第3話 水堀
前回のあらすじ。
新大統領のシリーと新大統領補佐官の俺が初の顔合わせ、のようなものを行い、二人で生産的、かどうかわからない議論を繰り広げたのち、まず他国からの侵攻から国を守るような防衛体制を整えることが決定された。
「なんであんなことしたん?」
「あれが一番効果的だと思ったからです」
「それで水堀の中に生活用水を垂れ流してんのか?」
「はい。下水を有効活用しています」
「頭イかれてんのか」
そもそもこの国は村と呼んでも差支えがないくらいに領土が狭いため、堀を掘るといういうところまでは賛成なのだが……。
「いけませんでしたか?」
「あかんに決まってるやろ! 街が臭くなんねん。そのうち病人が出てくるようになるわ」
「そういえば、今日は街の診療所が賑わっているようです」
「そりゃそうやろなぁ。あと、なんか他人事のように言ってるけど自分のせいやからな?」
実は夢とかではないよな? リアルじゃなさ過ぎて現実だと思えないんだけど。
それに、これが大統領なの国民たちがあまりにもかわいそうで涙があふれてくる。
「文句ばっかりで困りましたね。それなら自分で提言でもしてみたらどうですか?」
「前回その提言をスルーしてたのは自分やで?」
「そんなことするー? って感じですよね!」
「しょうもないギャグ挟むなよ。大事な話が飛ぶやろ」
なんでこいつが国のトップでデモすら起こってないのか。
「それで提言の話なんですけど」
「そうやな。もう最初の政策から失敗してしまってるから、それを取り返すために何かせなあかんねんけど、まずは下水処理ちゃうか?」
「じゃあ診療所と病院を増やす、でいいですか?」
「だから人の話を聞けよ! そもそも、なんで対処療法やねん。原因療法をせーよ、簡単やねんから」
「ちょっと何を言ってるのか分かりません」
「何が分からんねん」
そして長考に入るシリー。
顎に手を当て、一丁前に考えてる風の姿勢を保っているが、その実何も考えていないのだろうと予想する。
「よく考えてください、幸之助さん。病院が多いのは長所になると思いませんか?」
「下水が国唯一の街を囲ってるのは大きなマイナスやで」
悲しいことに見事予想は的中してしまった。
「火葬場もたくさん必要ですか?」
「必要かもしれんけど、なんで大量に死者が出る前提なん? 自覚アリやん」
「そうですよね、土葬の可能性も考慮しなければいけませんよね」
「そんなこと一言も言ってないで?」
「とりあえず、病院の建設命令は出してきますね!」
「だから人の話を聞くつもりはないんか?」
シリーが最後まで俺の話に耳を傾けることはなく、前回同様、ものすごいスピードで執務室から飛び出していった。
そして、この国は近いうちに必ず滅ぶ。
俺はそう確信した。
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