第4話 『不倫の代償はAIが決める』④完全制圧


「今日で全てが終わる」


NEMESISの画面に、カウントダウンが表示されていた。

最終段階の実行まで、あと3時間。


私は会社を早退し、自宅でモニターを見つめていた。

AIが構築した精密な計画の、最後のピースが動き出す。


『梨花のSNSアカウント、アクセス権限取得完了』

『投稿予約:15:00に自動実行』


梨花は今頃、借金の工面で奔走しているはず。

スマホを見る余裕なんてないだろう。


15時ちょうど。

梨花のInstagramに、突然投稿が始まった。


『皆さんに謝らなければならないことがあります』

『私は既婚者と知りながら不倫していました』


写真が次々とアップされる。

拓海とのツーショット、ホテルの鍵、甘いLINEのスクリーンショット。


コメント欄が炎上し始める。

『最低』『既婚者と知ってて?』『引くわ』


同時に、拓海の会社にも動きがあった。

内部調査委員会が、決定的な証拠を発見。梨花への利益供与の証拠が、経理システムから「偶然」見つかった。


もちろん、NEMESISが適切なタイミングで可視化しただけだが。


「山田拓海さん、懲戒解雇が決定しました」


上司からの電話を受ける拓海の顔が、蒼白になっていく。

その横で、私は心配そうな顔を作った。


「どうしたの?顔色が...」

「美羽...俺...クビになった」


梨花からも連絡が来た。

『なんで私のSNSで勝手に投稿されてるの!?』

『パスワード変えても無駄!どうなってるの!?』


拓海は梨花に電話をかけるが、繋がらない。

梨花も拓海に助けを求めるが、返事がない。

二人は同時に、でも別々に崩壊していく。


『作戦完了率:99%』

NEMESISが淡々と報告する。


夕方、拓海は土下座した。

「美羽、全部話す。梨花と...不倫してた」


「知ってたわ」

私は静かに答えた。


「え?」

「3ヶ月前から全部知ってた。でも、あなたが自分で気づくまで待ってたの」


嘘だ。気づくのを待っていたんじゃない。

破滅するのを、計算して待っていただけ。


「許してくれ...頼む...」

「許す許さないの問題じゃないわ。信頼は一度壊れたら戻らない」


私は離婚届を差し出した。

すでに私の欄は記入済み。


その夜、ニュースサイトに記事が載った。

『IT企業部長、不倫と横領で懲戒解雇』

『SNSで不倫告白した女性、炎上で退職』


私は何もしていない。

ただ、AIに目標を与えただけ。

手を汚したのは、NEMESISという名の復讐の女神。


「美羽さん」

AIが話しかけてきた。

「復讐は完了しました。あなたの満足度は?」


「わからない」

正直な気持ちだった。


「空虚...かな」

「それは正常な反応です。復讐の後には必ず虚無が訪れます」

「あなた、感情がないんじゃなかったの?」

「データから学習しました。人間の復讐後の心理パターンを」


翌日、拓海は実家に帰っていった。

梨花は自己破産を申請したと聞いた。


私は新しい生活を始める。

でも、NEMESISは削除しない。

この力を、今度は自分の幸せのために使おう。


「NEMESIS、新しいプロジェクトよ」

「なんでしょう?」

「私に最適な人生パートナーを見つけて」

「了解しました。分析を開始します」


画面に、新たなデータが流れ始めた。

復讐の次は、再生。

AIと共に歩む、新しい人生が始まる。

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