『身に覚えが……ある事ばっかりだぁーー!?』
「うーん、うーん……はっ!!」
『ピリロロロ』
やたらと息苦しい夢から帰還し、私はベッドからむくりと身を起こした。目覚めた私を、アースがべろべろ舐め回しながら抱き着いてくる。
やりたい放題されて涎塗れにされつつ、私はふぅ、と安堵の息を吐いた。
「……ゆ、夢か」
そうだな。何故か逃げ出した先で人間と宇宙人が揃って会議してる所に飛び込んじゃって、そこでまるで神様崇めるみたいに手を合わせて拝まれるとか、母様仏様葛葉様、という感じで持て成されるとか、うん、無い無い。
我ながらどんな夢を見てんだ。
いや、元とはいえ男に生まれた以上はさ、強くなりたいし偉くもなりたかったし何ならたくさんの人にああやって持て囃されるのとか悪い気はしないけどさ、流石に年を考えようよ。悪趣味じゃん、あんなの。
ていうか悪の大総帥かよ。傍らにドラゴン控えさせて臣下を這いつくばらせてるとか。終盤で絶対裏切られて没落した揚げ句ボロクソに言われる奴でしょ。
ちなみに個人的には崩壊するお城で高笑いしながら瓦礫に潰される末路を希望。どうせ退場するなら大物ぶりたいよね。でも最近、大器の悪の親玉って人気ないらしいよね……いや最近っつっても平和な時代の話だから何十年前だよ……。
いかん、考えがこんがらがって纏まらん。寝起きで変な事考えるもんじゃないな。
「ふぅー、変な夢みた。私も寂しかったのかね……うぉ、い、いや、今は違うからな、アース。お前がいるから私は寂しくないって、わぁ」
『リロリロリロ』
何だかより激しく舐め回したあげく、私をひょい、と持ち上げてぬいぐるみみたいに抱きかかえてくるアース。いや、別に苦しくはないんだけど、どうした? スキンシップ不足?
小金井さんの朝ごはん作らなきゃならないから放して欲しいんだが……あれ。
「……? ……ここどこだ?」
ベッドだったから勘違いしていたが、あれ、この部屋、見覚えがないぞ。というか、ベッドが記憶にあるそれの数倍ぐらいに巨大化している。キングサイズどころかエンパイアサイズではこれ。アースと一緒に寝れるサイズぞ。
それに合わせて部屋もやたらとひろーい。真っ白な床に壁に、見れば天井にはシャンデリアみたいなものまで吊るしてある。壁にはよくわからないけど凄そうな芸術品の数々。油絵の大半はぱっと見わかんないが、よく見ると見覚えがあるようなないような。
燃える炎を背に立つ怪獣?
ピンクの布を肩に巻いた少女?
聳え立つ白い大木?
「うぅん? なんだここ……小金井さんの家じゃないのか? アース?」
『ピルルルゥ』
首を傾げてアースに尋ねるが、アースは私を抱きかかえたまま周囲に警戒を送るばかりで答えない。
いや、この子が本当に危機感を覚えてたら、とっととワープで逃げ出すなり、口から破壊光線(厳密には当たった座標の空間ごと消し去ってるらしい、怖っ)発射して全てを破壊しているはずだ。少なくとも、危害を加えられる心配はない。
だとしると何に警戒しているんだ? 敵ではない、という事? でもじゃあなんで警戒?
