第1話 『妻の秘密は年収3億』②株主総会の衝撃


臨時株主総会当日。

健司は朝から機嫌が悪かった。


「なんで急に株主総会なんだよ。筆頭株主が変わったらしいが、誰だか分からないとか」

苛立ちながらネクタイを締める夫に、私はコーヒーを差し出す。


「大変ね。でも健司なら大丈夫よ」

「当たり前だ。俺は次期役員候補だからな」


――そう、だからこそ面白いのよ。


健司が出社してから、私も身支度を整える。

クローゼットの奥から取り出したのは、普段は絶対に着ないパワースーツ。

3年前にオーダーメイドした、勝負服。


会場のホテルに到着。

受付で「MTMインベストメント代表」と名乗ると、係員の顔色が変わった。


「筆頭株主様!お待ちしておりました。特別室へご案内します」


私の正体を知るのは、雇った弁護士と会計士だけ。

彼らも守秘義務契約で縛られている。


午後2時。株主総会開始。

壇上には社長以下、役員たちが並ぶ。その中に健司の姿もあった。

部長から取締役への昇進が内定していたらしい。


司会が告げる。

「本日は、当社株式の15.8%を保有する筆頭株主、MTMインベストメント様から重要な提案があります」


私の代理人弁護士が立ち上がる。


「我々は、経営陣の一部に重大なコンプライアンス違反があることを確認しました。証拠資料を配布します」


会場がざわつく。配られた資料には、健司と美咲の不倫の証拠が詳細に記載されていた。

会社の経費での密会、就業時間中の不適切な関係、パワハラまがいのLINE。


「特に問題なのは、上司の立場を利用した新入社員への性的関係の強要です」


健司の顔が真っ青になる。

「ち、違う!合意の上だ!」


「では、こちらの音声データをお聞きください」

会場に、美咲の声が響く。

『部長に逆らったらクビにするって言われて…断れなくて…』


――実は昨日、美咲には「協力すれば、あなたは被害者として守られる」と持ちかけていた。

彼女は即座に健司を裏切った。


社長が立ち上がる。

「健司君、これは事実か?」

「そ、そんな…美咲が勝手に…」


醜い言い訳が続く中、私の弁護士が止めを刺す。


「MTMインベストメントは、問題のある経営陣を一掃しない限り、全株式を売却します。当社の株価への影響は――」


「分かった!」社長が叫ぶ。「健司君、君は即刻解雇だ」


さらに弁護士は続ける。

「なお、我々は新たな経営改革案を提示します。女性役員比率50%、不正防止システムの導入、そして――」


資料をめくる音。


「新たにCDO(最高デジタル責任者)として、投資・デジタル分野の専門家を外部から招聘することを提案します」


「誰を推薦されるのですか?」


弁護士が微笑む。

「YouTubeチャンネル『謎の投資女子M』の運営者です。実績は配布資料の通り」


会場が騒然となる。あの有名チャンネルの正体が明かされる?


健司が叫ぶ。

「ふざけるな!俺をクビにして、訳の分からない奴を役員にするだと?」


その時、私は立ち上がった。

特別室から、ゆっくりと壇上へ。


「初めまして、MTMインベストメント代表であり、『謎の投資女子M』の正体――」


ヒールの音を響かせながら、振り返る。


「山田結衣です。ああ、旧姓でした。今は――健司の妻、ですね」


健司の膝が崩れ落ちた。

会場は、静寂と驚愕に包まれた。


「専業主婦は、仮面だったんです」


私は微笑んだ。32億の資産を背景に。


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