応酬

 確実にハシュが消耗しているのをエルクリッドは感じつつも、彼がまだカードを使えスペルブレイク・ツヴァイをする事も、合成魔法もできるのを感じながら次のカードを引き抜く。


(ここからは、先に途切れた方が負ける……!)


 闘志を宿す目でハシュが真っ直ぐ見ている事から彼が一気に畳み掛けてくるのをエルクリッドは予感し、それが伝わるセレッタもまた気を引き締める。

 一度でも踏外せば転落する綱渡りの如き緊張感がより集中力を研ぎ澄ませ、これが最後の応酬となると。


「さぁ行くぜエルクリッド! スペルブレイク・ツヴァイ! フレアチェーン、サンダーチェーン!」


「スペル発動チェーンガード!」


 炎と雷の鎖が絡み合って合成され、白く光る大型の鎖となりセレッタへと迫り、すぐにエルクリッドも対チェーンスペルのカードを使うものの、展開される青緑色の膜を合成されたスペルは突き破ってセレッタへと絡みつく。


 と、すぐにセレッタの身体が青い水となって崩れ去り、別の場所にセレッタが現れる。咄嗟に自身の判断で分身を作り出して対応した事にエルクリッドは安堵し、ハシュはただならぬ相手と再認識しつつセレッタの背に静かにカミュルが跨り首筋に手を触れた。


「捕まえた……!」


 囁きに対しすぐにセレッタが自分ごと水流に巻き込みカミュルを弾き飛ばすが、その前に彼女は離れつつセレッタの首筋を切り裂き血を流させる。


 エルクリッドの首に切り傷が現れ血が流れるものの、その痛みなど意に介さず心揺るがずにカードを抜く。


「スペル発動ビーストハート! セレッタ!」


 青白い光を纏うセレッタが己の力を一気に高め、エルクリッドに応えるように蹄から大量の水を溢れさせて床を浸す。それが攻撃の布石と察したカミュルがすぐに風の塊を床に投げつけ炸裂させ水を吹き飛ばすものの、あっという間にセレッタは膝下程まで聖堂を沈め、その力にはへぇとハシュも感心しつつ静かにカードを抜く。


「これだけの力を引き出せるなんてな、すごいな……」


「お褒めに預かり光栄です、しかし、勝つのは僕達です」


「なら、こっちも全力でやらないとな……スペル発動ユナイト! カミュル!」


 ハシュに呼ばれたカミュルが水面の上に静かに立ち、白き羽根を持つ翼が黄金の鱗と膜を持つものへと変化し手も同じく鱗を備え爪が鋭くなる。

 ユナイトのカードで別のアセスの力を宿し能力を高める方法はハシュがシェダへと伝えた方法であるのをエルクリッドは思い出しつつ、十分に地の利を得たセレッタが何かを待つように水面に佇むのを見て大きく息を吐き、そしてカードを切った。


「スペルブレイク、アクアバインド!」


 エルクリッドがスペルを発動し、それに合わせセレッタが満たした水を動かし巨大な手を作りカミュルへと向かわせる。刹那にカミュルが腕を振り抜き爪で難なく水の手を切り裂いて粉砕し、続けて迫る水の縄も同じように引き裂くと水面を蹴って一気にセレッタへと向かう。


 咄嗟にエルクリッドはカード入れに手をかけ備えるが、ハシュがカードを抜いてるのに気づきそちらへの備えに切り替え、セレッタもまた水面を駆け抜けカミュルから離れる。


「汝にもたらすは天を割る剣、我が言の葉の下に振り下ろし地を断ち切らん……! スペルブレイク、ライトニングブレード!」


 暗雲が天井に現れ覆うと共に轟く雷鳴を聞いてセレッタがすかさず高く跳ぶが、見透かすようにカミュルが回り込み後頭部を蹴り飛ばして墜落させる。刹那に暗雲より激しい稲光と共に巨大なる刃の如き雷が落ちて水面を断ち切り、セレッタもまた巻き込まれる形で切り裂かれかけた、その瞬間にエルクリッドがカードを発動した。


