第8章 ― 四天王との死闘 ―

 ― 南方の遺跡へ ―


 連合軍の旗がはためく中、僕たちは南方の古代遺跡へと進軍していた。

 エルフの弓兵、獣人の戦士、砂漠の王国の魔導師たち……百年ぶりに結集した各国の軍勢は、かつてない規模となっていた。


 だが、胸の奥の不安は消えなかった。


「四天王……一体どれほどの化け物なんだ」

 カイルが槍を担ぎながら不安げに呟く。


「勝つしかない。勝たなきゃ、この世界は終わる」

 僕はそう答えながら、強く拳を握った。


 ― 四天王の一人、グラディウス ―


 遺跡の中央に立っていたのは、巨大な鎧に身を包んだ男だった。

 背に背負った黒い大剣は、人間の身長ほどもある。


「人間どもが群れたところで、我を倒せると思うか」

 低く響く声が戦場に轟いた。


 ――四天王の一人、【剣帝グラディウス】。


 ― 戦いの火蓋 ―


「前衛部隊、突撃!」

 ロイの号令とともに戦いが始まった。


 グラディウスの剣が一閃すると、十人の兵士がまとめて吹き飛ばされる。

 まるで竜巻が通り過ぎたかのような破壊力だった。


「こいつ……人間の範疇じゃない!」

 ロイが歯を食いしばりながら剣を構える。


 ― レンの覚醒の兆し ―


 僕は魔力を練り上げ、グラディウスに向かって魔法を放つが、奴は大剣の一振りで呪文を切り裂いた。


「チッ……普通の魔法じゃ通じないか」


 そのときだった。僕の体の奥底から、今まで感じたことのない力が湧き上がってきた。


 ――何だ、この感覚は……?


 魔王が俺を見て笑っているような気がした。


 ― 剣帝の圧倒的な力 ―


 グラディウスの剣が振るわれるたびに、地面が裂け、兵士たちが吹き飛ぶ。

 人間離れした速度と力――まるで災害そのものだった。


「くそっ……! このままじゃ全滅だ!」

 ロイが必死に剣を受け止めるが、一撃の重さに膝が崩れそうになる。


「ハハハハッ! これが人間の限界か!」

 グラディウスの嘲笑が戦場に響く。


 ― レンの覚醒 ―


 その瞬間、僕の胸の奥から強烈な光があふれ出した。

 視界が白く染まり、脳裏に声が響く。


『目覚めよ――勇者の力を継ぎし者よ』


 気づけば僕の手には、光り輝く剣が握られていた。

 柄の部分に刻まれた文字は、古代語でこう記されていた。


「聖剣ルミナスブレード」


「これが……俺の力なのか?」


 ― 決戦 ―


 光の剣を構えた瞬間、グラディウスの動きが一瞬だけ止まった。


「その剣……まさか伝説の……!」


 僕は地を蹴り、光の軌跡を描いてグラディウスに迫る。

 彼の大剣が振り下ろされる寸前、ルミナスブレードが眩い閃光を放った。


「光剣――シャイニング・スラッシュ!!」


 閃光が戦場を切り裂き、グラディウスの巨体を貫いた。


 ― 四天王の一角、陥落 ―


 グラディウスは断末魔の叫びを上げ、闇の霧となって消滅した。

 残されたのは割れた大剣の残骸と、沈黙した戦場だけだった。


「勝った……のか?」

 カイルが呆然と呟く。


「いや、まだだ。四天王はあと三人いる」

 セリアの声は冷静だったが、その瞳には確かな光が宿っていた。


 ― 不穏な影 ―


 そのとき、どこからか不気味な声が響いた。


『面白い……人の子よ。次は我が出るとしよう』


 遠くの空に、漆黒の翼を持つ影が姿を現した。


「奴は……次の四天王か!」


 僕たちは息を整える暇もなく、新たな脅威と向き合うことになるのだった。


 ― 戦いの余波 ―


 グラディウスが消えた後も、戦場には重苦しい沈黙が漂っていた。

 地面には無数の亀裂が走り、倒れた兵士たちの呻き声が響く。


「レン……さっきの力は一体……?」

 リナが息を切らしながら僕を見つめる。


 僕は手にした聖剣ルミナスブレードを見下ろし、答えを探した。

 だが胸の奥で燃え上がる光の感覚は、僕自身にも説明できなかった。


 ― 王国の会議にて ―


 数日後、王都で開かれた緊急会議。


 王は戦況報告を聞き終えると重々しく口を開いた。

「勇者レンよ。そなたが使った聖剣は、かつて魔王ルシファードを封じた伝説の剣……その後継者であることに疑いはないだろう」


「じゃあ、俺は……勇者の血を引いているってことですか?」

 僕の問いに、老臣が首を振った。


「いや、血筋ではない。おそらく転生の際、この世界の意志がそなたを選んだのだ」


 ――この世界の意志が俺を?


 ― 次なる脅威 ―


 その会議の最中、斥候が飛び込んできた。


「報告! 西の海岸にて、魔王軍の二人目の四天王【黒翼のゼラド】が出現! 沿岸都市が壊滅状態です!」


 場が一気に騒然となった。


「ゼラド……奴は空を制する最強の魔族だ」

 セリアの表情が険しくなる。


 ― 新たな決意 ―


 僕は聖剣を見つめながら、静かに言った。


「次は俺たちが行く。ゼラドを倒し、魔王の復活を止めるために」


 心の奥底で、聖剣がかすかに共鳴した気がした。


 ― 第8章 完 ―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る