海に観覧車があればいいのに。




 海に観覧車があればいいのに。


 真夜中の海に漂いながら、観覧車が回る回る。


 海の潮の匂いを感じながら、


 満点な星空を一回二回三回と見送る。



 箱の中は、ギィギィと落ち着きがない。落ちないか心配になる音がなり、浮遊感に揺られながら上がっては下がってを繰り返す。


 座り直しを強要される硬いスポンジが入っている椅子。プラスチックを貼り付けただけの窓はガタガタと今にも外れそうだ。軽く蹴ったら開きそうな扉には近づかない。


 どこかしら隙間が開いているのか、ヒューヒューと中に風が入ってくる。


 海に漂う観覧車。その観覧車に乗っている私は、神秘的な風景をただ黙って見送るただの人形だ。


 それだけでいい。ただの人形でいい。


 なにも考えず、なににも染まらず、なにかに流されることもない。


 そう、ただそれだけでいい。



 海に観覧車があればいいのに。


 そうしたらこんな気持ちも、海に漂いながら、忘れることが出来るのに。


 私は好きになったことがなかった。


 私を好きだと言った貴方。


 私は普通に人を好きになってみたかった。その実験台なら誰でも良かった。



 私は人を好きになる努力をした。


 貴方の一つ一つを大事にして。一つ一つを大切に。一つ一つを記憶した。


 貴方の笑い声が好きになった気がした。


 貴方の言葉が心地よくなっていく気がした。


 貴方の隣りで肩を預けると、暖かく感じるようになっていた。


 貴方の考えが分かるようになると、少しのことなら許せるようになった。



 私は努力した。貴方となら好きが分かるんじゃないかと思っていた。


 思っていたのに。


 私の心を貴方で埋めておいて、なんで貴方は簡単に私から離れていけるの?


 ねぇなんで?


 この心に散らかったゴミは、どうやって捨てるのかも私には分からないのに。



 私は好きを知らない。


 でも、心に溜まった好きが忘れてくれない。忘れさせてくれない。



 あぁそうか。



 それは、





 海に観覧車がないからだ。






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