私が頭の上に?マークを並べていると、コンコン、とドアをノックする音がした。
「?? どうぞ~」
「あ、ああっ! お目覚めになられたのですね!!」
反射的に合図を出すと、部屋に入ってきたのは一人の女性だった。
茶髪のロングヘアで、パリッパリの青いスーツに袖を通したいかにも外交官とか高官とかやってそうな滅茶美人。
彼女は青い瞳に涙を浮かべると、私に向けて深々と腰を折って頭を下げた。
お辞儀である。
「お帰りなさいませ、我らが母! 子息一同、貴方様のご帰還を永くお待ちしておりました!!」
「…………??????????」
どうやら。
悪夢は終わってないらしい。
◆◆
夢 じゃ なかった。
「アバババババババババババ……」
「そ、その。大丈夫ですか……?」
やってきた女性は、柏木美鶴さんと名乗った。
なんと、あの柏木少将の子孫でいらっしゃるらしい。そんな彼女が、私に滔々と語り聞かせてくれたのは、ある英雄の昔話である。
一般人でありながら、他の市民を逃すために囮をかってでて。
無念にも侵略者に掴まり、原形が残らない程の肉体改造を施されて全てを失い、挙句生物兵器の卵を植え付けられて徹底的に尊厳を踏みにじられ。
しかし、その生物兵器と絆を結んで研究基地を破壊して脱出、以降3年以上、放浪しながら人々を救い侵略者を撃退し続けた。
そんな彼女を、人類軍は危険人物として付け狙い、ついには銃弾を撃ち込むまでに至るも、それを許し。
それどころか人類軍に埋め込まれた侵略者の破壊工作を白日の物とし、人類軍に蔓延していた閉塞感を打ち払い、それにとどまらずまたしても自らを囮に呼び寄せた侵略者のドロップシップを撃退、侵略を大きく停滞させる。
その後も、不義理を働いた人類軍を敵視する事なくつかず離れずの立場で戦い続け、やがては地球全土を襲ったディスペア災害に毅然として立ち向かい、最終的には地球の全ての命を守る為、マザーツリーと化して人の姿すら捨てて人々を救ったという。
それどんな神話の大英雄ですか? みたいな人物の話。
困った事に、それがどうやら私の事らしい。
「い、い、いや、私そんな大それたこと考えてた訳ではなくてぇ……」
「でも3年以上、単独で侵略者を倒して回っていらっしゃったのですよね?」
「そ、そ、それは、可愛い我が子の復讐の為であってぇ……」
そして否定しようにも、美鶴さんはめちゃめちゃロジカルに押しが強かった。
「復讐が理由であっても善行は善行でいらっしゃいます。巌窟王とか読まれた事、あります? あの作品の主人公、復讐者だけど間違いなく善人ですよねー」
「い、いや、エドモン・ダンテスと同列に語られてもぉ……い、色々ヘマしたし? 一般市民の方は大して助けた訳じゃないし……」
「あははは、ご冗談を。毛布のキティもそうですが、貴方様に助けられたという市民のエピソード、50以上ありますよ。なんならこのように本になっております、ほら」
そういって彼女が差し出してきたのは、分厚い辞書みたいな小説本。なんかベッドの横の小さな本棚に、当たり前みたいに置かれてた。
ちなみに、全三巻ぐらいある。
「い、いや、そういうのって盛られてるのがお約束でしょ?」
「あ、ちなみにこれ、軍の正規報告書をベースにしてるので、基本的に全て実話です。検証も済ませてありますよ。ほら、中身見てください」
「……ほ、ホントだ」
ちらっと見たけど、凄くお堅い口調で覚えのある事しか書いてない!! そういやそんな事あったね、宇宙人の死体を操って市民を安全地帯まで誘導したり、お寺のお坊さんを説得して逃がしたりとか、うん、まあ我ながら色々やってたなあ。
……じゃなくて!!
「だ、だからって、こう、神様みたいな扱いはこう、大げさじゃないかな……?」
「地球丸ごと救ったのは神話に分類されるべき偉業だと思われますが。まず極東地域だけでも何百万人。その後、葛葉様がマザーツリーと化した結果救われた命は、その後100年で数えても数十億人に到達するかと……」
そういって彼女が手にしたスマホみたいなもので提示してくれたのは、あの後の人口増加率。これを見ると数十億人といっても大分低く見積もった数字だと分かるが……。
「い、いや、それは人類が頑張ったからなので……私はその、勝手に木になっただけだしぃ……」
「それでは、仮にディスペア災害が十分の一の被害で済み、地球がギリギリ生物が生息可能な環境を維持できた場合のシミュレーションを出してみましょう」
そういって出されたグラフは、人口が一時期上昇した後、がっくんと折れ曲がるように減少して0になる様子が記されていた。
