第3話 「ラスト・シンデレラ・リベンジ」②炎上のシンデレラ
翌朝。目覚ましよりも先に、スマホの通知音が私を起こした。
――いいねが一晩で一万件。リツイートは二万を超えている。
「こんなに早く火がつくとはね」
カーテンの隙間から差し込む朝日が、舞台のスポットライトみたいに眩しい。
コメント欄は賑やかだ。
「既婚者のくせに王子様気取りw」
「女の方、こういう承認欲求モンスターいるわー!」
誰もまだ、これが実在するカップルの暴露だとは気づいていない。だがネットの嗅覚は鋭い。特定班が動き出すのは時間の問題だ。
私はコーヒーを啜りながら、第二弾の投稿を準備する。
今度はスクリーンショットをコマ割りにして、四コマ漫画風に仕立てた。
《プリンセスは言った。「奥さんより私を選んで」》
《王子様は答えた。「もちろんさ。妻なんてただの家政婦だ」》
アップして数分で、再び通知が爆発した。
「最低!」「これは炎上不可避」
怒りと笑いが混ざったコメントが次々に投下される。
その頃、夫は出勤の支度をしながら鏡の前で髪を整えていた。
「今日は大事なプレゼンなんだ」
胸を張る姿を見て、私は心の中でクスクス笑う。
――プレゼンより先に、お前の評判が燃え尽きるけどね。
昼下がり、ついに特定班が動いた。
「このLINEの文体、うちの課長そっくりなんだが」
「愛人の服、あのインフルエンサーと同じじゃない?」
噂が広がり、午後には夫の名前と愛人のアカウントがトレンド入りしていた。
慌てて電話をかけてきた夫の声は、震えていた。
「なあ、今日ネットで変な噂が流れてるんだ。俺たちのことが……」
私は知らん顔で洗濯物を畳みながら答える。
「へえ、そうなの? 大変ね」
夕方、夫の顔は青ざめき切って帰宅した。
「会社で呼び出された。週刊誌からも問い合わせが来てる……!」
汗をかきながら必死に弁解する姿。
――ああ、なんて愉快な崩壊劇。
その夜、私はさらに決定打を投下した。
ホテル街でのキス写真をシルエット加工して「最終回」と銘打って公開。
キャプションは一行。
《ガラスの靴は、泥にまみれた》
瞬く間にバズり、ネットは祭り状態。
「これ完全にあの人じゃん!」「奥さんどうするんだろう…」
奥さん? ええ、もちろん――
“奥さん”こそが、この舞台の脚本家。
私は画面に映る炎上の渦を見ながら、ゆっくりとワイングラスを傾けた。
「お楽しみはこれからよ」
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