『素敵な事思いついちゃったー!』



「るんるららー、るんるん」


『ぴぃるぴる、ぴぃるー』


 ベッドの上、私はアースの頭を抱えながら、リモコンのチャンネルをぽちぽち押していた。


 壁のでっかいテレビ画面を切り替えながら、いろんな番組に目を通す。


「しかし、どこもかしこも、人間以外でいっぱいだなあ」


『ピルル』


 今、画面に映っているのはどこぞの惑星の大都市らしいが、そこを歩いているのは人間ばかりではない。


 いや、むしろ人間の方が少ない。二足歩行のお決まりのシルエットは半分もなくて、それよりも複数の足でワシャワシャ歩くエビタコ星人や、毛むくじゃらの獣人、浮遊する金属結晶、キャタピラに乗った水槽に浮かぶホヤだか海綿だとか、なんかもうとにかくカオスである、カオス。


 昔、SF映画とかでたくさんの宇宙人と共生している辺境宇宙、といった構図は何度も出てきたが、そういう映像でも宇宙人は基本二足歩行で、顔がちょっと人間じゃないぐらいだったが、実際にこうして実現した異星人社会というのはシルエットすらも同じではない。


 ここまで種族として差があると言葉も通じそうにないが、それを仲介しているのがフレンド。どんな姿の異星人も、傍らに必ずフレンドを連れていて、仲睦まじそうにしている。まあフレンドも、多種多様な見た目をしていて、一瞬どっちがどっちか分からない事もあるのだが。


「これは……抱きかかえているのがフレンドで、抱えられてるのが宇宙人か」


『ピリリルル』


 何やら植木鉢みたいなものを抱えてノシノシあるく怪獣みたいな姿のフレンドが画面に映って、私はちょっと悩んでから納得した。


 いやあ自由だね!


 半分ぐらいは自分の手でなんか作るとかできそうにないけど、どうやって文明を発達させたんだろ。それとも人類が接触して、作業用のツール用意してあげてから急激に発達したんだろうか。そういうのあんまりよくない気もするが、まあ侵略クソボケ宇宙人どもの事があるからね、自衛出来る程度の戦力がないと文明もくそもないしな。


 人類だってあと200年連中の到来が早かったら抵抗できずに絶滅させられていたかもしれないし。


 やっぱあいつら滅ぼすべきだよな。世の中平和だしクソ宇宙人鏖ツアーというのも悪くないかもしれない……いや、駄目だ。今度こそ、そういう事に可愛い我が子をつきあわせない、と決めたんだ。


『ピリル?』


「んー、よしよし。ま、目覚めてまだ一年も経ってないしな。お前がやりたい事、したい事を見つけるのはまだまだこれからだもんな」


『ピルルルゥ~』


 腹を抱きかかえてわしわししてやると、手足をじたばたさせて喜ぶアース。この、つるつるぷにぷにの肌、撫で心地が癖になるんだよなー。


 ともかく。今のアースに何か望みを尋ねても、「ママの役に立ちたい!」しか返ってこないのは目に見えてる。もうちょっと、情緒とか経験を積んでから、この子の願いを改めて聞くべきだろう。


 まあそれに、私が手を下すまでもない、というか、今の人類は侵略宇宙人を自力でボコボコにしてるらしいしな。全人類と同じ数だけのフレンドがいるし、フレンドは戦闘用でないというだけで、基本スペックはあくまで神獣兵水準だ。人類と協力すれば、十分に宇宙人ども殲滅だ! が出来るスペックはある。


 というか、兵器との組み合わせによっちゃあ普通に上回ってくる。地球でダチョウやらかした私を追いかけてきた戦闘機、どうもフレンドがコントロールしていたようだし。単体では音速を越えられないフレンドに、鋼鉄の翼とジェットエンジンを付け足す、いわば拡張武装だろうか。それに人間の状況把握からの指示が加わって、うん、あれがもし200年前の宇宙人戦争の時代にあったら、全然状況は違ったろうな……。


 プテラが音速で飛べてかつミサイルぶっ放してくるようなもんだ。宇宙人は殲滅される。いいね、素晴らしい。


 まあアースはそれを子供扱いできる異常スペックなんだが……。私の護衛の為らしいが、どんだけリソースぶちこんで、どれだけ時間かけてこの肉体を構成したんだか。50年ぐらいかけててもビックリせんぞ。


 でも精神はまだまだ赤ちゃんなんだよなあ。私がしっかりしないとね。


『ピィルルル、ルルル』


「ほーれほれほれ、ここがいいのか? うん、ここがええのか?」


『ピィルルウウウウ~』


 喉元の弱い所を擽ってやると、手足をびくんびくんさせて脱力する銀色の竜。ひっひっひ、私はママだぞ、お前達の弱点なんぞお見通しよー!


「うりうり~……お?」


『え~、それでは、本日のぐうたら手料理のお時間です』


 と、テレビでは番組がニュースから料理番組に切り替わった所だった。映像の中では、若い青年とシックなフォントが並んでいる。


 何々、独り暮らしの美味しくて簡単な手料理?


