第2話 『バズり妻の完全犯罪』 ②完璧な罠


フォロワー数が95万人を突破した朝、私は新たな動画を投稿した。


「理想の夫婦関係について語ります♡」


画面には、慎二との思い出の写真をスライドショーで流しながら、私が語りかける。

『夫婦って、お互いを信頼することが大切ですよね。でも最近思うんです。信頼って、裏切られた時に初めて、その重さがわかるのかなって』


コメントが爆発的に増える。

『まりなさん、大丈夫?』

『なんか今日のまりなさん、違う』

『深い...考えさせられる』


再生回数は1時間で100万を超えた。

私の過去最高記録だ。


その頃、慎二の会社では異変が起きていた。

「おい、見たか?TikTokのアレ」

「まりなさんの旦那って、お前の部署の山田だろ?」

「なんか...ヤバくない?」


慎二のスマホに通知が殺到する。

動画を見た彼の顔が青ざめた。すぐに電話をかけてくる。


「まりな!あの動画は何だ!」

「え?いつもの投稿だけど...どうかした?」

「信頼とか裏切りとか、意味深なこと言うなよ!」

「あら、気に障った?やましいことでもあるの?」


私の声は、甘く、そして冷たい。


「い、いや...とにかく変な誤解を招くような投稿はやめろ」

「わかった。ごめんね」


電話を切った後、私は次の一手に出た。

香織のインスタに、匿名でDMを送る。


『あなたの秘密、知ってる人がいるみたいよ』


効果は即座に現れた。

香織が慎二に泣きついたらしく、二人のLINEが激増する。

全て、私の監視アプリで筒抜けだ。


『まりなにバレてる?』

『そんなはずない。でも最近の投稿が...』

『別れた方がいいかも』

『今更何言ってるの!』


内部分裂の始まりだ。


翌日、私は「夫婦円満の秘訣」というライブ配信を始めた。

視聴者数は過去最高の3万人。


「実は皆さんに聞きたいことがあって...」

私は少し声を震わせる。演技だけど。


「もし、パートナーが他の人と親密にしてるのを知ったら、どうしますか?」


コメント欄が炎上した。

『まりなさん、まさか...』

『旦那浮気してるの?!』

『証拠があるなら晒せ!』


「いえいえ、仮の話です!ドラマの話を聞いて、ふと思っただけ...」


でも、種は蒔かれた。

ネット探偵たちが動き始める。

慎二のSNS、会社の情報、全てが掘り起こされていく。


そして、ある視聴者が気づいた。

『待って、まりなさんの旦那の会社の飲み会写真、いつも同じ女性が隣にいる』

『これ、部下の香織って子じゃない?』

『インスタ見たら、高級レストランの投稿日が怪しい』


私は慌てたふりをして配信を中断した。

「ご、ごめんなさい!ちょっと気分が...」


これで完璧。

私は何も暴露していない。

視聴者が勝手に真実を見つけただけ。


その夜、慎二は真っ青な顔で帰宅した。

「まりな...ネットで変な噂が...」


「知ってる」

私は振り返らずに答えた。


「でも大丈夫。私は信じてるから」

「まりな...」


「ねえ、慎二」

私は振り返り、最高の笑顔を見せた。

「もうすぐ100万フォロワーなの。記念に何か特別な配信をしようと思って」


慎二の顔が引きつる。


「例えば...『夫婦の真実』とか、どう?」


彼は何も言えなかった。

罠は、完璧に作動している。


私のスマホには、既に企業からのオファーが殺到していた。

『不倫疑惑で話題のまりなさん、独占インタビュー』

『書籍化オファー』

『ドキュメンタリー番組出演依頼』


全ては計算通り。

あと、フォロワー5万人。

その時、慎二と香織の運命が決まる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る