再会の来訪者

 食事を終えて空いた皿等を返却口へと置き、食後の紅茶でエルクリッドは一息ついた。

 今回のハシュとの戦いでアセスが倒されずに勝てはしたものの、スペル等をかなり消耗している。魔力の方は食事をしたのもあり徐々に全快へと近づきつつあり、一応は戦う事はできる。


 前日に敗北を喫したシェダも食事中の話によればディオンこそまだ戦えないが、それ以外のアセスは戦闘できるまでに回復したという。もちろん彼もスペル等は消費してしまっているので、あくまで最低限戦える状態なのに変わりはないのだが。


「さてと、タラゼドさん達もう帰ってきたかな?」


「そういう気配……はなさそうだな、転移魔法使う時はわかりやすくしてるーって言ってたし」


 意識を遠くへエルクリッドとノヴァが向けるも、タラゼドやリオの魔力の波長は感じられずシェダの言うようにまだ帰っていないのがわかる。

 このまま英気を養うのも兼ねて待ちぼうけというのを考えかけた時、エルクリッド達の座る場所にある人物が近づき穏やかに声をかけてきた。


「相席してもよろしいでしょうか?」


「あんたは……ユピア、だっけ? いいよ」


 エルクリッド達が目を向けた先にいたのはセイドの街で出会ったリスナー・ユピアであった。物腰の柔らかい態度と笑顔、そして彼がいくつかのパンを抱えている事から食事の為に来たのがわかり、ひとまず相席を認めるとありがとうございますと礼を言って彼は席につく。


「十二星召ハシュ様に挑もうと来たのですが、戦いを終えた後で消耗してるとの事でしたから……もしかして、あなた方が戦ったのですか?」


 袋に入ったパンをおいて千切って食べつつユピアが話を始め、その問いにエルクリッドは参加証を見せそれにユピアもおおっと驚きの声を上げ目を見開く。


「素晴らしいですね、既に星四つなんて……自分も負けてられませんね」


「まぁあたしはまだまだ修行不足とかってのはわかったし、これから先もあるからね……あんたはどうなのよ?」


「まだ星は二つだけ……アセスが一体のみなので、無理できないのは少し辛いですね」


 苦笑しつつも話すユピアの実力は手合わせをしたことがあるエルクリッドや、それを見届けたノヴァ達も知っている。新進気鋭の白竜のリスナー、一体のアセスのみで名を挙げてきた実力者という肩書に偽りはない。


 しかしやはりアセスが一体のみというのはリスナーとしては厳しいものがある。分析され突破されやすい危険も多く、消耗に伴う休息を挟む事も多くなりがちであるからだ。

 それでも既に二つの星を得ているだけに着実に高みへと進む辺り本物と言える。無論、そうした存在がよりいっそうエルクリッドとシェダの闘志を燃やすのだが。


(そーいやユピアは記憶喪失、なんだっけか……でもそれなりに実力あるようだし、そもそもあんな綺麗なドラゴンをアセスにしてるならすぐわかる気がするんだけどな……)


 ふとエルクリッドが思うのはユピアの記憶についてだ。喪失しているとは本人の弁だが、実力がありなおかつ珍しいアセスを連れてるならば目立つものであり、それこそ今回のような大きな催しであれば彼が記憶を探している事も含め手がかりは掴みやすい。


 そう思うと今ユピアは記憶を取り戻せたのかというのが気になるが、エルクリッドが質問する前にノヴァがユピアへ声をかけた。


「あの、ユピアさんは記憶を探している……んですよね? 何か思い出せましたか?」


「これといったものは何も……自分が何処で生まれたか、何処から来たかくらいはわかると思ったのですが中々上手くいきませんね」


 苦笑気味にノヴァを見て答えるユピアは穏やかそのもの。仮に過去の彼が今とは正反対の性格だったとしても、それはそれで目立つ為に手がかりはすぐに見つかるだろう。


 とはいえエタリラには未だ知られない領域はもちろん、四大国の力が末端まで伸び切れてない所もあるのもまた事実であるので、そうした部分でユピアの手がかりが見つからないというのも有り得る話である。


(ま……どっかで何か見聞きできたら伝えるくらいでいいか……)


 協力したい部分はあるが今の所は何もできず、またユピアから頼まれたわけでもないのもありエルクリッドはひとまず紅茶を飲み切りつつ、何か分かれば伝える程度に思うに留めそれはシェダも同様に思っていた。


 ノヴァは生来の優しさから手伝いたいという思いがあるのか、ちらりとエルクリッドの方に目を向けるも察したユピアがお気になさらずと述べてパンを食べ切ってから言葉を続ける。


「世界中を回るうちにいずれ記憶は戻るでしょうからね。何となくそんな気がしますし、焦らず旅を続けます」


「それならいいのですが……」


「お気持ちだけ受け取っておきますね。心遣いありがとうございます」


 物腰丁寧なユピアにノヴァも小さく頭を下げ、そのやり取りにエルクリッドとシェダもひとまず安心する。と、買い出しから帰ってきたタラゼドとリオが食堂にやって来て席を見回し、エルクリッドらを見つけるとすぐにやってきて合流を果たす。


「エルクリッドさん、結果はどうでしたか?」


「何とか勝てました! これで次は……どうしよ?」


 参加証をびしっと突き出すようにタラゼドへ見せつつ、次の目的地について投げかける。と、食事を終えたのもありユピアが席を立ち、自分はこれでと一言告げてからエルクリッド達の顔を見て微笑む。


「いずれまたお会いしましょう、機会があれば手合わせの方もお願いします」


「何なら今から……はあたしもちょっと厳しいから、前の続きは今度ね」


 星彩の儀の発表と重なった事で中断せざるを得なくなった戦いはユピアも覚えてるらしく、えぇ、と一言答えて一礼すると背を向けてその場を後にするのだった。


 

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