『ねくすとこみゅにけーしょん!』



「という訳で。今後は12種族の代表と、ガンガン面談していきましょう!」


 そう言ってニコニコ笑う美鶴さん。その前で、私は机の上でべしゃーっと潰れている。ちなみにアースは隣で本を読んでいるようだ、表紙には「宇宙連合12氏族の秘密」。中学生ぐらい向けの資料本である。


「ナチュラリストとの接触はもう済んでしまったし、この際だからじゃんじゃん面談すませていきましょう。実際の所、あちらから是非にと毎日のように面談の催促が来てましたしねえ。このままだと人類はビッグママを独占して彼女をいいように使おうとしている! とか言われても文句は言えないので、はい」


「いやあ大変だね。偉い人は」


「はいそこ他人事みたいにして現実逃避しない」


 だってぇ!


 私ただの一般ぴーぽーだよ!? 宇宙人との異種接触なんて何かやらかさない自信がない!! 殺す殺されたの話ならともかく!!


「嫌だよ私の一挙動に宇宙の命運がかかってるみたいなの!? 白旗上げたら全面戦争とか冗談じゃない!!」


「えらく古典的な例えをだしてきますね……いや、葛葉さん的にはそうでもないのかしら。もう、そんな風にはなりませんよ、あちらだって同じ宇宙連合に所属している以上、多少の文化の違いは織り込み済みです。それが意図的なものか、悪意があっての事なのかぐらいの区別はつきます、フレンドも居るんですし」


『みゅいみゅい』


 僕がいるよー、と言わんばかりに、美鶴さんのフレンドであるニンバスがもそもそと彼女の足元で声を上げた。


 そ、そっか。宇宙連合の人達もフレンドを受け入れているなら、そうそう滅多な事にはならない……かな?


 TVでも見たように、直接異種同士で会話が成立しなくても、フレンドが間に入っているようだし。言うなれば通訳だな。


「そ、そっか……それならまあ、なんとか……」


「まずは友好的な方々から慣らしていきましょうね。そうですねえ、ア・ラクチャ・ルゥの皆さんあたりからまずは予定立ててみましょうか」


「友好的じゃないのもいるのぉ!?」


 ひぃーん、とアースの尻尾にしがみつく私。そんな私を、アースは遊んでくれるのかと勘違いしたのか、声を上げて私にすりよってきた。


『ピルルル』


「言葉の綾ですよ。宇宙連合参加種族が全員が全員、人類みたいに貴方の事を敬っている訳ではないというだけで、皆強い好意と関心をもっているのは変わりありません。たった一人で侵略宇宙人に立ち向かった貴方を戦士として尊敬している種族もあれば、貴方の有り様に感銘を受けた種族もいます。あんまり好意的すぎるのも重たいでしょうから、適度な距離感の方からあっていきましょう」


「ふ、ふーい……。と、ところで、こないだのナチュラリストの連中は、その分類だとどのあたりのスタンスなので……?」


 私が遅る遅る確認をとると、美鶴さんはにっこりと微笑み返した。あ、これ、あれだ。感情とか考えてる事を悟られない為の笑顔のペルソナだ。割と拒絶に近い奴。


「い、いえ、なんでもないです……」


 ううーん、他の宇宙人と話すの怖くなってきたぞ……。


「や、やっぱ、無しという訳には……」


「うーん、でもそれだとお仕事なくなっちゃうんですよね。誰かさんが宇宙船の中枢ブロックで大火事起こしちゃったから、今、アマノトリフネは宇宙ドック入りして修理完了するまで動けないんですよねー。ああー、困っちゃったな、乗る船がない船乗りほど虚しい生き物はいませんよね。面会の御仕事があるなら、私達も仕事になるんですが、そうですか。仕方ありませんね、しばらくプー太郎になるしかないですか。経歴書の空白になんて書きましょう?」


「慎んでお仕事に励ませて頂きたいと思います」


 ひぃーん! 後悔先に立たず! 感情を抑えられず先走った結果がこれだよ!!




 そして、それから三日後。


 私は二人目の宇宙人とのコンタクトに臨んでいた。


 ナチュラリストとの遭遇は事故だったので、これが正式には私の初会見、という事になるらしい。


 面談室で、相手方の到着を待つ。一応、今日訪れる相手の星の文明とか社会についてはかるーく勉強したが、なんていうか美鶴さんがあまり資料を用意してくれなかった。先入観なく話をしてほしい、というあちらの都合らしい。


 ちなみに私は、美鶴さんが選んでくれた白いワンピースで、アースも今日はお洒落、という事で首元に黒い蝶ネクタイをしている。銀色の体にワンポイントのネクタイが映えているね。私も正直、子供用礼服の類の方がよかったんだが、美鶴さんに押し切られてしまった。これでも元男なんで、ひらひらした服よりかっちりした服の方が落ち着くんだが……。


