3「カラオケボックスにて美少女生徒会長と不良チャラ男の密会そのニ」


「このままじゃお前破滅だぞ」

「ぬっ……」

「起死回生する方法がないわけでもないがな」


 俺はスマホを取り出した。

 ネットに何か適した故事とか教えがないか探す。

 己の経験だけで語るは愚者、歴史で語るは賢者と誰かが言っていた。なら熟語とかことわざなら理解してくれるだろう。


「………………」

「俺をたよーーまて、生徒会長なぜ脱ごうとしている?」

「それも僕に言わせるのかい? ここまで用意周到にお膳立てしておいて。何処までが君の計画のうちなのかな。胸揉むで妥協しないとは理解に苦しむ」


 何でそうなる……。

 シャツを脱ぐと生徒会長のスレンダーな上半身が姿を表す。

 腹筋は目立たないが無駄な贅肉はなく細いのでアバラがくっきりしていた。

 恥ずかしくはないのか下着姿でも胸元を隠すことなく堂々としている。

 その中でも特筆するなら会長の大きな胸。驚いた。普段学校では押さえていたのかEカップ以上はあるのではないかとそれがしは愚考する。


「生徒会長の頭は青カビが繁殖しているんじゃないか? 俺は同じ学生として注意しているだけだぜ」

「仕方ない。僕はどうなっても構わない。だからどうかこのことは内密にしてくれないかな?」


 生徒会長はデニムパンツも脱ぎ下着だけになり土下座。

 

 約三ヶ月前のデジャヴが襲う。

 前も俺が脅していると勘違いされて酷い目にあった。

 またこのパターンか。

 お竜の時といい、なんで今のジャパニーズガールはポンポン裸になれるのか……。

 ワビサビと恥じらいと大和撫子はどこにいった?


「こんなんで俺が納得できるとでも」

「足らないかな? でもこれ以上は思いつかない。よし、こうなったら僕の脱ぎたてパンツを贈呈しようではないか」

「いらねーわ! とりあえずは服を着ろ。従業員が来たらことだ。笑い話じゃすまないぞ!」


 冷や汗が滲み出る。一歩間違えば大惨事だ。

 欲望に負けることはないが、スキャンダルを嫌う神無月本家に知れたら俺の命がない……。

 

「それなら僕と一晩寝てくれ。それで黙っていてくれないかな? 生徒会長のヴァージンを貫けるチャンスだぞ」

「それなら友達になってくれ」

「セフレ? 君はケダモノだな。仕方がないか……」

「違う! 馬鹿野郎、普通のだ」

「何の冗談だい? もしかしてこの前交際の申し込み断ったのを根に持ってるのかい?」

「何でそうなる……」


 どいつもこいつも……もっと自分を大切にしやがれって。

 

 どうやって穏便に済ませればいいんだ? どさくさに紛れて友達契約するのはお竜の時で懲りたし、困っている奴の足元見るのはもう嫌だ。

 『孫氏で学ぶ友達無双』にはなんて書いてある?


 『孫氏曰く、三十六計逃げるに如かず』


 無理なら退け。お前には不可能だ。そのまま惨めに一人でくだらない余生を過ごすがいい。

  

 ――おい。

 極端すぎないかい? 俺を煽っている?

 

 俺はツッコミどころ満載の友達攻略本を静かに閉じる。


「神無月は駆け引きが上手い。だから正直に言おう。僕は君に口止め料払うお金はない。だから代替えとして僕の身体を自由にしていいと提案している。男はみんな女の体が大好きなんだろう?」


 はてさて僕をここまで追い込むなんて相当な手練だ。弱みを握られた最悪の状態からどうやって無事に切り抜けるか? まだ出せるカードは数枚ある――って小声も密室なのでまる聴こえ。 


 生徒会長はブラのフックに手をかけるが、「よせ。その気もないくせに脱ぐな。会長はもっと自分を大事にしろ」俺は拒否してシャツを羽織らせた。


「ふむ、女にだらしない君が口上述べても信憑性がないな。この前も僕の身体目的で近付いたと仮定すると納得できるし。同じ手口で何人もの女の子を毒牙に掛けたのは学園でも有名な話だ。良かったじゃないか。結果的にリスクを侵さず肉体関係を結べるんだから」

「それは大きな風評被害だ。見た目がチャラ男だから勝手に尾ひれがついているに過ぎない。十代男子なら誰でも性の権化だとおもうなや」


 俺は西洋系とインディオのクオーターだ。眼光の鋭さと褐色の肌と金髪でよくやばい奴に勘違いされる。


「でもこの状況はそれ以外何があるのかな? カラオケボックスで無理矢理ヴァージンを奪い、人の弱みを握って完全に屈するまで毎日肉奴隷の如く扱う定番シチュエーションではない?」

「少しは人の話に耳を傾けてくれ」


 女はどいつもこいつも何で思い込みが激しいんだ?

 イケメンやスポーツマンは清廉潔白で優しい、不良やブサメンはどクズで恐ろしい。第一印象で全て決めつける。だからチャラ男とホストに全て搾られるんだ。

 

「さあ、カラオケの時間があまりないから早く承諾してほしいな。ちなみに今までの会話は録音している」

「ちょっと考えさせろ……」

 

 この場を凌ぐ方法はないか?

 

・その場限りの虚言→会長が思い詰めて自殺、俺逮捕。


・承諾→自責の念にかられて俺飛び降り自殺。


・拒否→会長に刺される。


・逃げる→会長が暴走、録音内容をネットに拡散、神無月本家の手によって暗殺。


 どの選択肢でも俺は結局不幸な結末は免れないな……。

 大袈裟かもしれないが先入観が激しい生徒会長ならやりかねないし。


 手詰まりだった俺の視界にカラオケ映像からキスシーンが流れる。

 あ……。


「まだかな? もうキャストオフするよ?」

「き、…………キスなんてどうだ? だから脱ぐな」

「キス?」

「ああ、接吻だ」

 

 苦し紛れに提示した起死回生のカード。


「なるほどキスか……青天の霹靂。それだったら……いやでも一回じゃ心もとない」

「七月毎日でどうだ。これで手を打て」

「ふむ……まだまだテコ入れは可能だがココらへんが妥協点か。いいだろう合格だ」

「そうか」


 キスなら取り敢えず身体で迫ってくることも無い。手の甲なら海外の紳士としても当たり前の行為だしな。夏休みもあるから実質はもっと短い。

 これぞ、乾坤一擲の一手。

 でも、まるで代替え案を待っていたような言い回しなのが癪だけど……。政治家かよ?


「これで深夜バイトの件は黙っててくれ」

「ああ。というか元々いう気はなかったんだ。生徒会長が信用しないから」

「はいはいマニュアルマニュアル。虚言癖は他所でやってくれ。では改めて、期限は七月末まで。その間毎日キス。ただし一度した場所はできない。ものはだめ。肌に直接」

「まじか……承知」


 クソ、ハードルが上がった。頭良い奴ほど空回りすると酷いな。


「経験豊かな君にとって価値がないだろうが、足らなかったら夏休みがおわるまで毎日するよ」

「だから、そんなもん興味がない」

「ならもう、君の肉奴隷になるしかないな御主人」

「わー! わーったわーった。キスでいい! だからブラに手を掛けるな、パンツ脱ぐな! 俺が退学になる!」


 ちな、この場を店員(学園OB)に目撃されたせいで後日学園神無月ジゴロ伝説が更新されたのは言うまでもない。

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