第6話 いないはずのサンタクロース
ベルモントのエグゼター・ストリートは、古い住宅が並ぶ静かな通りだ。その一角にある老人ホームは、クリスマスの季節になると必ず近隣のボランティアが訪れ、入居者に歌や贈り物を届けていた。
十二月六日の夕方、ホームの玄関には赤い衣装を着たサンタクロースが現れた。背は高く、白い髭をたくわえ、背中には大きな袋を担いでいる。
入居者たちは歓声をあげ、子供のように喜んだ。サンタはひとりずつに小さなプレゼントを手渡し、深い声で「メリークリスマス」と告げた。
だが翌朝、職員が名簿を確認すると、そのサンタに該当するボランティアの名前は存在しなかった。来訪者リストには誰一人として記録されていなかったのだ。
さらに奇妙なのは、その夜以降、入居者のひとりが行方不明になったことだった。部屋には未開封のプレゼント箱だけが残され、中には黒く濡れた紙切れが入っていた。
そこには赤いインクでこう記されていた。
“On the 25th, I will return.”(二十五日、帰る)
職員は警察に通報したが、監視カメラの映像には何も残っていなかった。エントランスを出入りする姿もなく、サンタが来た証拠は一切なかった。
だが入居者たちは口を揃えて言った。
「確かにあの夜、サンタが来たんだ。プレザント・ストリートから歩いてきて、歌をうたってくれたんだ」
エグゼター・ストリートに降り積もる雪の上には、その夜も翌朝も、誰のものとも知れぬ大きな靴跡が残されていた。
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