第5話 黒羽

夜の街。ネオンの光が雨に濡れたアスファルトに反射して、赤や青の光が揺れている。

私はフードを深くかぶり、目立たないように歩く。


 ここは裏社会。たいていは暗殺を快楽に感じる人間、社会復帰に失敗した元犯罪者、夜の街で遊んでるやからなどが住み着いている。反社の世界。夜にすれ違うのは、愛羅のような派手な格好をした女や、身なりだけは高いもので見栄を張ってる男であふれかえっている。一歩間違えれば、絡まれ、巻き込まれる。


 ――でも、私は怖くない。


 足音を忍ばせ、視線を低くして歩く。

雨の匂いと夜のざわめきが、心拍を少し速める。

でも、それでも私は進む――この裏社会の中へ。







 私はある屋敷に訪れた。〈ゲリラ 黒羽〉

暗殺を快楽に感じる人間が集まったゲリラ集団。高い金を積まれれば暗殺計画を実行する殺し屋。

 今、風梨が追っている集団だ。



「そこのねーちゃん。見ない顔だな。ここは俺らの島だ。さっさと帰ったほうがいいぜ」


振り返ると、粗野な男が数人、私をじろりと睨んでいる。

冷たい視線が皮膚を刺すようだ。

でも、逃げない。私は一歩ずつ屋敷の奥へ足を踏み入れた――。


「わたし、さっき……長いポニーテールの女の人に追いかけられて……」

声を震わせ、目に涙を浮かべる。

「黒羽について知ってるか?って……それで、こわくなって逃げて……逃げて……たすけてほしいの」


泣き演技。昔、愛羅の機嫌を取るために散々練習したことがある。

でも今は――ただの演技じゃない。心の奥で、ほんの少し、助けを求めたい気持ちが本物のように混ざっている。


「っち。来栖か。おいお前、なんか話したんじゃねぇだろうな?」

 男が、茉優に詰め寄る。


「言ってない!言ってない!怖くなって逃げてきたの!お願い!かくまって!」

さらに涙を増やす。


「まあまあ、待ってあげて下さいよ。」

 突然、女性の声が聞こえた。柔らかく、それでいて威厳がある。


「ソエムさん!」男たちが一斉にソエムと呼ばれた女性に頭を下げた。


「お嬢ちゃん。ここじゃ見ない顔だね。もう、空も暗いし、詳しいことは中で話そう。」


「でも、ソエムさん、この女は来栖に後をつけら……」

 

「大丈夫よ。実際、この周りに気配は感じない。それよりも、このお嬢ちゃんをここに置いとく方が我々にとっても危ないんじゃないかしら。」


「……了解しました」男たちはしぶしぶアジトの中に入っていった。


「さぁ、お嬢さん、アジトへいらっしゃい!」

 そういわれ、ソエムと一緒にアジトに入っていくのであった。

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