第4話
俺は高度5000メートルでマッハ2での飛行を続けていた。
孤独なこの旅の中、これまでの『無駄な足掻き』が俺の脳内に蘇ってくる。
悪人になってみた。
無銭飲食をしたり、他人を陥れたり、殺人を犯したりもした。
全て無駄だった。
無銭飲食をした店は、悪徳店だった。俺がその不正を暴く嚆矢になったというのだ。
陥れた人は、自分で問題を解決した。俺に「あんたが俺のために試練を与えてくれた!」と言った。
殺した相手は変装した魔族だった。そのスパイは人間の街に魔族を攻め込ませる工作をしていたらしい。
俺が悪事を働けば働くほど、世界は俺を聖人に仕立て上げた。
世間から関わりを絶ってみた。
誰も来ないような山の奥、森の中で一人暮らしてみた。
全て無駄だった。
引きこもっていたとしてもなぜか、「千年に一度しか身をつけない伝説の果実」やら「失われた古代文明の秘宝」やらが見つかった。そして俺がそれを見つけるところを必ず人に見られた。
なぜか隣国の「追われる身となったエルフの姫」が転がり込んできた。
瞑想しているだけなのに、俺の魔力が周囲の地形に影響を及ぼし、聖地として崇められるようになった。
俺が沈黙すれば、世界が勝手に俺の物語を紡ぎ始めた。
狂人になってみた。
支離滅裂な言葉を叫んだり、理解不能な踊りを踊ってみたりした。
全て無駄だった。
俺の支離滅裂な言葉は「神託」だの「託宣」だの言われ、新たな宗教が勝手に立ち上がってしまった。
俺の理解不能な踊りは「古代の失われた舞踊」だの「心身を活性化させる健康法」だので国中に大流行してしまった。
俺の意味不明な言動は「常人には計り知れない芸術」と評され、俺を一流のアーティストだと持ち上げた。
俺が理性を捨てれば、世界は俺に神性を与えた。
俺は苦苦しい記憶を噛み潰しながら、どこまでも青い虚無を翔けていく。
眼下には、どこまでも代わり映えのしない世界が続いていた。
俺は掌の時刻をちらりと確認する。三時間と三十分を少し過ぎたところだ。
かなり長い時間飛んでいる。しかし俺の魔力は尽きることを知らない。
マッハ2で三時間半だ。日本列島を往復するよりも更に長い。
俺は「この世界に終わりはないのかもしれない」と思った瞬間。
俺の意識は、そこで唐突に途絶えた。
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