第2話 絵の先生の家

〜絵の先生の家〜




丘を登る途中、木漏れ日の差し込む並木道に入った。

緑の葉が風に揺れて、影が道の上にゆらゆらと模様を描いている。


きれい〜

坂の途中で、少し歩をゆるめる。

額が汗ばんで前髪が少し張り付いている。


鞄からタオル地のハンカチを出して汗を拭いた。


再び歩き出すと、丘の上の方から教会の鐘の音が聞こえてきた。

ちょうど正午を告げるその音は、海の方へ流れていき、波の音と重なって消えていった。


やがて先生のお宅にたどり着いた。

白い壁にツタがからまる洋館風の建物。白い鉢にはフクシャピンクのペチュニアが咲き誇って、玄関のポーチに吊るされている。


チャイムを押すと、中から軽やかな足音が聞こえた。

「ようこそ。さぁ、入って」

先生がにこやかに迎えてくれる。


居間に案内されると、キャンバスに描きかけの絵がいくつも並んでいた。

窓からの光を受けて、絵の具の艶がきらりと光る。

その中には、青く輝く海をモチーフにした作品もあり、まるでさっきまで私が歩いてきた海岸線をそのまま切り取ったように見えた。


「来月の個展では、この作品を一番に飾ろうと思っているの」

先生の言葉に、私は胸の奥がじんわりと温かくなった。


それは、凪いでいる夕日を受けてピンクオレンジに耀く海とブルーのストライプの入ったヨット。

砂浜には白いハマユウが咲いている。


その絵は、先生の人生の大切なもの…海も、風も、そして歩いてきた時間までもを表現していた。


それは、まるで先生の温かくて穏やかに人を包み込むような人柄が、絵の中に息づいているように感じられた。


Mutsuと、右下に先生のサインがある。




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