『大宇宙料理対決! どんどんぱふぱふ~』



『先ほどは失礼しました……。つい興奮してしまって』


「い、いえ。それより、それ、大丈夫です……?」


『はっはっは、問題はありませんとも、ええ』


 ひびの入った水槽を、テープでふさいで水漏れ阻止しているミストルティンの皆さん。私はいいのかなあ、と思いつつも、そもそもの原因が私自身の迂闊な行動にあるのでなんともいえない。


 はわわ……と困惑しつつも、先導するキャタピラについていく。あっ、やっぱ水漏れまだちょっとしてる……床に水滴……。


『こちらに。ビッグママが海産物を使った料理がお好き、と聞いていまして、準備していたのです。どうぞ』


「し、失礼しますー……」


 きぃ、と開かれた扉の中に、おっかなびっくり、入っていく。あ、アースだめだよ、そんなノシノシ扉を押し開いたら! もう、こういう時は図々しいんだから。


 そりゃあ、いきなり扉の向こうから対戦車レーザーぶち込まれてもお前なら跳ね返して終わりだろうけどさ……。


 アースに続いて、恐る恐る扉を潜ると、わっと明るい照明の光が私を照らし出した。


 そして……。


『みっみ~~!!』


『みにゃぁ~!!』


『くるっくー!』


 パンッ! パパンッ!!


 弾ける軽い火薬の音、舞う花吹雪。クラッカーの音と共に私を歓迎するのは、案内してくれたミストルティン達のフレンドと思わしき子供達。


 彼らは元気に歓声を上げながら私を取り囲むと、しっぽや耳を震わせながら思い思いに歓迎の意を示してくれた。


「おー、よしよし。待たせて悪かったな」


 屈伸するような動きで手を振ったり頭を振ったり、わちゃわちゃまとわりついてくる子供達の頭をナデナデしながら、手を引っ張られるままに部屋の奥に向かう。


 ここはどうやら、外部の人間のために用意されたパーティー会場のような場所らしい。


 華やかな会場には白いテーブルクロスをかけた大きなテーブルがどん! と置かれて、壁からは『ビッグママ歓迎』の文字がぶら下がっている。


 なんていうか、コテコテの宴会会場である。しかしながら、大きなテーブルに机が二つしかないのはどういう事だろう?


『ミィミィ!』


「あ、ここに座るの?」


『ミュルゥ!』


 案内されるがまま席にアースと一緒に座る。てとてと、と案内役のフレンドが下がっていくと、今度は入ってきたのとは違う扉が開いた。


 そこからやってくるのは、コック帽をかぶったフレンド達。彼らはよちよちとお盆を二匹セットで抱えてこっちまでやってくると、机の上に料理を並べはじめた。


『どうぞ、ビッグママ。我らが故郷、ティターニアでとれた海産物を用いたフルコース料理でございます。どうぞ、ご賞味ください』


「わあい!! アースもお食べ!」


『ピピィル!』


 机の上に並べられる、様々な料理。


 なんかヒラメっぽい魚のムニエルとか、蛸っぽい何かのカルパッチョとか、あ、お刺身とかもある! 醤油もワサビもある、わーい!


 あ、ウナ重っぽいものまで!! 平和な時代にもこんな豪華なごちそう食べた事ないぞぅ!!


 この黒いのもしかしてキャビア!? キャビアと一緒に固めてあるのも、なんかおいしそうな食材だぞぅ!


「おいしーい! ちょっと地球の魚とは味も触感も違うけど、これはこれでおいしーい!!」


『ピルルルゥ!(もしゃもしゃ)』


「……あ、そうだ。トオル君のはないの? 私だけ食べるのは悪いよー」


 皿を何枚か空にした所で、はっと同行者の存在を思い返す私。


 見れば、トオル君とカフェオレちゃんはちょっと離れた所で私が食べているのを見守っているだけだった。


 失礼な事をした!


『もちろん、お連れの方の分も用意していますよ。今準備中なのですが……おかしいですね、ちょっと遅いような』


『キリュゥゥ』


『あ、コックがやってきました。せっかくなので紹介しますね、こちらが今日の料理を作ってくださった、我々の雇った料理人です。ご挨拶を』


 ミストルティンの皆さんが紹介してくれたのは、ガタイのよい筋骨隆々、顔の彫りの深い男の人だった。熊みてぇだ。


「播磨源三郎と申します。初めまして、葛葉さん」


「ヒェ は、初めまして……」


 あ、圧が、圧が強い! 悪意とか感じないんだけどそこに立ってるだけで存在感でぺしゃんこになりそう!


