第8話 回る木馬

 ベルモントのブライトン・ストリートでは、十二月に入ると毎年小さなクリスマスマーケットが開かれる。露店には焼き菓子やホットチョコレート、手作りのオーナメントが並び、夜になると通り全体が光に包まれる。中心には簡素なメリーゴーラウンドが設置され、子供たちに人気だった。


 十二月八日の深夜、すでにマーケットは閉じられていた。人影のない雪の広場で、ひとりの警備員が巡回していたとき、不意に耳に届いたのはオルゴールの旋律だった。

 メリーゴーラウンドが、ゆっくりと回転していたのだ。


 木馬の一頭に、子供の姿がまたがっていた。白い息を吐きながら笑っているように見えたが、顔は雪の向こうでぼやけていた。警備員が駆け寄った瞬間、その姿は煙のように掻き消えた。

 しかし木馬は止まらず、回転を続けていた。


 翌朝、開場準備をしていた店主が、木馬のひとつに異変を見つけた。鞍の上に小さな紙切れが貼り付けられていたのだ。そこには、赤黒いインクでこう記されていた。


 “On the 25th, I will return.”(二十五日、帰る)


 その日、マーケットの出店者のひとりが忽然と姿を消した。残されていた屋台のテーブルには、粉雪にまみれた赤い手袋が一組、きちんと並べられていた。


 夜になると再び、マーケットの広場にオルゴールの旋律が響いた。雪を照らす街灯の下で、空席の木馬がゆっくりと回り続けていた。

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