第26話 赤黒き空
### 第26話「赤黒き空」
翌日の昼、〈レグナス〉の空は異様に重かった。雲ひとつない青天のはずが、中央広場の上空だけ赤黒い影が揺らめいていた。市民はそれを見上げ、ただ「陽炎だ」「珍しい気象現象だ」と笑っていた。だが境界守たちは直感していた。それが崩壊の主の前触れであることを。
篠森蓮は広場の中央に立ち尽くし、空を見上げていた。胸の奥で波動が共鳴し、脈打つたびに視界が赤く滲む。裂け目が広がるたびに、頭の中に声が響いた。
――近い。おまえの選択が、均衡を決める。
蓮は息を呑み、拳を握りしめる。だがその指先は震え、汗で濡れていた。
*
境界守本拠の会議室では、緊急の集まりが開かれていた。アルマが灰金の瞳で地図を睨み、指を叩く。
「裂け目は広場上空を中心に拡大中。修復班は限界だ。戦闘の準備を整えろ」
ガランが巨腕を組み、低く唸る。「敵は影獣か、それとも――」
「まだ分からない」イオが符を操作し、数値を示した。「だが波動の揺らぎは主系に近い。前触れと見るべきだ」
セラは青白い顔で祈りを唱えていた。寿命を削る覚悟はできている。だがその肩はすでに限界に近かった。彼女の震えを見て、ユリスが堪らず声を上げた。
「もうこれ以上、命を削らないで! 私たちで食い止める!」
その強い声に室内の空気が張り詰めた。アルマは黙して頷き、決断を下す。
「……出動する」
*
午後。広場は市民で賑わっていたが、境界守の影が各所に散った。蓮とユリスは人波の中を進み、空を見上げる。赤黒い亀裂はすでに雲のように広がり、地上に影を落としていた。
「人々は気づかないんだな」蓮が低く呟く。
「気づいてないんじゃない。気づけないのよ」ユリスは硬い声で答えた。
その瞬間、空が裂けた。轟音もなく、ただ世界の布が破れるように。赤黒い光が奔流となって流れ出し、広場全体を覆う。市民たちは驚いたように空を見上げたが、すぐに笑顔を取り戻す。修復の膜が視覚を覆い隠したのだ。
だが蓮と境界守には、その向こうが見えていた。裂け目から這い出す影。四足の巨獣、翼のある異形、そしてその中心に、赤黒い眼がひとつ光った。
「……来るぞ!」ガランが巨刃を抜いた。
人々の笑い声の裏で、戦いの幕が上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます