マルス帝国
マルス帝国、帝都『ヴァルカン』。
都市全体に動力を送る大歯車『ハートギア』を中心とした鋼鉄の都市だ。
そのハートギアは、400を超える建物と連結し動力を供給するまさに心臓部。城のような大きな建物は全て、ハートギアを保護するために造られたケースのようなものだ。城としての機能は無いが、ハートギアを守り管理する兵士たちが四六時中徘徊している。
蒸気機関によって動くそれは、今の帝国となる前から一度も止まったことがないらしい。
高い製鉄技術によって生まれた黒い金属と、磨かれた石のレンガブロックで造られた建物が規則正しく並んでいる。外壁からは蒸気を排出する煙突や配管、大きな歯車がむき出しになっている。
地面も金属や石レンガで覆われ、もはやここがメサのど真ん中であるとは思わないだろう。
「おぉー……! お母さん! 歯車がいっぱいだぞ!」
「そうだな。……剥き出しで大丈夫なのか?」
パルヴァーデと手を繋いで町中を歩く。
雨とか砂埃とか、せめて屋根のひとつでも付けた方がいいと思うんだが……ロマンってやつか? それとも消耗前提なのか?
ともかくだ。この星の文明レベルで考えたら、蒸気機関と歯車を使った技術が至る所にあるのは驚くべき事だろう。
「お母さん! あれは何だ!?」
「あれはエスカ……いや、昇降機だな」
例えばあの昇降機。
モーターを使ったエスカレーターのように、蒸気機関で歯車を動かしそれに沿ったベルトコンベアのような物を使って荷物を運んでいるようだ。
ニンゲンの扱う技術の中で、蒸気機関は理論よりも先に実用化されたものとして有名らしい。この星でも変わらんな。
……ただ、アトラ王国じゃ蒸気機関の欠片も無かったからなぁ。技術の流出を防いでいるのか、それとも上手く伝わらないのか。
もしかしたらこの星の技術格差は、私が思うよりもずっと大きいのかもな。
「あれ私も乗りたい!」
「乗りたいのか。あれには民間人は乗れなさそうだから、別の所で探そうか。多分あると思うぞ」
「分かった!」
◆
数日後の夜。帝都ヴァルカンから離れた私は、この地で暮らすための拠点となる場所を探していた。
帝都内を見て回った時に思ったのは、『家が小さくなる』ということだ。ハートギアの動力を通すために土地や建物は丁寧に管理されているようで、勝手な増築などは恐らく不可能だ。
元から大きな建物でも買えばいいが、それほどのお金は持っていない。
拠点とは別にパルヴァーデが成長するために必要な『ただの家』は買ったが、観測機を置くスペースを確保すると1階か2階のどちらかが埋まる。
そうなるとパルヴァーデはぐっすり休めなくなるからなぁ。ちなみに、寝る時には私を変形させて作った実寸大シロイルカのぬいぐるみを抱きしめて寝るのがお気に入りらしい。
前は海底という最高の場所があったが、こっちに海どころか川も無いし……ん?
どうやって蒸気機関の水を……魔法か。便利なもんだ。火も魔法でなんとかなるし……ま、このくらいの知能が丁度いいか。少なくとも、科学技術に溺れて自分たちが知恵ある存在だと勘違いするニンゲンよりは何倍も賢い。
それはともかく拠点は何処に造ろうか。もういっその事海まで行くか? いやでも、30キロぐらいあるんだよな……。
逃げようとした変わった色のコヨーテに触手を伸ばし捕まえ首を切る。手元に引き寄せ腹から喰う。
─バリッ、ゴリッ!
おー、肉の味だ。上手くやればしっかりとした料理に出来るか。
コイツらがいる洞穴を使うか? ニンゲンに見つからないように岩の形を変えれば……いけるか? ちょっとやってみよう。
数分後。
ダメだわ。砂が多すぎる。精密機器を作る場として不適切極まりない。
やっぱ前の家─海底の岩を削り、そこに遺伝子操作をした海草の酸素を送り込んだ空間─が一番だったな……。
また海の底にするか? 地下深くまで岩を削る方法もあるが……デカイ木の中、は目立つか。
はぁー……岩掘るか……。
◆
「お母さん! 行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい」
1ヶ月前からパルヴァーデが学校に通いだした。
ふふっ、楽しいな。
ヴァルカンに暮らし始めてから2年ほど経ち、私も娘もこの町に馴染んできた。
服装もブラウスとロングスカートにエプロンという私がイメージする『お母さん』になった。お金はハートギアの蒸気機関に水を供給する仕事で確保している。
建築系の資材を運ぶ仕事もたまにするが、水を出す方が稼げる。ま、水を出してるのは水の杖だが。
娘を見送った後は家の中に戻り家事をする。
買い出しなどでご近所さんとコミュニケーションをしたり、情報を仕入れたりと色々やるが、メインは違う。
「それじゃ、今日もよろしく」
皿を洗いながら帝都の外へ思念を飛ばす。
「「「──」」」
「「「──」」」
無数のバッタやサソリたちの意識を操作し、採掘場へと向かわせる。
そのまま視界を共有して観測機に必要な材料を探す。
アーッハハハハ!! なんて便利な環境! 場所をマークしておけば、回収は私が夜に侵入すればいいだけだからなァ!
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