嵐の如く
スペルブレイク・ツヴァイという誰も成し得なかった領域に辿り着いている十二星召ハシュを相手にエルクリッドの緊張感が一気に高まり、そんな彼女へ心配いりませんとセレッタが冷静な声をかけ肩の力を少しだけ抜かせた。
「要するにスペルブレイクを二人のリスナーが同時にするのと変わりはないのです。ならば対抗策は考えられる、でしょう?」
「そうだね……うん、ありがとセレッタ」
どういたしましてと答えたセレッタに微笑みつつ深呼吸をしエルクリッドは前を見据える。彼の言うように二人のリスナーが同時にスペルブレイクをするのと、ハシュのそれは同質である。
それ故に付け入る隙があると気づけ、静かに頷きながら笑みを見せたハシュに応えるようにエルクリッドはカードを抜く。
(属性同士が喧嘩する以上、同時に使えるスペルには限りがある……でも、あのカードを使えば別だから気をつけないと……!)
反発し合う属性の関係から使うカードには相性が存在し、それは使う上で重要なものとなる。エルクリッドはハシュがスペルブレイク・ツヴァイの組み合わせに限りがあり、しかしその点を補うカードの存在も頭に浮かべつつ、シェダが破れた理由へと繋ぐ。
恐らくシェダもスペルブレイク・ツヴァイを目の当たりにし、それを捌いたというのは想像ができる。それでも敗れた事は、さらなる先の可能性とそれをしてきてもおかしくないと。
そんなエルクリッドの思考を沈着冷静な様子からハシュは察しながらカードを抜き、ここからどう攻めてくかをカミュルと共に思案する。
(スペルブレイク・ツヴァイだけじゃないって気づいたかな?)
(なら、どうするのハシュ。叩き潰すなら全力でいくけど?)
(全力でいくのはまださ。
わかった、と心の中で答えたカミュルがセレッタを捉えると両手を掲げ、手の中に竜巻を作り出し投げるように前へと放つ。放たれた竜巻は三つに分かれ踊るように不規則に動きながらセレッタへと迫り、それに対しセレッタもまた蹄から溢れる水流で大きな渦を作りぶつけ合わせた。
水と風は反発する事のない組み合わせ、共存し力を与え合うと共にぶつかっても単純な力対決となるのみ。
セレッタがさらに水流を足して渦を大きくし竜巻を強引に打ち破るも、すかさずカミュルが両手の中に圧縮させた風の球を大渦へ投げつけ炸裂させて一気に弾け飛ばす。
ここまでの戦いからエルクリッドとセレッタはカミュルは妖魔ではあるが、同じ妖魔であるリリルの従者にしてアセスであるミヤトとは異なる戦い方と感じ取り、そこから戦い方を組み立てていく。
(肉弾戦を避けて魔法を主体とした戦い方、面と点の攻撃の使い分けも的確にしてくるね)
(そのようです。しかし然るべき時に仕掛けてくる可能性はありますから、近寄らせない方が良さそうですね)
(セレッタは近づかれるとちょっと不利だしね……それで行こう)
接近戦を苦手とする関係もありエルクリッドとセレッタは距離をとっての戦い方へと移行し、セレッタは水気を操り水の矢を幾つも作り出して浮かせ一気にカミュルへと放つ。
すかさずカミュルが手を前に出して風の壁を作り弾き飛ばす事で防ぎ、ハシュが動くとエルクリッドもカードに魔力を込めて切った。
「スペルブレイク、サイクロン」
「スペルブレイク、アセスフォース! 頼んだよヒレイ!」
足下から逆巻く風と共にセレッタを包み込み強大なる暴風が吹き荒れかけたが、エルクリッドが前に出すカードから放たれた青き火炎弾が流星の如く飛んで暴風を貫いて破壊し、そのままカミュルへと迫る。
咄嗟にカミュルは風の壁を幾重にも展開し防ぎにいくも火炎弾は容易く壁を破壊していき、防げないと判断したカミュルが身を反らし辛うじて直撃だけは避けるも左腕を少し焼かれ、ハシュの左腕も同じように焼け煙が立ち上った。
「ハシュ!」
「大丈夫だカミュル、大したことない……が、そろそろいくぜ!」
振り返るカミュルへ快活に声を飛ばしたハシュがカードを二枚引き抜き、スペルブレイク・ツヴァイが来るのをエルクリッドは察して次のカードを抜く。
「スペル発動、スペルガード! さらにもう一枚、ガードフォース!」
スペルのみに対し極めて強固な防御結界を作り出すスペルガードを使い、さらにガード系スペルの効果を高めるガードフォースを上乗せしエルクリッドは万全を期す。
例えスペルブレイクで強化しようとも強化されたスペルガードならば防御は可能。仮に防げなくとも軽減は十分にでき、ほんの僅かな隙を突く機会も訪れ反撃へ転じられる。
加えてセレッタも何も言われずとも再び三重の水の壁を作り出し、今度はそれを自身のいる位置の部分だけ厚さを作りより強固なものとした。
ここまでされれば例えスペルブレイク・ツヴァイを使おうともハシュの攻撃は防ぎ切れる、そんなエルクリッドの確かな判断と自信は、刹那に崩壊させられる。
「スペルブレイク・ツヴァイ、エクスプロード! ブリザレイド!」
「火と水の攻撃魔法を同時に……!? そんな事をすれば……」
「普通なら消える、だが言ったろ、俺は拡散率が高いって。極限まで拡散させれば、こういう事もできるのさ!」
反発する属性の組み合わせでスペルを発動したハシュにエルクリッドは驚愕するも、最悪の予想が当たった事に戦慄しすぐにカードを引き抜く。
ハシュが発動したのは一点に熱を収束させ爆発を起こす火属性スペルのエクスプロードと、数多の氷の刃の嵐で敵を切り裂く水属性のスペルであるブリザレイドの組み合わせ。
本来なら互いに打ち消し合って消滅してしまうものの、ハシュが発動したそれらはすぐに現れず、赤と青の粒子が彼の周りを包み込みながら一つに纏まって白い光となり、それを目がけてカミュルが風の矢を作り出して一気に放つ。
矢に射抜かれた白い光は矢と共に螺旋状の風を纏いながら水の壁を閃光と共に貫き、そのままスペルガードも貫くもセレッタの眼前で矢が止まった。が、次の瞬間に熱が高まり一気に爆発を引き起こし、水蒸気に包まれる中でさらに周囲が凍てつき氷の刃が五月雨の如く降り注ぐ。
姿は見えずとも、エルクリッドは次々に自分の身体に切り傷ができて血が飛ぶことや、凄まじい衝撃が全身を貫いたこと、そこから伝わるセレッタの苦痛と共に血を吐いてよろめくも、水蒸気の中から跳び出てきたセレッタに支えられ、何とか踏みとどまって口の血を手で拭う。
「セレッタ、大丈夫……じゃないよね」
「何とか、といったところです」
全身を切られた上に火傷を負いつつもセレッタは健在であり、その理由が爆発前に咄嗟に水の膜で自分を覆いつつ液体化させたものとハシュは察し、思わず拍手を送っていた。
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