 ……いま思うと、馬鹿正直にこの体を再現したの失敗だったな。元々の男の姿で肉体を再生していればよかったな。そしたら誰にもママだって判別されないまま、身元不明の一般人として社会にしれっと紛れ込めたかもしれない。


 ……今からでもそうしようかな? いやでも肉体の再構成は流石に一旦マザーツリーに戻る必要があるし、今の状態で戻ってもバレちゃうから意味がないか……るるる……。


「(コンコン)葛葉さん、お相手をお連れしました」


「あ、はい、どうぞ」


 びしり、と椅子に座り直して姿勢を正す。傍らでアースもちょこんと座り直すのが目に入った。


「それでは。ア・ラクチャ・ルゥ代表としていらっしゃった、大使メカポコ・スタンさんです」


「あぎゃぎゃぁ」


『みゅふみゅふ』


 美鶴さんの案内で開いたドアからぺたぺたと入ってくるのは、二足歩行するアナグマみたいな毛むくじゃらの獣人だった。着物みたいな上着を羽織った彼の頭には、クラゲみたいな形のフレンドがまるで唐傘のように頭にのっている。


 私が慌てて一礼すると、スタンさんも優雅に一礼を返してくれた。


「は、はじめまして、葛葉零士です……」


「ぎゃあ、あぎゃあぎゃ。ぎゃあ!」


『みゅふぅ、みゅるる』


 あ、どうも。これはご丁寧に。


 はあ、ア・ラクチャ・ルゥは氏族社会で、貴方はそのうちの一つから、種族を代表して派遣された訳ですか。あ、長いからルゥでいい? では、有難く。


「ぎゃあやあ、あぎゃ」


『みゅっふ、ふるる、みゅぅ』


 成程。貴方達の文明は本来、まだ文明としてはまだまだ初期段階だった訳ですね。ところがそこに侵略宇宙人の攻撃を受けて滅ぼされる直前で、人類軍艦隊の救援を受けた、と。以降は、自分達の文明を守りつつ、星間連合に適合する為に、努力と研鑽を続けてきた。ふぅむ。


 ……難しい話だ。


 恐らく、人類の救援部隊も彼らをどうするかは悩んだはずだ。侵略宇宙人に滅ぼされるのは見て見ぬふりはできぬが、かといって介入すれば間違いなく彼らの文明を捻じ曲げてしまう。人間でいえば、古代ローマとかそのあたりの時代に、宇宙船だとか資本文明だとか民主主義とか持ち込まれる訳で、よほど気を付けないと元の文化が木っ端みじんに消し飛びかねない。たかだか100年かそこらの文明の差でも、元の文明を上書きしようという動きは地球でもしょっちゅう有り触れていたしな。


 いや、文明の上書きですめばまだいい方か。相手の事を未分化の野蛮人、すなわち獣として人間扱いせず、奴隷や家畜として滅ぼす、なんていう痛ましい出来事が人類史ではアホのように何度も何度も繰り返されてきた事例だ。同じ人型である人間同士でもそうなのだから、見るからに人間と違う生き物、そして人間の感性からしても原始的な毛むくじゃらの二足歩行する動物みたいな知性体、一歩間違えば大変に失礼な扱いをしている可能性もあった。


 それに、ちゃんと歴史から反省しても、実際に触れ合う中で生じる文化摩擦は尋常ではないだろう。最終的に侵略宇宙人の攻撃で全部吹っ飛んだが、違う文化違う教えが原因の原住民と移民側の決して分かり合えないトラブルは現代社会でもいくらでもあった。あれはもうどちらが譲歩する、という話でもなくて、両者が互いに尊重しあい、互いにともに生きていくという自覚を持たなければ解決しない問題だ。そして得てして、人間は自分だけは損をしたくない生き物なのである。ましてや、受け入れ側は自分の生活があり、やってくる側は新しい生活基盤が早くほしい。どのみち無理な話なのだ。


「ぎゃあ、ぎゃあ。あぎゃあ」


『みゅふるるる』


 しかし、そのあたりを人類は上手くやったようだ。フレンドという異種と既に共生関係にあった事が大きいのだろう。


 何もかもが違うこの可愛らしい毛むくじゃらの生命体を、人類は同じ宇宙の同胞として尊重して扱った。結果、彼らは宇宙連合、三番目の加入種族となったらしい。


 しかし、なんていうか凄いな。


 つい数十年前まで、竪穴式住居とか洞窟とかで暮らしていたのが、今じゃつるつるしたリノリウム張りの宇宙船の中で普通に暮らしてる訳だ。なんなら自分達でも宇宙船を運用しているんだって? すごいなー。


 並大抵の努力でなせる事ではない。見た目は可愛らしいが、秘めたスペックは人間以上かもしれない。


 宇宙人って、すげー。


 私はしきりに感心しながら、スタンさんの話に相槌をうち、時に手を叩いて感動をしめしながら、楽しく会談の時間を過ごす事ができた。


 なんだあ、美鶴さんが怖い事言うから、どんなもんかと思ったけど。こういう感じなら大歓迎だぁ、うふふ。



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