賢者any%

マッスルアップだいすきマン

第1話 プロローグ

 王座の間の重厚な扉がゆっくりと開く。大理石の床に革靴の音が響き、セリアは玉座に向かって進み出た。高い天井からは色とりどりのステンドグラスを通した陽光が差し込み、王の威厳を一層引き立てている。


「ついに来たか、セリアよ」


 玉座に座るオルレアン王は、鬢鬚を蓄えた威厳ある人物だった。その口元には、長い戦いの歴史を刻んだ深い皺が刻まれている。


「お呼びでしょうか、陛下」


 セリアは恭しく頭を下げた。胸の中には期待が膨らんでいた。ついに魔王討伐の任が下るのだ。そしておそらくは――王家に伝わる伝説の剣「光輝の剣エーテルブラム」が下賜されるに違いない。


 「そちに重大な任務を与えたい。北方の地に現れし魔王を討伐してくれんか」


 「はい! 喜んでお引き受けいたします!」


 セリアの声はわずかに震えていた。長年鍛錬を積んできた甲斐があった。これで故郷の人々を魔王の脅威から救えるのだ。


 王は微かに頷くと、側近に合図を送った。セリアは期待に胸を躍らせながら、側近が持ってくるものを待った。きっと荘厳な輝きを放つあの剣に違いない――


 しかし、側近が差し出したものは、色あせた革の鞘に収められた質素な長剣と、小さな革袋だけだった。


 「これは...?」


 「王家に伝わる白樫の剣と、旅費として100ルピーだ。これで任務を果たしてくれ」


 セリアは言葉を失った。伝説の剣ではなく、ただの白樫の木でできた練習用の剣? しかたった100ルピー? これでは装備を整えることすらままならない。


「陛下、これは誤りでは...?」


「異議は受けぬ。すぐに出発せよ」


王の声には議論の余地がないという冷たさが込められていた。


王宮を後にするセリアの足取りは重かった。手にした白樫の剣は軽く、ほとんど実戦で使える代物ではない。革袋の中の100ルピー銀貨は、わずかばかりの音を立てるだけだった。


「なぜ...?」石畳に踵を鳴らしながら、セリアは呟いた。「魔王討伐に、これだけの準備で臨めと?」


しかし、すぐに彼女は深呼吸して気持ちを切り替えた。すでに任務は受けた。やると決めた以上、最善を尽くすしかない。


「まずは冒険者ギルドに向かおう。協力してくれる仲間を見つけなければ」


そう言い聞かせるように呟くと、セリアは歩調を速めた。希望に満ちた出発ではなかったが、彼女の瞳には新たな決意が灯っていた。たとえ貧乏くじを引こうとも、勇者としての使命は変わらない。自分にできることを、一つずつやっていくだけだ――そう心に誓いながら、彼女は冒険者ギルドを目指して歩き出した。

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