「スペル発動エスケープ!」


 強制的にセレッタがカードへ戻された事でライトニングブレードを避ける形となり、手元に戻ってくるセレッタのカードをエルクリッドは手に取りつつ矢継ぎ早に次のアセスを呼び出す。


「仄暗き深淵より頭を上げ祈りを捧げよ……! あなたで決めるよ、ローレライ!」


 白煙を巻き起こし水面を覆いながら姿を見せるは魔獣ローレライ。半透明の太く長い身体の中に光が明滅する不思議な姿は遠目に一度見た事があるハシュも興味を惹かれるが、今は戦いと切り替えてすぐにカードを抜き間髪を入れず攻めへ転じた。


「スペルブレイク・ツヴァイ、サンダーエッジ、アクアエッジ」


(まだハシュさんはカードをスペルブレイクで切れるだけの魔力がある、でも!)


 二枚のカードが握り潰されてスペルが発動し、混ざり合い形成された水と雷の刃をカミュルが手に取り風を纏わせ勢い良くローレライに向けて放つ。


 十二星召で最も魔力が多いというだけあってハシュは疲労の色を浮かばせながらも未だカードを扱えるだけの力を持ち、エルクリッドも持久戦は不利とわかっていた。それ故に、見えた攻略の糸口を目指し迷わず進む。


「ローレライ!」


 高らかに名を呼ばれたローレライが体内の光を点滅させながら全身を使って尾を水面に打ち付け、巻き起こる水飛沫が一瞬ローレライを隠すも合成スペルの刃は勢い良く回転しながら飛沫を切り裂く。

 だがそこに既にローレライの姿はなく、しかし水の中へと隠れ潜んだ事はすぐにカミュルは見抜いて高く飛んで水中で光るローレライを捉えた。


「不意打ちなんて考えが浅い……!」


 天井に足をつけたカミュルが狙いを定めそのまま勢いをつけ急降下する姿勢を取るが、ハシュは警戒しエルクリッドが何かを狙っているのを悟り刹那に水が泡立ちながら白い煙を発し始めたのに気づき、それが層を作り出しローレライの姿を完全に隠す。


(身体から出している煙には何か意味があるはず……カミュル、注意しろ)


(そんな事言っても、ハシュもそろそろ限界でしょ)


(お前の維持と能力行使を踏まえてもツヴァイはあと五回は使える、問題はない。だが、早いとこケリつけねぇとっても確かだな……!)


 迷いが消え真っ直ぐ相手を捉えるエルクリッドの眼差しが放つ光は強く、それが強い思いと表れなのはハシュも感じられた。そしてそこから勢いに乗れば乗るほど、状況打開の推進力となるというのも理解し、カードを抜くと共にカミュルが翼を広げ口を開け息を大きく吸いながら顔の前に風の塊を作り圧縮していく。


「スペルブレイク・ツヴァイ! イビルハート、アエリアルクロス!」


 妖魔専用強化スペル・イビルハートを受けたカミュルの身体が紫の光に包まれ、さらにアエリアルクロスの効果により巨大な十字の風が形成されカミュルが吐き出すように放つ圧縮した空気弾と共に撃ち出される。


 風属性魔法が持つ風圧によりローレライが出す白い煙が撹拌されて聖堂内に広がり、やがて水面が姿を現すと共に十字の風が命中し空気弾と共に爆裂し弾け飛ぶ。

 浸水を吹き消す程の凄まじい風の中でエルクリッドは仰け反りつつも踏み留まり、ハシュもまたすぐに決まってないのを感じて周囲に目を配って相手を探し、刹那にカミュルが赤い光に包まれたと同時に巻き上げられた白煙の中から口を開く魔獣ローレライを見つけ、間もなく放たれた熱線がカミュルを飲み込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る