 ひぃー、とアースのしっぽをちょんとつまむ。料理の皿を空っぽにする事に夢中になってるアースは、ちらりとこっちを振り返ったが気にせずに皿をばくついている。


『ピィルルル』


「(い、いや、そりゃあ身体的には私の方が三倍ぐらい力強いけどさ!? そういう話ではなくてね!?)お、美味しい料理、ありがとうございます……」


「いえ、お口にあったのなら幸いです」


 にこりともせず、小さく頷く源三郎さん。なんかこう、こだわりの本職という感じだ。


『いい腕でしょう? 我々ミストルティンは料理を口にしませんが、他の宇宙連合所属種族……ア・ラクチャ・ルゥやナチュラリスト、シュリンプスタやディノゾーアの皆さん、何より人類の皆さんをもてなす場合は美味しい料理が一番でしてね。こうやって、腕のいい料理人を雇っているのですよ』


「なるほど、確かにとてもおいしかったです。という事は、源三郎さんはミストルティン達が選んだ料理人ナンバーワン、という事なんですね」


「身に余る栄光です」


 源三郎さんが小さくお辞儀をする。だが、その伏せた顔が、ぎらり、と強い眼光を放った事を私は見落とさなかった。


「?」


「それに比べて……」


 顔を上げた源三郎さんの視線は、私ではなく、離れた机に座っているトオル君に向けられている。呑気に机の上でとぐろを巻いているカフェオレちゃんと違い、トオル君は何か苦笑いを浮かべてこちらの様子をうかがっているようだった。


「まさか、市井の料理研究家なんぞを、ビッグママの専属料理人にあてがうとは。地球の統合政府の方々は、過去の温情に対する礼、というものを逸したようですな」


「え? あ、いや、そういう訳では……」


 なんだか話の雰囲気がおかしくなってきたぞ?


 不安半分、ワクワク半分で見守っていると、源三郎さんとトオル君が真正面から視線をぶつけ合わせているのが見て取れた。


 これは……ガン付けバトルという奴か?!


「荒山トオル! ワシ自慢の宇宙寿司で、マザー専属料理人の座をかけて、いざ、勝負を申し込む!!」


「俺はただの料理研究家なんだけど……」


『ちょっと、播磨さん!?』


 バチバチバチィ! と火花舞い散り雷が落ちる。たちまちオーラをぶつけ合う料理人二人の間で、キャタピラ水槽が淡淡としている。


 私は……まあ、うん。


「いいんじゃない? どっちも頑張れー!」


『えぇ……? ま、まあ、ビッグママがよろしいのならそれでいいですが……』


 いいじゃんいいじゃん、面白くなってきた!


 いや別にトオル君が私の専属料理人なんてそんなこたーねえけど、ここは細かい事はよそにおいといて、と。


「よーし! ここは私が責任を取っちゃうぞ! 双方、準備時間は一時間! 美味しいのを期待してるよー!」


「了解しました!!」


「えー……葛葉さん、本気?」


 トオル君は口では文句を言っているが、ふふ、なんだかんだでやる気でしょう。こういう楽しいの、好きでしょ?


 いいねいいね、平和で。


 誰の血も涙も流れないなら、こういう突発イベントは大歓迎!


 いいじゃないか、料理バトル。漫画でしか見たことないシチュエーションが今目の前に!


『うーん。これはこちらも急いで準備をした方がよさそうですね。全ミストルティンに映像の中継準備を!』


『あいあいさー』




 そして、1時間後。


 テーブルに並べられた料理を綺麗に食べつくして時間を潰した私の前に広げられる特別会場の場において、二人の料理人が向き合っていた。


 外野には、たくさんの動く水槽。どうやら噂が噂を呼び、ステーション中のミストルティンが集まっていたらしい。その中には、まだ面談を済ませていない異星人の姿もある。


「…………」


「うーん……」


『えー、突然始まった料理対決! 勝利の軍配が上がるのは一体どちらか! 挑戦者は播磨源三郎! 皆さんご存じ、当ステーションの名物料理人です! 対するは、ビッグママの銀シャリ麦布教番組に出演した事で一躍時の人になった荒山トオルさん!』