『えー、本日は、地球に伝わる伝統料理、餅を作っていきたいと思います。宇宙の皆さんには馴染みが無いかもしれませんが、これは僕の故郷、日本で伝統的に食べられている料理でして』


「ほうほう」


 餅か、懐かしい。んなもん、戦争中には食べられなかったからなあ。


『ピリルルル?』


「ああ、餅ってのはもち米を蒸かした物に丹念に打撃を加えて、でんぷん質をものすごく活性化させてねばねばした状態にした料理の事だよ。そのまま食べてもいいし、固まったのを再加熱して再び柔らかくして食べたりするんだ。保存もある程度利く。美味しいよ」


『ピリルルル!?』


 え、粘着性のあるものを口にいれたら呼吸できなくならない!? だって? うん、まあ、その側面はある。


 実際、正月になると大量のご老人を冥府に送るキリングフードと化すしな……。知ってる? アメリカでの冷凍七面鳥爆発事故による死者とか、フグ毒での死者よりも、はるかに餅を喉に詰まらせての死亡事故の方が多いって言うの。日本人の変なとこだよな、美味しければ致死性があっても気にしないっての……かくいう私も餅大好きだけど。


 そう信じられないアホを見る顔をしないでくれ、アース。君も食べたら分かる。病みつきだぞ。


『ええと、それで、今回は特別に、こんなものも用意してみました』


「ん?」


 そういって画面の青年が見せてきたのは、何やら銀色に光り輝く餅のようなもの。なんだこれ、銀箔でも練り込んだのか?


『実はこれ、審査が通ってごく少数わけて頂いた銀シャリ麦を何割かもち米に加えて作ったお餅なんです。殻ごといれたから、この通り綺麗な銀色に。勿論、おもいつきや悪戯心からじゃありません。日本では、古来から神に供える為に特別なお米を天皇陛下がお育てになって、それで作ったお酒を奉納したりする秘密の行事が存在しまして。それにあやかり、我らがグランドマザーの復活を記念して、こうしてお餅にしてみたのです。餅には邪気を払う、という言い伝えもありまして、縁起物なんですね。我らがビッグママの平穏を願って、今回はこの餅で料理を作っていきたいと思います』


「…………!!!!」


 がばあ、とベッドから立ち上がる私。


 そのまま、画面に食い入るように見つめる。画面の中で、銀色の餅は他のお餅と同じように積み上げられ、次々と料理人の手で美味しい料理に姿を変えていく。


 てらてらと醤油に照り輝く磯辺焼き、琥珀色に煌めくタレを絡めたみたらし、さらにはピザソースとチーズと合わせたチーズ風焼餅……!!


 画面の中でがぶじゅ、と餅が食い千切られ、びろーんと伸びて糸を引く。あまじょっぱいタレと、もちもちっとした触感のコラボレーションが自動的に私の記憶野で再現された。これ絶対美味い奴ぅ~。


 口元から滴る涎をじゅるり、と口に戻して、私はベッドの上から飛び上がった。


 こ……これだぁ!!! これこそが銀シャリ麦をもっと食べてもらうのに必要な事!!


 そうだ、禁忌だなんだと言われても、他に食べ物がたくさんあっても、美味しければ人は食べる! うなぎが絶滅寸前だろうが、蟹の漁獲量がどれだけ減ろうが、おいしかったら食べるもんね!! なんだったら美味しければそれまで外道として捨ててた魚だって食べるのが人間だ!


 これまで、直に食べる前提だったからいけなかったのだ! 美味しく美味しく料理すれば、きっと皆だって銀シャリ麦を食べる筈!!


 間違いない!!


『ピル? ピルルル??(ママ? なんかさっきから言動がおかしいよ??)』


 ええいアース、止めるな! ママにも譲れないものがあるんだ!


 私はベッドの枕元、何かあったら押してくださいね、と言われていた呼び出しに飛びついた。


 反応はすぐにあった。


『はい、こちら、アマノトリフネ総司令部。葛葉様、何かありましたか?』


「偉い人に相談したい事がある! 銀シャリ麦の事でやりたい事があって、許可が欲しい!!」


 うぉおー、テンション上がってきたぞ!!






 尚、私の提案……「アースの超次元ゲートで距離とかチャンネル関係なく全宇宙に銀シャリ麦料理番組を届ける」というものは、偉い人の土下座で却下されました。


 そんなあー、ぐすん。


 いい考えだと思ったんだよ、空にこう、虹色のスクリーン展開してさ、そこに私とアースで並んで料理番組を、全世界に国境も人種も関係なく平等にお届けする、みたいな。


 ……規模がデカすぎるから駄目? 各国、各種族の行政担当が過労死する? そっかあ……。そりゃそうか……。


 じゃ、じゃあ、私自らテレビ局に乗り込んで……担当者が失神するし、テレビ局の利権になっちゃうから駄目? すん……。


 じゃ、じゃあさ、テレビで紹介してた若いお兄ちゃん、あの人の番組にゲストとして参加するのは? これなら、名誉とかはあのお兄ちゃんのものになるし、どっかの組織の利権にはならないんじゃないかなあ? ねえ、駄目?


 ……え、いいの!? やったあ!!


 それで、料理人の名前? ええと、確か、テレビ画面には……。


 そうだ、トオル! トオル君っていうらしいよ!


 へへ、トオル……信じてるからな! ぜひこの宇宙に銀シャリ麦料理を広めてくれ!!




◆◆






「へっぷし!!」


『ミルル?』


「ああ、大丈夫だよ、カフェオレ。ふふ、どこかで噂されてるのかな? 俺も有名になってきたって事で……ん? プロデューサーから電話? はいはい、次の仕事の依頼かな?」


























「え??????????」






◆◆




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