第16話 華々しい学校デビュー?

 “華々しい学校デビューをしたい!”

 

 誰もが一度は思ったことがある願いだろう。

 その後どうなるかはさておき、この少女アクシアもそんなことを思っていた。

 ──が、しかし。


「あの~、そこをどいてもらえませんか」


 アクシアはいきなり囲まれていた。

 

 朝、校門前。

 見送りのラムネと別れ、意気いき揚々ようようと乗り出したところだった。

 そこで、いきなり道をはばまれたのだ。


 相手は三人の男たち。

 ガタイの良いリーダー格を筆頭に、左右に家来のように連れている。

 だが、アクシアは怯えてはいない。


(これってもしかして、絡まれてる!?)


 むしろ若干ワクワクしている。

 地元では『魔神の加護』に恐れをなす者ばかりだったため、初めての体験に心が躍ってしまっていた。


 また、アクシアは目を細める。


(こいつら、もしかして……)


 新入生の格好はしているが、受験では姿を見ていない。

 彼らは受験を免除された上級貴族たちだ。

 すると、リーダー格の男は、アクシアの問いを全く無視して口を開いた。


「お前があのアクシア・ラグナリアだな?」

「あの?」

「試験壁を破壊したそうじゃないか」

「まあ、はい」


 試験壁の噂は免除組にも伝わっているようだ。

 今さらどうということはないので、アクシアはそれとなく返す。

 その態度がかんさわったのか、リーダー格の男は顔をしかめた。


「どんな不正をしたのか知らんが、その程度で調子に乗るなよ」

「不正とは?」

所詮しょせん貴様たちは受験組で争っているに過ぎない。我々がいれば、貴様が最高点などということは起きていないのだからな」

「な、なるほど……」


 相変わらずアクシアの問いには答えてくれない。

 リーダー格の男は言いたい事だけ伝えると、アクシアに背を向けた。


「覚えておけよ。学校が始まれば目にもの見せてやる」

「はあ……」


 男たちはギロリとアクシアをにらみ、その場を後にした。

 彼らをふーんと見ながら、アクシアはふと思う。


(覚えておけよって、名乗られてもいないのに……)


 彼らは名乗らなかった。

 顔はなんとなく覚えたが、なんと記憶したら良いのやら。

 彼らからすれば、自分の名は知られていて当然だったのかもしれない。


 だが、アクシアは首を傾げた。


(私でも知らないぞ?)


 原作ガチ勢のアクシアが名前を知らない。

 すなわち、原作では名も無きモブということだ。

 階級は持っているが、本編に関わってこないのだろう。


 ただし、多少の効果はあったようで。


「あれがアクシア・ラグナリアね……」

「近づくのはやめておきましょ……」

「目を合わせちゃダメよ」


 早速注目を浴びたことで、アクシアは周りに認知されていた。

 元々名前は知れ渡っており、それが顔と一致したようだ。


 そんな中、空気を一変させるような人物が現れた。


「ははっ。君は本当に渦中にいるね」

「うげ」


 第二王子ゼリオルだ。

 今日も陽の光できらり~んと金髪が輝いている。

 消臭剤のごとく爽やかな空気をもたらした彼は、ふっと笑った。


「聞いたよ。さっそく試験で暴れたんだって?」

「言い方! 別に、ちょっとやりすぎちゃっただけだし……」

「やりすぎちゃったぐらいで史上最高点を出されちゃ、学園もかなわないよ。君は相変わらず面白いな」

「それ、からかってるでしょー」


 久しぶりの対面だが、二人は普段通りのやり取りを交わす。

 そんななかむつまじい様子は周囲にも伝わっていた。


「ゼリオル王子とご交友が?」

「随分と仲良さげなのね」

「意外と悪い人ではない……?」


 類は友を呼ぶ。

 そのことわざ通り、周りにいる者はその者の評価になりやすい。

 それを理解した上で、ゼリオルはわざと話しかけたのかもしれない。


 軽く会話を交わすと、ゼリオルは先に歩いて行った。


「じゃ、僕は先に行くよ。新入生代表の挨拶を任されているから、準備があってね」

「あーなるほど」

「では、入学式に遅れないように」

「はいはーい」


 ゼリオルを見送ると、アクシアは屋外時計に目を向けた。


(入学式まで時間があるのよねー)


 現在の時刻は7時。

 入学式が始まる8時までには時間がある。

 どうしようかと迷っていると、ピンと良いことを思いついた。


(どうせなら探検しちゃおーっと!)


 新入生になってしばらくは、あわただしい毎日が待っている。

 それを知っているアクシアは、その前に校内を見て回ることにした。

 

 学園のマップは全ては頭に入っているが、ここはずっと憧れたゲームの世界。

 一つ一つを自分の目で見てこそ価値がある。

 そう意気込むと、アクシアは元気にうなずいた。


(そうと決まれば行くわよー!)


「それっ!」

「「「きゃあ!」」」


 ズドォンと地面をる音をひびかせながら、アクシアは学園へと向かった。


 ──そして、校内を探索することしばらく。

 アクシアは入学式に遅刻した。





「くれぐれも反省してくださいね!」


 教室内に、教師の声が響く。


 教壇の前に立たされているのは、アクシア。

 入学式が終わり、一年生がクラスに案内された頃、彼女はようやく姿を見せたのだ。

 そのことで早速怒られている。


「返事は!」

「すみませんでしたぁ!」


 入学式をすっぽかすなど前代未聞だ。

 試験壁に続き、アクシアはまたすぐに話題を生んでしまった。

 さすがのゼリオルも「嘘だろ……」みたいな表情をしている。


 すると、教師はビシッと席を指す。


「もういいです。席は自由なので、その辺に座るように」

「は、はい……」


 教室内は、日本の大学のような形。

 前に大きな黒板があり、階段状に自由席が配置されている。

 後ろはすでに埋まっているので、アクシアはちょこんと一番前に座った。


 そうなれば、もちろん注目の的だ。


「やっぱり不良なのね」

「何をしてたのかしら」

「今朝は校門前にいたような……?」


 ひそひそと聞こえる話を聞きながら、アクシアは焦る。


(まずい。こんなことじゃ華々しい学校デビューなんて、夢のまた夢だわ!)


 ある意味、目立つ学校デビューを果たしたアクシア。

 だが、望んでいたのはこんな形ではない。

 すでに友達の者と楽しく過ごすのはもちろん、もっと交友を広めたいと思っていた。


 すると、アクシアは燃える。


(こうなったら授業で取り返さなきゃ!)


 規格外の少女アクシアが張り切ってしまった・・・・──。

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