27話 鬼ごっこ②

「だから、彼じゃダメだって言ったのに」


 そこに立っていたのは、ユスタキウスの秘書・ミハエルだった。彼女は血まみれの俺を見ると、嘲るように笑う。


「無様ね。力もないくせに、あの人に歯向かうから」


 そう言うと、俺たちの前に降り立つ。砂の山と貸したゴーレムの残骸を、踏みつけながら。


「ユスタキウスの金魚の糞か。こういう時だけ、お得意だな」

「あら、せめてもの嫌味のつもりかしら? 今、ここで殺されるのにね」


 そう言うと、ミハエルは杖を構える。


「カイン、逃げろ。その書類を、王宮まで届けてくれ」

「あら、そんなことさせると思う?」


 カインに向かって、鋭い魔法を撃ち抜く。俺は瞬時に防御魔法で、打ち消す。


「速く行け!! カイン」


 ためらっているカインに対して叫び、俺はミハエルと向かい合う。俺は、ふと考える。



 どうして、こんなことになったんだろうか?


 もともと、しばらくしたら隠遁いんとんして、スローライフを送るつもりだった。


 それが、国王からの命令を受けて、革命勢力と接触させられ……、


 宦官たちに、自身の親代わりであるセルバを殺され……、


 その復讐のために「宦官派をハメる」なんてこと考えちゃって……、


 あと一歩のとこまで来た。それなのに、な……。



 ズドン



 彼女が撃った魔弾で、身体が貫通する。少しでも多く、時間を稼がなくてはならない。まだ、倒れるわけには……。


 砂に魔法をかけて、彼女の足をとる。時間式の魔法。一定時間の間、彼女はここから動けなくなるはずだ。


「くっ、小癪こしゃくな真似ね」

「残念だったな。これで、お前たちも、終わりだ」


 彼女が苛立った様子で、俺に数発、魔弾を打ち込んだ。



 ズドン ドン ドン



 俺はバタリと、音もなく地面に倒れる。その姿を見たミハエルは、すっきりしたような顔でもう動かなくなった俺を見ていた。土の拘束がほどける。俺に対してもはや興味を失った彼女は、できることはなくなったといった様子で、ツカツカとその場を立ち去った。



◇◆◇◆

「ボス、ここです」

「ほう、なるほどの」


 血だらけの俺を見ている男が2人。


 1人は、ベレー帽をかぶった作業着の少年。そして、もう1人は、腰が深く折れ曲がった、作業服の老人。鉱山労働者特有の、薄汚れた土の臭いがする。


「よくやったのう、坊主。お手柄じゃ」


 その老人は、俺を片手でひょいと担ぎ上げる。そして、暗い奥道に消えて行った。

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