現在に至ったわけだが。


「シリカちゃん! あそこの奴を食べましょっ!」


 これまたシャルは、笑顔でデザートを売っているお店に指をさす。


 どうしてシャルは俺をここに連れてきたんだ?


 シャルが俺を遊びに連れてきた理由が分からない。今は遊ぶことよりもシャルの母親の呪を解かなければなのに……


「はい! シリカちゃんも一緒に食べましょっ!」


 ついさっき買ったばかりのクレープを、俺に渡してそういうシャル。


 シャルは、そのまま自分の分を食べている。


「食べないんですか? シリカちゃん……」


 俺がクレープを食べないのを不思議に思ったのか、シャルは首をかしげる。


「いや……食べるよ」


 手元にある、クレープを一口食べる。


 食べると口の中にクリームの甘さが広がり、次に果物の酸味が広がる。


 クリームの甘さと、果物の優しい酸味がお互いがお互いの良い所を引き出している……!


「うま……!」


 久しぶりに食べたデザートは俺に凄い衝撃を与えた。前世の物より味は劣っているが、それを置いても美味すぎる……!


「フフッ……クリームついてますよ!」


 クレープが美味しくて食べるのに夢中になっている所為か、如何やら口元にクリームがついていたらしい。


 シャルは何も躊躇せずに、俺の口元のクリームを指で掬い取ってそのまま食べた。


「美味しいですねっ!!」


「……!?」


 これまた笑顔で、そう言う少女に顔が熱くなっているのを感じる。


 これ天然でやってるのか……! こんなラブコメみたいなのを……!


 今やったことに何も感じないのか、ニコニコとクレープを食べ進めるシャル……。


 もしかして、こんな事で恥ずかしがっている俺がおかしいのか!?


 この世界は前の世界よりも、異性に対してそういうのが緩いのだろうか。


 海外ではハグとか頬へのキスが一般的らしいしそれと似たようなものか? そういえばルカとカノ──教会の双子の少女──がよく一緒にお風呂に入る! ……と言っていたのだが、そういう事なのだろうか?


 うーん……わからん



 取り合えず、今はそんな事は置いといて。



 隣には先程の事を気にせず、クレープを頬張っているシャルの姿。


 それを見て一人で恥ずかしがっているのが馬鹿らしくなった俺は、再びクレープを食べる進めるのだった。




 ^^^



 そんなこんなでクレープを、食べ終えた俺達は服屋に来ていた……。


「シリカちゃん! これと可愛くないですか?」


 シャルは笑顔でレースとかリボンがついているフリフリの服を見せてきた。


「……ああ」


「そうですよねそうですよね!! ……と言う訳でこれを着てみてくれませんか?」


「どう言う訳だ!?」


「最近シリカちゃんと一緒に過ごして、わかったんですけど……」


「なにがだ?」


 シャルが先程の服を、持ったままの状態で止まる。


 止まったまま言葉も止めるので、そう聞き返した次の瞬間……。


「シリカちゃんは服に無関心すぎます!!」


 鼓膜が破れるまでとは言わないが、結構な声量で言うシャル。


「それほど無関心と言う訳じゃないと思うが……」


「……そうなんですかー。じゃあ、なんで似たような物しか着てないんですか!」


「だって……」


「だっても、へちまもありません!」


 さっき迄のホンワカな雰囲気をまとっていた時とは、まるで正反対の雰囲気をまとったシャルがそういった。


 目つきも細められて、かなり鋭くなっている。


「さぁ……着てください」


 フリフリの服を持ったまま距離を詰めるシャル。


 それに恐怖を感じ、無意識に後退ってしまう。


「あの……俺は一応男でぇ」


「それは聞きました……」


 一歩……また一歩と俺に近づくシャル。


 それに俺も同じく一歩ずつ、後退る……。


「デハナンデ」


「私の趣味です」


 場所は店の中なので当然、俺達は壁に囲まれた空間に居る。


 ……と言う事はつまり後退っても、いつか限界が来るもので。


 背中に固い感触。背後にある物体を触って確かめたら、少しごつごつして、平たい感触がした……


 ここまで来たら背後の感触の正体に気づくだろう……


 ……壁である。


 そして、つまり後ろに壁があるという事は、後ろにこれ以上進めない……と言う事で──




 ──目の前に立ち塞がる恐怖から、逃げる道はないという事で……!


 いや……! まだ打開策はあるはず! 横から逃げれば──


 そう思った瞬間、横に衝撃……衝撃の方向を見れば、華奢な少女の手。


 そして正面には、その手の持ち主であるシャルの姿。


 この体制は──






 ──壁ドンの体制であった。


「ぴゃ!?」


 自分でもびっくりする程、甲高い声が自身の口から出た……


 顔には熱がこもり、脳内では大混乱が広がる。


 目の前にはシャルの顔……


 奇麗な翡翠の目が俺を見ており、口元は弧を描いている。


「シリカちゃん。これ……着てください」


 その笑顔を見た瞬間、とあることを思いだした。


 それは、笑うという行為は本来攻撃的なものであるという事……。


 それを見て俺は──


「は……はひ」


 ──諦めるしかなかった。






 自分が着せ替え人形の様に、なっていく姿を遠い目で見て……いつしか俺は目を閉じた。




 ^^^




「シリカちゃん。かわいいです……!」


 服屋を出た後……俺の姿を見たシャルが目をキラキラとさせて、そう言っていた。


「嗚呼……もうだめだぁ」


 その一方、俺は地面で項垂れている。


 自分の姿を硝子越しで見れば、青を基調とした色々な装飾を施された女物の服……。


 シリカの容姿が美少女と言う事もあって、似合ってはいるのだが……


 まさか俺が女物の服を着るとは……! しかもフリフリの!


 硝子越しに見た自身の目は変異した方も、していない方も両方光を失っていた……


「さ……次ですよ! シリカちゃん」


「く……! もう殺せ!」


 どこかの女騎士のようなセリフを言う俺は、そのままシャルに腕を掴まれてどこかに連れて行かれるのだった……。

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