 なんかノリノリで司会をしているミストルティンの人。ノリがいいね。


『さて、播磨さんの料理をご紹介しましょう! メニューはもちろん、彼の18番、宇宙寿司! ミストルティンでとれた海産物を用いた宇宙寿司! 今や宇宙に轟く我が星の特産品を贅沢に、かつ匠の技で仕上げた逸品です! シャリには地球産の最高級寿司米“ササニシキ”を用いております!』


『ミィルルゥ』


 背中に一杯触手が生えたトカゲみたいなフレンドがお盆を抱えて、てちてち歩いて私の前に皿を置いてくれる。


 そこに並んでいるのは、いかにもー、といった感じの寿司の数々。つややかな脂身がてらてらと輝き、ぷりっとした頭足類の切り身やふわふわ分厚いホタテの貝柱みたいなのが、シャリの上に並んでいる。ほほう、これが……宇宙寿司! 見慣れたものも多いけど、初めて見るような物もあるなあ!


『ヤツメダイの大トロ、キュウバンオオウミウシの腹、ハシラツムギの索、ハバタキマンタの縁側……いずれもその名を知られた名産品です! 果たして、ビッグママの反応は?』


「おぉー……いただきますー」


 ちょんちょん、と醤油に付けて、お寿司を口に運ぶ。


 ほほう、このヤツメダイの大トロとやら……触感としては思ったよりもしっかりしていて、なんか霜降りステーキみたいな触感だ。最初はしっかりとした噛み応えがあって……おっ、それが口の中でふわっと溶け出してシャリと混ざり合う。酢のきいたシャリと脂が絡み合って……おおぅ、美味い! こっちのはタコじゃなくて、ウミウシの輪切りなのか……ほほう、タコよりちょっと柔らかいな、しなっとしていて、まあこれはこれで咀嚼しやすくて……あり! 噛めば噛むほど味も出てくる! このホタテみたいなのは肉柱を切ったものなのかー……ふむ、微妙にちょっと味が違うな、確かに肉っぽい。ホタテの繊細かつ深みのある旨味とはちょっと違うが、これはこれで……。んでもって、これ縁側、って、マンタってエイだろ? あいつら軟骨魚類で、ヒレも軟骨びっしりだったはずだが……肉をそぐようにして切ったのかな。ほほぅ、エイの肉って水っぽいと思っていたが、これはこれでコリコリッっとしていて、なかなか……。


「おいしーい!!」


「……よし!」


『おおっと、宇宙寿司、ビッグママにはご好評の様子だぞ! これは早くも勝負あったか!?』


 いやー、なかなか美味しいね、宇宙寿司! 私は貧乏サラリーマンだったから、高級なお寿司とか食べた事なかったけど、これはかなりのものなんじゃないかな!? いやー、こんないいお寿司が食べられるなんて、人助けはするもんだねえ。


 アースの方は……お、おぅ。全部平らげた後か……そんなに美味しかった? そっか、よかった。


 いやあ、お前のお兄さん達にはちゃんとしたご飯、あまり食べさせてやれなかったからさ……こうしてお前にいいもの食べさせる事ができて、ママは嬉しいよ。


 それで、トオル君のほうは?


『キュッキュ』


「ありがとー……お? これは……?」


『こ、これは、なんだ? トオル選手のお寿司は……。なんだか、やたら角ばった物体がシャリの上に並んでいるぞ? これは一体……?』


 司会の言う通り、トオル君のお寿司は、シャリの上になんだか非有機的な鋭角的なシルエットの、ゴテゴテっとしたブロックが並んでいる奇妙なものだった。


 黄色、赤、白、ピンク……。食材というよりなんていうか、成形物、って感じのものが並んでいる。これは一体……?


 皆の注目を浴びて、トオル君は小さく頷いた。


「これが俺の用意した寿司。食品用3Dプリンタで成形したネタを乗せた、リクリエイト寿司だ!」


「なんだと……貴様、ビッグママにそんなものを食べさせるつもりか!? 勝負に勝てぬからと曲芸に走ったか!? ええい、勝負は中止だ! そんなもの片づけてしまえ……!」


「まあまあ、源三郎さん。トオル君が考えなしに出してきたわけじゃないと思うよ。とりあえず、食べてから考えよう」


 私はとりあえず、一番手前にある黄色いネタののったお寿司を手に取り、ちょいちょい、とお醤油に付けて口に運んだ。


「あーーん……ぱくっ」

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