31話 夜襲②

「謀ったな、エリアスーーーー!!!!!!」


 ジュリアスは憤怒ふんぬの表情で、エリアスに三叉に分かれた槍を突き刺した。エリアスが身をのけぞらせる。槍先が頬をかすめ、軽く血がこぼれた。


「憲兵隊、捕縛しろ!」


 俺の一声で、SPとして派遣してもらった憲兵隊が動いた。黒服隊の必至の抵抗もむなしく、ジュリアス含めた宦官たちは、捕縛される。



「くっ……、これで勝ったつもりか? リアム!!!」

「あぁ、残念ながら、俺の勝ちだ!」


 ジュリアスが歯ぎしりしながら、叫ぶ


「お前ら、いつから、この策を考えた!?」

「いつから、か」


 ジュリアスが、俺をキッと睨む。俺は、ジュリアスを見て、ニヤリと笑った。


「俺は、俺の執事・セルバを殺した宦官を探していた。その男はどうやら、身内を使った策略が好きなようだったからな。だから、その男の耳に確実に届くように、俺に対する愚痴を"大衆の場"で言うように、エリアスに命じたのさ」


「だが、俺が来るという保証はなかったはずだ。もし俺が来なかったら、お前らはどうするつもりだったんだ? あぁ」


 ジュリアスの人の良い性格はなりをひそめ、獣のような荒々しい声で言う。その顔を見ながら、俺は優しく言った。


「お前が来ない? そんなことはありえないはずだろ。セルバを操っていたお前は、他者の心を確実に掴める、という絶対的な自信がある。もしそうじゃないなら、俺の執事を勤めていたような男を、策謀に使うなんて、リスクの高い真似しないだろ」


 セルバは少なからず、俺に対して、情のようなものがあった。だから、俺の殺害を躊躇ちゅうちょしてしまう可能性がある。さらに、内通し、俺たちサイドにつくおそれもあるのだ。しかし、ジュリアスは、セルバのユスタキウスに対して抱いている忠誠心を利用することで、ものの見事に、俺を殺害するように誘導したのだ。


「そういう人間は、他者が自分の思い通りになるものだ、と錯覚している。だからこそ、策略を張る上で、最も大切な『疑う』ということを忘れるんだよ」


 ジュリアスは冷笑ぎみに、鼻を鳴らした。そして、俺への切り札といわんばかりに、エリアスを見ながら声を張り上げた。


「おいおい、ここにいるお前の相棒エリアスは、俺たちにお前らの情報を売ったんだぜ。そのせいで、お前は死にかけた。偉そうにご高説垂れてやがるが、お前も、仲間すら疑えてねぇじゃねぇか」

「プッ、ハハハハハ」


 エリアスが突然、笑い始める。ジュリアスがぽかんと口を開け、そしてエリアスに怒声を浴びせる。


「なにがおかしい!!」

「勘違いしているようだが……。エリアスが、お前に情報を売ったんじゃない。俺が、お前に情報を売らせたんだ」

「だとしたら、なぜ死にかけるような真似を……」


 俺は、ゆっくりと言葉を発する。


「リスクを取らないと、人から信頼を勝ち取ることはできない。それは、敵を騙すときだって同じだ。密書さえ手に入れることができれば、俺が死のうと、ユスタキウスを失脚に追い込める。だから、俺の命なんて、たいした問題じゃないんだ」


 ジュリアスが、声を震わせる。


「ふ、ふざけるな。そんな人間がいるわけがないだろ!! 人間は、どんなに外面が良いやつでも、最終的には利己的になる。誰かのために命をかける、そんなやつなんて……」

「俺は自堕落なんだ。自堕落な人間というのは、自分の命にもだらしないし、自分の思い立った感情に左右されて動く。俺は今、怒っているからな」


 リアムは魔法の杖を取り出す。


「お前の存在、明日の御前会議で十分に利用させてもらうぞ」

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