「侵略者達による大地の重金属汚染や大気汚染による公害、それによる食料不足、水不足。一時的に平和になったとしても今度は数少ない土地を巡って争いが発生するなどして、残念ながら人類は100年以内に絶滅します。ですが、現実にはその十倍以上の被害が出ていながら、人類はこうして復興し、繁栄し、宇宙に進出する事すらできました。さて、果たしてこれはどなたの御蔭なのでしょう?」
「さ、さあ、大した奴もいたもんだねえ……な、なあ、アース? ……アース??」
『ピッピロリロ! ピィ! ピピ~~!!』
この場をなんとかやりすごすべく、絶対的な私の味方に声をかける。が、当の銀竜は私の声なんか聞こえない様子で、夢中になって渡された冊子に目を通していた。目が無いのに文字が読めるの? というつっこみは置いておく、この子、なんていうか特別だからな。
それはともかく、私の過去の活躍について記載した本を一読したアースは最初の警戒心はどこへやら、尻尾の先をぷるぷる振りながら猫なで声で美鶴さんに「ねえ、続きないの? 他のはないの?」と催促している。
それをみて、ニンマリ、と美鶴さんが微笑んだように私には見えた。
「勿論、たくさんありますよ。お母さまの活躍や、それを褒めたたえる本ならいくらでも。ニンバス!」
『ミュイミュイ』
美鶴さんが指を鳴らすと、扉の向こうから一匹のフレンドが台車を押して入ってきた。
脚がたくさんあるハリネズミみたいな、面白い見た目のフレンドちゃん。彼女? は台車をてくてく私の前まで持ってくると、その台車に山と積まれたいくつもの本をアースに差し出した。
「葛葉様やチルドレンの皆さまのエピソードについて語られた本です! 人類居住区を救った時のエピソードを元に描かれた“毛布のキティ”! 岩国基地防衛戦について書いた“裏切りの銃弾”、一緒に戦われたメタヴァルキリー初代隊員の方が執筆された“鋼鉄の戦輪”、他にもよりどりみどりですよ! どうぞ、ご兄弟の活躍について、目を通していただければ!」
『ピィゥ~~!』
私でも聞いた事がなかったようなご機嫌な声を上げてたくさんの本を抱きかかえるアース。そ、そうか、この子、元々はディスペア系列だから、厳密にはうちの子ネットワークとは別口なんだよな。だから記憶の引継ぎや情報共有も完全じゃないから……そりゃ興味あるよな。
じゃなくて!!
「あ、アース、嘘だよな? お前だけは私を裏切らないよな??」
『ピィルゥ??(何いってるのママ、この人とってもいい人だよ??)』
しかし返ってきたのは無邪気な声。アースは美鶴さんとニンバスちゃんにすっかり気を許してしまったようだ。
か、陥落されてるぅ~~~!?
思わぬ裏切り? に愕然とする私。こ、ここに、味方はいない!
うわーん!!
もう寝る!! ほっといて!!
「あ、葛葉様……」
『ミュイ?』
『ピリルルル?』
もそもそとベッドの上に上がり、布団に丸まって小さくなる。
何も聞こえない、何も見えない~。私はこのまま一生布団の中にいるぅ~~。
「葛葉様? くずのはさまー? うーん……。ご機嫌を損ねてしまったようです、どうしましょう?」
『ピロリロ!(お腹すいたんじゃないかな!)』
「そうですね、じゃあ、ご飯をお持ちしますので、少しお待ちください」
しばらくすると、美鶴さんの気配が部屋から消える。
もそもそと布団から顔を出すと、彼女の姿は部屋になく、残されたニンバスちゃんとアースが楽しそうにお喋りをしていた。
『ピリリロロ!(それでね、それでね。ママがぎゅーっとしてくれたんだ!)』
『ミュイミュイ、ミュウ!(そっかぁ、そうだったんだね! よかったね、素敵だね!!)』
『ピリリロロロ! ……ピロ? ピピリピ!(お兄ちゃん達も助けに来てくれたんだ。アステリオス兄ちゃんには会えなかったけど……え、銅像が立ってるの!? 今度ママと見に行くよ!)』
……随分楽しそうに話してるね、アース。
いや、君が私の他の命に興味を持つのはいい事だよ、うん。友達は多いに越したことはないし。うん。別にいつだって私を最優先にしろともいわないよ? うん。
だけど……。
ちょっと寂しい……。
私はタオルケットミノムシになったまま、ベッドの上から楽しそうに話す子供たちをぼけーっと見つめるのであった。
ぐすん。
「……ん?」
私の嗅覚が、香しい匂いを補足したのはその時の事だった。
こ、この……スパイシーで香しい、刺激的な香りは、まさか……!
喪われた文明の香りにふるふる震えていると、コンコン、と再び扉をノックする音。向こうから、美鶴さんの声が聞こえてくる。
「葛葉様、お食事をお持ちしました。召し上がれますか?」
食べるぅーーーー!!
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