第23話 過去②
父がいなくなって数年。母親はパートに入っていたお店に就職し、私も、家事が板についてきた。
母との会話も前より増え、小学校でのはなしもたくさん聞いてくれるようになった。
私が中学生になると、母親が再婚した。相手には、私より年上の娘がいた。そう、その娘が今は亡き義姉、愛羅だ。愛羅は義父の前では愛想よく私に接していたが、家に母と私しかいない時には傲慢な態度を見せた。
とにかく、癇癪がひどかった。自分の思い通りにいかないとすぐに暴れだし、物を壊されるのは日常茶飯事だった。
母と義父は、母の勤め先のスーパーで出会ったらしいが、義父がどんな仕事をしてるか母は何も教えてくれなかったし、義父が家にいることは少なかった。
私と愛羅は同じ中学校に通っていたが、愛羅はよく私のことをいじめていた。靴を捨てられたり、体操服を汚されたり、教科書破られたりするのはいつもの事。一番しんどかったのは、私の根も葉もない噂を流される事だった。噂は噂でも人は噂に流されやすい。噂のせいで友達も離れていったし、愛羅以外からも軽いいじめを受けるようになった。でも、愛羅は私以外にも気に入らない人間に同じようないじめをやっていたらしく、次第にクラスからいじめられるようになり、ついには不登校になってしまった。その時はざまぁと思ってた。
愛羅が不登校になったころ、リビングのテーブルに一枚の紙が残されていた。
「離婚届」
たったの三文字。たったの三文字なはずなのにその文字は私の生活を狂わすことになった。
母は父が亡くなった時のように毎晩泣きわめき、愛羅も愛羅で、義父に捨てられた責任を母に擦り付け、母に暴力を振るうようになった。この世の地獄のようだった。
義父に逃げられて数日後、母は勤め先のスーパーとは別のパートを何個か駆け持ちしだした。あんがい立ち直りが早かったのは、うすうす離婚されると気づいていたからだろうか。愛羅は変わらず学校にも行かず高校受験も受けず、遊びまわっていた。私も、中学校卒業したら働こうかと考えていたが母に「茉優は高校に行ってもいいんだよ」と言われ、高校受験し、高校に通いながらバイトをすることにした。母は朝早くから夜遅くまで家に帰ってくることはなく、愛羅の世話は全部茉優が受け持っていた。暴力暴言に耐えながら。
一度だけ母親に愛羅を施設に預けてみてはと提案したことがあった。しかし母は「愛羅はあの人の子供だし、優しくしてあげないとね。あと、そんなところに預けるお金もないかな。」って言われた。母親は義父の何に惹かれたのだろう?一年もしないうちに離婚されてなおなんで義父のことを思っているのかさっぱりわからなかった。
高校生活やバイトにも安定してきたころ、母親が倒れたと連絡が入った。疲労らしい。そりゃそうだ。朝から晩までつきっきりで働いていたし。母の容態は思ったり悪く入院する羽目になった。入院費については実父の貯金から崩して出していたが、愛羅との生活での費用は、母親の貯金と私のバイト代から出すしかなかった。家賃や光熱費や水道代などはもちろん、学費も毎月引き落とされるから、常にぎりぎりの生活だった。さらに、愛羅は夜も街で遊ぶことも増え、勝手に貯金を下ろされたこともあった。愛羅にお金を渡さなくなると、愛羅は癇癪を起し暴力ばかり振るわれた。しんどかった。高校中退も視野に入れていたが、中卒じゃあ働ける場所も限られてくるし、なにより、愛羅と一緒になるのが嫌だった。節約するために朝から晩まで図書館で過ごしたり、朝と昼を抜いたり、夜ごはんも栄養が偏ってるけど安い食材で食いつないだりした。愛羅の機嫌を取るために、愛羅には好きなものを食べさせていたが、さすがに愛羅の金遣いの荒さに貯金が底をつき、私は、義父に愛羅を引き取ってもらうように交渉することを決心した。
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