第2話「一人と一匹の畑」
リナさんの説得のおかげで、ギルマスさんは渋々ながら、村のはずれにある打ち捨てられた畑を使う許可をくれた。ただし、条件が一つ。
「もし、秋の収穫でお前が他の村人たちより多くの作物を育てられなかったら、すぐに出ていってもらう。いいな?」
それは事実上の最後通告だった。失敗は許されない。
「ありがとうございます!やってやりますよ!」
俺は拳を握りしめた。不安よりも、やっと腕を振るえるという高揚感の方が大きかった。
リナさんは約束通り、毎日手伝いに来てくれた。村人たちは遠巻きに俺たちのことを見ているだけで、相変わらず冷ややかだ。
「タクミさん、本当にこんなもので土が良くなるんでしょうか……」
リナさんは、雑草や家畜の糞が積み上がった小山を、恐る恐る見つめている。
「大丈夫。言ってみれば、土のご飯みたいなものだから。これを畑に混ぜ込めば、土が元気になって、美味しい野菜がたくさんできる」
俺はそう言って笑いかけた。まずは堆肥作りだ。毎日、山を切り返し、適度に水をやる。発酵が進むにつれて、独特の匂いが立ち込めたが、それは俺にとって懐かしい、良い土の匂いだった。
並行して、畑の石を取り除き、水路を掘る作業も進めた。この村は川から畑まで距離があり、水運びが重労働になっている。小さな水路さえあれば、その手間は格段に減るはずだ。
だが、作業は困難を極めた。固い地面をクワ一本で掘り進めるのは、想像以上の重労働だ。リナさんも手伝ってくれるが、二人だけでは限界があった。
そんなある日の午後、疲れ果てて森の木陰で休んでいると、茂みの奥からか細い鳴き声が聞こえてきた。
「……なんだ?」
気になって近づいてみると、そこにいたのは一匹の小動物だった。リスのようにふさふさした尻尾に、子犬のような愛らしい顔。だが、その足は狩猟用の罠に挟まれ、ぐったりとしている。
「うわっ、大丈夫か!?」
俺は慌てて駆け寄り、慎重に罠を外してやった。幸い、骨は折れていないようだ。持っていた布で傷口を縛り、水筒の水を飲ませてやると、その小動物は潤んだ瞳でじっと俺を見つめてきた。
「よし、もう大丈夫だぞ。森へお帰り」
そう言って離そうとしたが、小動物は俺の足元から離れようとしない。それどころか、俺のズボンの裾をきゅっと掴んで、ついてくる。
「まいったな……。仕方ない、俺たちの畑に来るか?」
リナさんはその小動物を見るなり、「かわいい!」と歓声を上げた。俺たちはそいつに「ポチ」と名付け、一緒に畑へ連れて帰ることにした。
不思議なことが起こったのは、その翌日からだ。
ポチは畑の隅っこで丸くなっているだけだったが、俺たちが作業をしていると、時々、その体が淡い緑色の光を放つのだ。そして、その光が地面に吸い込まれていく。
最初は気のせいかと思った。だが、明らかに畑の様子が違ってきた。昨日まで固かった土が、心なしか柔らかくなっている。水路を掘るクワの入り方が、昨日とは全く違う。
「タクミさん!見てください!」
リナさんが指さしたのは、試しに植えてみたカブの芽だった。植えてからまだ数日しか経っていないのに、双葉が力強く顔を出している。成長速度が異常に速い。
「まさか……ポチのおかげか?」
俺がポチに視線を向けると、ポチは「きゅい!」と得意げに鳴いて、ふさふさの尻尾を振った。どうやら、この小さな同居人は、ただの動物ではないらしい。植物の成長を助ける、何か特別な力を持っているようだ。
「すごいよ、ポチ!お前、もしかして神様か何かなのか?」
俺が頭を撫でると、ポチは気持ちよさそうに目を細めた。
一人と一人で始めた畑は、こうして一人と一匹の畑になった。強力すぎる助っ人の加入で、俺の計画は一気に加速していく。
村人たちの冷たい視線も、今はもう気にならない。俺には、信じてくれる仲間がいる。そして、この手には、世界を変えるだけの知識があるのだから。
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