⑤死神が嫌いな僕はただ街を歩く

志に異議アリ

第1話 勘違い


―――


死神と怜央と遭遇した廃工場の屋上。


―――

「殺れるならねーん」


死神の吐いた言葉に続くが早いか即座に倉田に狙いを定め、


怜央は掌に赤く滲む気を集め、ゆっくりと倉田に向かって手を伸ばす。

「──俺を崇めろ!クズが!」



その瞬間、倉田は無表情で微動だにせず立っていた。しかし目だけが淡く光る。


怜央の放つ異能力は、ゆらめく影のように倉田の体を覆おうとする。


だが、倉田は手を軽く横に払うだけで、影は裂け、風に消える。怜央は思わず後ずさる。


「なっ……!? この……」


倉田は一歩踏み出す。影の壁も、鋭い気の刃も、ただ手の動きひとつで柔らかく受け流される。


怜央の眼に、これまでの自分の完璧な自分への自信が崩れ落ちる瞬間が映る。


「──まだ甘いな」と倉田の低い声が夜風に乗る。一言で、怜央の異能力は制御を失い、散らばった赤い気の粒が空中に舞う。


倉田は軽く避け、掌から生まれた衝撃もほとんど受けず、まるで遊ぶかのように距離を詰める。


怜央は足を滑らせながら必死で防御する。


「くっ……! まさか、俺の力が……こんなに……」


倉田はただ静かに立ち、怜央の異能力を分析するかのように目を細める。


そして一瞬で距離を詰め、掌先で軽く肩を弾く。怜央は宙に飛ばされ、鉄骨にぶつかりながらも無傷に近い。


「──こんなものか?傲慢な人間よ。

同じ人間相手に大事な血を……散々今までぞんざいに巻き散らしてきたようだな。」倉田は淡々と言い放つ。


怜央は息を荒くし、力尽きたようにその場に膝をつく。


異能力はあるものの、人間の身体では倉田に届かない――その現実を痛感する瞬間だった。


倉田はゆっくりと怜央の前に歩み寄り、視線を落とす。

「……おまえは契約する相手を間違えた……

後悔する暇もおまえに与えるつもりはない。」


怜央は死神にさえ感じたこともない恐怖で震えながらも、倉田の圧倒的な存在感に逆らえず、ただうなだれるしかなかった。




次の瞬間、倉田の一撃が怜央に直撃する。

体は宙に舞い、重力に引かれるように床へと落下。

その瞬間、すべてが静止したかのように時間が止まる。


怜央はもはや立ち上がれず、倉田の目の前で力尽きる。

「……終わったぞノックス」

倉田は冷徹に告げる。


その背後には、すでに死神の気配が漂い、悔しそうに倉田を見つめる影があった。


死神は口元を歪め、霧の中に姿を消す。


「……次こそは、俺が……」


小さくも地の底から聞こえてくるような低い声で死神は囁くのだった。






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