第2話『初めてのステップ』

体験会は部長の大哉によって進行していった。

「1回目だからみんなの知ってそうな曲から練習していこう。まずはマイム・マイム!」


曲名を聞いて、新入生の4人が顔を見合わせ、口々に話す。

「キャンプファイヤーでやったことある!」「運動会であったなー」「私はアニメで見た……」

それを達者そうな顔で見守る2年生と3年生たち。自分たちにもあんな頃があったなぁ、と言いたげな表情だ。


新入生たちは先輩たちに基礎を教えてもらいながら、ステップを踏む。不思議なことに、昔やったことあるからなのか自然とステップに慣れてきているように思えてきた。


「いや〜上出来だねぇ。ここまで上手かったらもう曲に合わせてもできそうだよ」

大哉の発言に新入生たちの自己肯定感が上がる。

「じゃあ早速曲に合わせてやってみよう。皆両隣の人と手を繋いで」


指導部長の山地浩子の指示に合わせて、円舞は両隣の先輩たちに手を差し伸べた。

ふと、斜向かいにいる修也に目を配ると、彼は躊躇なく両隣と手を繋いでいた。

相変わらずの一軍感を放つ修也に、円舞は眩しさを感じていた。


音楽プレイヤーから、聞き覚えのあるマイム・マイムの旋律が流れる。

全員が1つの曲に合わせてステップを踏む一体感。大学生になってからこんな経験ができるなんて……円舞を含む新入生たちは、この何とも言えない感覚に早くも魅了されていた。

あっという間に2分半が経過し、曲が1周した。


「みんな、初めてのダンスはどうだった?」

大哉が新入生に向けて尋ねると、一斉に拍手の音が返ってくる。それを見る先輩たちの顔は温かく、練習場はほんわかとした空気に溢れていた。

「今日はもう1曲みんなにレクチャーするよ。せいや君、みなちゃん、よろしく」


2年生の眞鍋聖矢と江幡三菜が前に出て、次の曲のレクチャーを始める。

『ダンシング・イン・ザ・ストリート』というアメリカの曲で、男女2人組になって踊る曲だ。

聖矢と三菜が軽やかに踊りを披露する。2人が向かい合い、社交ダンスのような組み方をすると、見ていた新入生たちは一瞬ばかり息を飲んだ。


曲見せを終えた三菜が司会を代わる。

「じゃあみんな男女ペアになって練習してみようか。1年生4人には私たち3年生がつくからねー」

円舞の元には大哉が、修也には浩子がペアでつくことになった。


マイム・マイムは経験があるとしても、男女ペアになって至近距離で向かい合う踊りなんて初めて……円舞の心臓の鼓動は少し早くなっていた。そんな彼女を優しくエスコートする大哉。

「組んで踊るの初めてだと緊張しちゃうよね。わかるよ、俺も初めはそうだったから。そのうち慣れて来るから、とりあえずステップ踏んでみよう」

大哉の優しさに円舞の緊張は解れ、気がつけば右へ左へステップを踏んでいた。

「楽しい……です」円舞が呟く。

「そう言ってもらえたなら冥利に尽きるよ」と爽やかに笑う大哉。


ステップ練習がひと段落すると、三菜が声を掛けた。

「この曲は途中で組む相手が変わる『ミキサー曲』よ。ほら、オクラホマミキサーとかあったでしょ?あ、今どき古いか。あれと同じ原理」


三菜が音楽プレイヤーに手を伸ばし、クリック音が鳴る。ペアを組んだ部員たちは互いに「よろしくお願いします」と挨拶を交わし、手を取り合う。

軽快な曲が練習場を包み、ペアが次々と交代していく。曲が中盤になった頃、円舞は修也とペアを組むことになった。


修也と手を繋ぐのなんて、何年ぶりだろう……下手したら幼稚園年長以来かも。

小学校で繋いでたらクラスの男子にからかわれて、それ以来繋がなくなったな……

そんなことを考えていると、修也が円舞の顔を覗き、手を差し伸べる。

「一緒に踊ろう」


えっ……なんだろう……この気持ち。

今まで修也といた時には感じたことのない感情が円舞を埋めつくした。

そもそも、こんな至近距離で修也の顔見たことないし……


変わったなぁ。

そりゃ最後に会ったの小学校の卒業式だもんね…

円舞は踊りながら修也の顔をまじまじと見つめた。


「エマ、俺の顔になんかついてたか?」

「!? いやなんでもないよ。ただ…雰囲気変わったな、と思って」

「当たり前じゃん。6年も会ってなけりゃ変わるよ。そういうエマこそ…なんか…」


言葉の最後を聞けないうちに修也との番は終わり、次の人との番になった。


私こそ……何!?

円舞は先程までの緊張とは違うドキドキを感じていた。

近くで見た修也の目、手の温もり、優しいエスコート。一瞬だったのに忘れられない。胸が高鳴るのが自分でもわかった。ステップのリズムに、鼓動がシンクロする。


そうこうしているうちに曲が1周し、体験会が終了した。

再び大哉が前に立ち、新入生たちに語りかける。

「次の体験会は水曜日の放課後に開催するよ。みんな今日の体験会は楽しかったかな?」


新入生の拍手が止まないうちに、円舞が思い切って宣言した。

「わたし、この部に入部します!」


「「「うおおおおおお!!!!」」」

今度は先輩たちの歓声と拍手が円舞を囲んだ。


「エマ…さんが入るなら、俺も入ります」

続けて修也が宣言する。


「ほな、自分らはどないする?」狩造が隣の莉菜子に話しかける。

「せっかくだから、入ってみましょう? なんか、楽しそうですし……」

「せやな! ほなら、自分と隣の子も入らせてもらいます!」


こうして新入生全員が入部を決意した。

周りからは歓声が絶えず、中には喜びのあまり涙を浮かべる人もいた。


「よし! じゃあ予定外だったけど、この後歓迎食事会でも行こう! 代金は俺たち全員で出す!」

大哉が勢いよく発言し、この日の体験会はお開きとなった。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る